【Interview】「残したかったらどうするのか!」『ベルリン・アレクサンダー広場』 劇場公開&DVD・Blu-ray発売 担当者インタビュー 

R.W.(ライナー・ヴェルナー・)ファスビンダー監督『ベルリン・アレクサンダー広場』が、前回の上映から10年を経て、デジタル・リマスター版で甦った。幻といわれた全14話・15時間という“怪物的”超大作を一目劇場で観ようと、渋谷ユーロスペースには多くの観客が押し寄せている。
一筋縄ではいかないこの作品が、一体どのような道のりの末に、再びの劇場公開とDVD・Blu-ray発売までたどり着いたのか。株式会社アイ・ヴィー・シーの担当者・森田佑一さんにお聞きした。
映画が公開され、ソフトパッケージ化されるということもひとつの「ドキュメント」である。 
(interviewer/text by 加瀬修一 (contrail・『ベルリン・アレクサンダー広場』宣伝))

―― 3月16日(土)に劇場公開が始まりました。初日は溢れるほどの大入り満員、その後も連日たくさんの方が来場しています。

森田 ありがとうございます。最悪僕の近しい人達だけは喜んでくれるだろう……くらいに思った時もあったので(笑)、本当にうれしいです。

―― 全14話の続きもので上映時間が15時間という『ベルリン・アレクサンダー広場』は、企画としてはかなり難しいものだったと思いますが。

森田 アイ・ヴィー・シーという会社は、これまでDVDやBlu-Rayのソフトを制作・発売するのがメインの会社なんですが、現在業界全体の映画のDVDソフトの売上がかなり落ちてきています。当然これだけでは先の見通しが芳しくないということで、パッケージだけじゃないやり方を考えなくてはいけないという意見が社内でも強かったという背景はありました。特にここ数年は、作品を出していく方法として配信やTV放映など色々な選択肢の中に、劇場公開もあったんです。

音楽業界ではCDの売上自体は厳しいけれど、LIVEにはお客さんが入っているという話を聞くんですね。だからといって映画の興行が同じだとは簡単にいえませんが、共通の「体験」としての劇場公開を是非やりたいと考えていました。その中でどんな作品をやろうかといった中で、ここからは多分に僕個人の趣向性というかこだわりというか(笑)、大手メジャーのやらないもので、かつしっかりとお客さんに届くもの、届ける価値があるんじゃないかというものをやりたいと考えた時に、自分が10年前に劇場で観て、「体験」として強烈に記憶に残っていたR.W.ファスビンダーの『ベルリン・アレクサンダー広場』を思いついたんです。

―― それは、どれくらい前のお話ですか。

森田 アイ・ヴィー・シーに入社する前からずっと考えていたことではあるんですが、2年くらい前ですね。
スクリーンで観たかったのがこの作品だったんです。震災やそれに伴う事件で気分もあったかな……。とにかく、今見たい!と思ったんです。

『ベルリン・アレクサンダー広場』©2006 – Bavaria Media GmbH LICENSED BY Global Screen GmbH 2012, ALL RIGHTS RESERVED

―― 企画を動かす時に、そういう思い入れはとても重要だと思います。森田さんにそう思わせたものは何だったんでしょうか。

森田 10年前の公開の際、大学の先輩の平沢剛さんがパンフレットの編集などに関わっていて、平沢さんにはものすごく影響を受けたので、ファスビンダーへの関心というよりも平沢さんが見ろというので見に行きました。そしたら当時友人たちや劇場で見かける人たちがみんないたんですが、連帯感もあったし(笑)、見続けているうちに映画体験として普通じゃない感じがして、興奮しました。それまでに見た映画と比べてすごく異質で強烈に印象に残る「体験」として、その時に刻まれた気がします。

―― ファスビンダーの作品には、洗練された美意識と粗野な人間臭さが混在していて不思議な中毒性がありますよね。さらに企画を実現化する具体的な要因は何だったんでしょうか。

森田 具体的には、昨年がファスビンダー没後30年ということで、今回字幕を担当して頂いた渋谷哲也さんを中心とした方々が、ファスビンダーという監督とその作品を盛り上げようという活動をされていたこと、河出書房新社から原作小説が40年ぶりに復刻されたことなど「いましかない」みたいな流れがちょうど来ていたんです。ちょっと僕の思い込みも入っているかも知れないんですが(笑)。それで会社に企画を出しました。

―― とはいえ、すぐにOKとはいかないですよね。

森田 その通りです(笑)。ただチャレンジとしては理解してくれました。というのも、僕が入社したばかりの頃に「アレクセイ・ゲルマンDVD-BOX」を企画したんです。それが業績としてはそこそこな及第点を取っていたという実績があったので、今回もやってみろということでGOサインが出たんだと思います。あと、ちょっと前に「ジャン=リュック・ゴダール+ジガ・ヴェルトフ集団 Blu-ray BOX」と「DVD-BOX」を発売していて、これが劇場公開やTV放映までやった企画で、パッケージの売れ行きも好調だった。これだ!と(笑)。「ファスビンダー、大丈夫なの?」という意見に対して、「ドイツのゴダールです!」みたいな感じで説得しました。

―― 森田がそういうなら、と信じてもらえた訳ですね(笑)。

森田 そうだと思います(笑)。

トークイベントの様子(檀上は左から 中原昌也さん、渋谷哲也さん、五所純子さん)

―― 実現に向けて、社内では具体的にどういう動かし方をしたんでしょうか。

森田 この企画に割ける人員も時間も制限があるので、基本的には僕が中心となって、ひとりで全体を見ていかなければならないというのは最初から覚悟して臨みました。予算にも限りがあるので、まず出来る範囲のことをやる、そして届けられるところにしっかり届けるということを考えないといけないと思いました。もちろん公開するからにはお客さんを入れなければならない。ただ、やみくもに数打てば当たるみたいな広告を打つことは、当初から考えられなかったですね。

―― ひとりで進行することのプレッシャーは想像に難くないんですが、逆にひとりでやることで、自分のイメージ通りというかビジョンを捉えやすいという面もあったんじゃないですか。

森田 そうですね、側面としてはありますね。ただ悪く作用すると自己中心的というか、盲目的になるので、宣伝の加瀬さんやユーロスペース支配人の北條誠人さんに色々と相談しながら進めていけたのが良かったです。そういう信頼できるひと達に頼っていけるというか。デザイナーの成瀬慧さんには、これまでもいくつもパッケージのデザインをして頂いて、もはやタッグを組んでいるというくらいなんですけど(笑)、デザインの枠を超えて宣伝に関するアイデアを一緒に考えてもらっているのがすごく助けられています。

―― 今回はチラシの形状も攻めていますよね。

森田 成瀬さん(宣伝美術)は単にビジュアルだけでなく、もっと作品に踏み込んだところからアイデアを出してきてくれるので、お互いに話していくといつもこちらの想像を超えたデザインが出てくるんですよね。4つ折りにしたのは、劇中で主人公が新聞の販売員になるエピソードがあるので、それを意識した作りになっています。

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チラシのビジュアル 3種類            © 2013 IVC,Ltd All Right Reserved

 ―― 今回は劇場公開用のビジュアルとパッケージのビジュアルが同時進行でした。ということは、興行とソフト発売が同時進行というハードな状況です。サポートがあるとはいえ、スケジュールはタイトだったんじゃないでしょうか。

森田 なかなかお話するのも難しいんですが(笑)、これは会社の決算時期などもあって、劇場公開とパッケージ販売が同時期にならざるを得ないという状況があったんです。それで3月というのがまず決まって、北條さんに相談したら劇場のスケジュールは空いていると。学生さんは春休みだし、長尺の上映にはいい時期かも知れないからチャレンジしてみようかと乗ってもらいました。あと直接作品とは関係ないんですが、何か世の中が揺らぐ時期にこの映画がかかっていてほしいというという気持ちがあって、3月11日に近い日にちで公開を始められたのはよかったと思っています。パッケージは、個人的に我慢できないという気持ちがあったのも事実です。

 ―― 我慢できない?

森田 一気に全部やり切りたいというか。パッケージの宣伝ということで考えれば、同時期にやる必要は全然ないんです。ただそういう企画じゃない。公開もパッケージ  も同等に大事にしたかったんです。一気に出したい、そうしたら結果的にこのスケジュールになりました。やってみたら、もう少し時間がほしかった(笑)。

―― それでもDVD、Blu-ray ともに、デザイン性・資料性の高い充実した仕様になったと思います。

森田 劇場での「体験」というのはもちろんあるんですが、この作品がTV映画として製作されたことを考えると、元々の成り立ちというかオリジナルに近い「体験」をしてもらえるようにしておかなければ、と思いました。海外では多くの国で『ベルリン・アレクサンダー広場』はVIDEOやDVDが発売されているんですが、日本は一度も出ていない。いつでも作品を再現できる、元に戻せる手段としてパッケージにしておく意味があると考えています。特にBlu-ray化は世界初なのでうれしいですね。ブックレットも渋谷哲也さん、粂田文さん、中原昌也さん、柳下毅一郎さん、斉藤綾子さんに、熱のこもった文章を書下ろしていただきました。

―― 劇場でスクリーンを見上げるのも、部屋で画面に食い入るのも、それぞれの「体験」で優劣ではないですよね。僕も以前パッケージ販売の会社で働いていたので、手元にその映画がある喜びや満足感、自宅でソフトを観る楽しさは良くわかります。

森田 あともうひとつ、パッケージ化しておくことで、ファスビンダーの研究に役立てばうれしいなと思っています。「ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー DVD- BOX 1~5」、合計15作品を発売している紀伊國屋書店さんは、本当にリスペクトしているんです。あれでファスビンダーを観られる状況ができましたから。だからこそ、『ベルリン・アレクサンダー広場』が出ていないのが残念というか、だったらアイ・ヴィー・シーがやるという気持ちもありました。映画の勉強をしている人たち、批評家や研究者がいつでもファスビンダーの作品を観られる環境が整って、その影響を受けた作品や論文が出てくるのを期待したりもします。

―― 作品がパッケージ化されるということは、ソフトとして市場に流通し、広く観られるようになるのと同時に、テキストとして普及するという意味でも重要だと思います。

森田 作品にアクセスできる環境はないよりあった方が当然いいんですよね。自分が学生時代に映画を勉強した経験からも言えます。その方が、いろんな人が見られますし。ファスビンダーの世界とそれを見た人の想像力が融合した作品に触れたい……。妄想ですね(笑)。

―― 現在劇場で公開中の映画の数より、パッケージになっている映画の数の方が多い訳ですよね。だから映画を教えている学校や学部は、ライブラリーの充実とそれを学生に観るよう積極的にはたらきかけてほしいと思います。
森田さん、本当に大変だったと思いますが、実は毎日楽しかったんじゃないですか?

森田 そうですね(笑)。10年前に観たものがレストアされていたこともあって、映画がまた違った見え方がしたし、字幕も渋谷哲也さんと粂田文さんが物凄く前のめりに翻訳してくださったので、作品の印象が刷新されたように思います。その作業に立ち会えたのは興奮しましたね。

 ―― 先ほどの「流れがきている」というお話ですが、昨年末からイメージフォーラムで「ファスビンダーと美しきヒロインたち」という特集で『ローラ』『マルタ』『マリア・ブラウンの結婚』の3本が上映、その後アテネフランセとドイツ文化センターで『あやつり糸の世界』が日本初公開と続きました。

森田 これは全く偶然だったんです。全部観に行ったんですが、どれも面白くて、もう完全に「ファスビンダーきてるな」と思いましたね(笑)。一方で、『ベルリン・アレクサンダー広場』の作業を進めながら、なんでオレこれに手を出したんだろうって(笑)。

―― よりによって一番大変で難しい(笑)。

森田 これやっぱり大変だぞって心が折れそうになったこともありましたね(笑)。

―― 例えば、ゴダールやブレッソン、キューブリックといった監督たちと比べると、ファスビンダーはまだまだこれからという感じがします。

森田 思った以上にまだ観られていないですね。でも手応えは感じています。

―― 今回の上映が、「伝説」の幕開けというか、ひとつの取っ掛かりになればと思います。

森田 そうなるとうれしいですね。『ベルリン・アレクサンダー広場』にファスビンダー作品の持っているものが凝縮されているのは間違いないので、このタイミングで公開と発売したことが今後ファスビンダーを観る機会に繋がっていってほしいと願っています。できればうちでやりたいんですが(笑)。

撮影中のR.W.ファスビンダー監督 ©2006 – Bavaria Media GmbH LICENSED BY Global Screen GmbH 2012, ALL RIGHTS RESERVED

【作品情報】

『ベルリン・アレクサンダー広場』
 
監督:ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー
出演:ギュンター・ランプレヒト、ハンナ・シグラ、エリーザベト・トリッセナー、バーバラ・ズコヴァ、ゴットフリート・ヨーン

1979、1980年/西ドイツ・イタリア/カラー/全14話構成のテレビ映画
/上映時間14時間57分/日本語字幕つき

渋谷ユーロスペースで絶賛上映中!
公式サイト:http://www.ivc-tokyo.co.jp/berlinalexanderplatz/
詳しくは劇場へお問い合わせください

 『ベルリン・アレクサンダー広場』DVD&Blu-ray BOX

3月29日(金)発売
レストアされたリマスター版による全14話、15時間の圧倒的体験!

DVD-BOX ¥26,500(税込) Blu-ray BOX ¥31,500(税込)

☆メイキング映像・映像修復のドキュメンタリーなど、貴重な映像を収録した特典DVDを付属
☆特製ブックレット封入 ファスビンダーのエッセイ、スタッフの証言を採録☆渋谷哲也氏、粂田文氏、中原昌也氏、柳下毅一郎氏、斉藤綾子氏による書下ろし評論・論考

http://www.ivc-tokyo.co.jp/collection/title/1036B.html

                  
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