【Review】すぐそばにある「わからなさ」ーー『上飯田の話』 text 若林良

 上飯田の話、というタイトルを事前知識なく聞いてまず推測したのは、「“上飯田さん”なる人物の話か」ということだった。たとえば、上飯田太郎さんとか、上飯田花子さんとか。いや、もうちょい今風に、かつジェンダーレスなネーミング

【Review】喪失と再生の先に――『ドライブ・マイ・カー』 text 若林良

 濱口竜介監督の『ドライブ・マイ・カー』が公開されている。村上春樹の短編小説集『女のいない男たち』(文春文庫)に収録された同名の短編小説を原作とし、6月に行われたカンヌ国際映画祭では脚本賞をはじめ、計4つの賞を受賞した。

【Book Review】「私の映画言語」とは何か――『まだ見ぬ映画言語に向けて』 text 若林良

「個の姿勢」を尊重すること  本書は、2014年から15年にかけて東京・御茶ノ水のエスパス・ビブリオで行われた、吉田喜重、舩橋淳両監督による「まだ見ぬ映画言語に向けて」と題された対談イベントを書籍化したものである。  4

【Interview】「想像」を駆使して世界と向き合うこと――『ドリーミング村上春樹』ニテーシュ・アンジャーン監督インタビュー text 若林良

  「これは責任と名誉の問題です。どんなに気が進まなくても、みみずくんに立ち向かうしかないのです。もし万が一闘いに負けて命を落としても、誰も同情してはくれません。もし首尾良くみみずくんを退治できたとしても、誰も

【Interview】「個の関係」から生まれる物語――『盆唄』中江裕司監督インタビュー text 若林良

東日本大震災から4年が経過した2015年、福島県双葉町の人々は散り散りに避難先での生活を送り、先祖代々守り続けてきた伝統「盆唄」存続の危機に心を痛めていた。 そんな中、100年以上前に福島からハワイに移住した人々が伝えた

【Interview】「かけがえのない一瞬」を求めて――『寝ても覚めても』濱口竜介監督インタビュー text 若林良

5時間余という上映時間や、ヒロイン5人のロカルノ映画祭最優秀女優賞受賞などで大きな注目を集めた『ハッピーアワー』から3年。『寝ても覚めても』は、濱口竜介監督の商業映画デビュー作だ。カンヌ映画祭コンペティション部門への出品

【Interview】新時代の潮流のなかで――『ゲンボとタシの夢見るブータン』アルム・バッタライ&ドロッチャ・ズルボー監督インタビュー text 若林良

『ゲンボとタシの夢見るブータン』は、「幸福の国」として知られるブータンのある村を舞台としたドキュメンタリーだ。主人公となるのは16歳のゲンボと、15歳のタシの兄妹。彼らの家は寺院で、父親はゲンボに僧院学校での修行を積んで

【Review】想像力という名の山――『クレイジー・フォー・マウンテン』 text 若林良

  多くの本を読みながら、いつしかひとつのことがどうしようもなく気にかかり始めていた。それはヒグマのことだった。大都会の東京で電車に揺られている時、雑踏の中で人込みにもまれている時、ふっと北海道のヒグマが頭をか

【Interview】「白」と「黒」を超えて――『ゲッベルスと私』クリスティアン・クレーネス&フロリアン・ヴァイゲンザマー監督インタビュー text 若林良

第二次世界大戦の終結から70年以上の時を経たいま、当事者の、とくに政権の中枢にいた人間の「証言」という形で映画を作ることは困難をきわめている。しかし、そうしたこころみに成功した稀有な映画『ゲッペルスと私』は、あるひとりの

【Review】「私」の矛盾をみつめて-映画『被ばく牛と生きる』に寄せて text 若林良

読者諸氏には恐縮だが、まず、自身の経験から話をはじめたい。東日本大震災からまもなく7年が経とうとしているが、私は学術的な調査やボランティアの一環で、東日本大震災を経たのちの福島を幾度か訪れてきた。そして訪れた地域の中には

【Interview】根底は「ひとりの人間の強さ」を描くこと――『リベリアの白い血』福永壮志監督インタビュー text 若林良

 渋谷アップリンク他で公開中の『リベリアの白い血』。前半をリベリア、後半をニューヨーク(以下:NY)というふたつの国を舞台とした作品で、リベリアのゴム農園で過酷な労働を強いられる主人公シスコが単身アメリカに渡り、都会の中

【最新刊】ドキュメンタリーマガジンneoneo #09 完全保存版「いのちの記録 障がい・難病・介護・福祉」

7月7日新発売! ドキュメンタリーマガジン「neoneo」#09 完全保存版 「いのちの記録 障がい・難病・介護・福祉」 柳澤壽男特集:講演録、エッセイ、『夜明け前の子どもたち』論 インタビュー:羽田澄子、関口祐加、土肥

【Review】郷愁から遠く離れて――富田克也監督『バンコクナイツ』text 若林良

まず、「地方」ということばについて、それが何をしめしているか、その内包する意味について考えてみたい。そもそも、「地方」と口にするとき、わたしたちは何を求めているのだろうか(ここでの「わたしたち」とは、関東付近の在住者を包

【Review】「見る」ことの深淵へ――ジャンフランコ・ロージ監督『海は燃えている イタリア最南端の小さな島』text若林良

近年、『海と大陸』(2011)、『楽園からの旅人』(2011)といった劇映画の日本での公開によって、イタリアにおける難民問題は、映画館の観客にも身近になりつつあるかもしれない。ジャンフランコ・ロージによるドキュメンタリー

【好評発売中】最新刊!ドキュメンタリーマガジン「neoneo」08 総特集 アジアのドキュメンタリー

12月17日新発売!ドキュメンタリーマガジン「neoneo」#08総特集 アジアのドキュメンタリー巻頭インタビュー 佐藤忠男テーマ別アジアドキュメンタリー論考/作品ガイド「アジアと日本」「ジェンダー」「少数民族」「虐殺の

【新刊】好評発売中!ドキュメンタリーマガジン「neoneo」#07 ノンフィクション×ドキュメンタリー/よみがえれ土本典昭

6月末発売! ドキュメンタリーマガジン「neoneo ♯07」[特集1]ノンフィクション×ドキュメンタリー 文章と記録映像のあいだ[特集2]よみがえれ土本典昭 没後8年 水俣病公式確認60年森達也×ノンフィクション、原一

【Interview】私たちが変わる第一歩は、まず状況を知ること―『バナナの逆襲』フレドリック・ゲルテン監督インタビュー text 若林良

「バナナをめぐる“甘くない”ドキュメンタリー」と呼ばれる、スウェーデン発のドキュメンタリー『バナナの逆襲』が、現在東京を中心に公開されている。口当たりがよく保存も簡単なため、日本人にとっても身近な存在であるバナナ。しかし

【好評発売中】ドキュメンタリーマガジン「neoneo」#06 総特集 ドキュメンタリーの方法

好評発売中 ドキュメンタリーマガジン「neoneo ♯06」総特集 ドキュメンタリーの方法 永久保存版!ペドロ・コスタ監督ロング・インタビュー掲載(来春公開『ホース・マネー』山形国際ドキュメンタリー映画祭2015大賞受賞

【Review】「天皇」を描く意味とは――渡辺謙一監督『天皇と軍隊』text 若林良

日本の125代におよぶ歴代天皇のなかで、その「代表格」のアンケートをとるとしよう。おそらく上位に姿を見せるのは、天武天皇や聖武天皇、また後白河天皇といった、みずからが政治の中心にたった、「傑物」と呼ぶべき存在であるかもし

【Interview】映画だからこそ、「物語」を伝えられる―『皆殺しのバラッド』シャウル・シュワルツ監督インタビュー text若林良

シアター・イメージフォーラムほかで現在公開中の『皆殺しのバラッド』は、メキシコの「麻薬戦争」を扱ったドキュメンタリー作品だ。2006年12月、メキシコ政府が麻薬産業の撲滅のため、密売人たちに宣戦布告をおこなったところから

【Review】私たちはいかに「敵」と向きあうか―鎌仲ひとみ監督『小さき声のカノン』に寄せて text若林良

東日本大震災、またそれに端を発した東京電力福島第一原子力発電所事故をうけて、2015年3月現在に至るまで「原発」をテーマとした数々の映画が制作された。 たとえば、放射線の影響に焦点をあてた劇映画『おだやかな日常』(201

【Interview】ありのままの「フタバ」を提示すること――『フタバから遠く離れて 第二部』舩橋淳監督に聞く text 若林良

2012年、福島第一原発事故によって避難を強いられることとなった、福島県双葉町の人びとを追った1本のドキュメンタリー映画が公開された。舩橋淳監督による、『フタバから遠く離れて』。埼玉県加須市にある旧騎西高校へと、全町避難