【Review】青春Hの意欲作『 ボン脳即菩薩 』 text 杉本穂高

Bonno_flier_ol青春と性をテーマにした作品シリーズ青春Hの第34作目である『ボン脳即菩薩』は性と青春のほか、信仰もテーマに盛り込んだ意欲作だ。

性と信仰は古来より関係の深いもので、神聖娼婦なるものが古代にはあったと言われている。(キリスト教が普及する前は様々な宗教にあった考え)聖なる娼婦的なモチーフはロマンポルノにもピンク映画に限らず一般映画にも度々登場するものだが、それをストレートに具現化するとこうなるのかもしれない。「信仰」と書くと堅苦しいイメージだが、この映画は肩の力を抜いて鑑賞できる。

女とは何かを描く女流AV監督、安藤ボンの新作『ボン脳即菩薩』はそんな聖性を股間に宿す女性の物語だ。主人公、あけみは文字通り股間に観音様を宿しており、それを見ると幸せが舞い込むという。ヤクザ一家とあけみの最愛の男竜二は、その観音様を見せることをシノギにして生計を立てている。そのことにあけみは悩むが愛する竜二のためと仕方なくその運命を受け入れている。そこに霊媒師や竜二の昔の女が絡んできて、復讐劇などが展開される。

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©娯楽TV

冒頭、あけみの父であるやくざの男が生い立ちを語る(安藤監督の実父。本物のヤクザの迫力!)。あけみは生まれながらに股間に観音様を宿している。母親はこれを使って商売にし、父の死後このヤクザ一家はあけみの稼ぎで生計を立てている。ヒモ男の竜二はその稼ぎに乗っかって働こうともしないで悠々自適の生活。このヤクザ一家は気弱なヒットマンやSM嬢など一風変わった人間の集まりだ。

竜二はあけみを利用しているが、あけみの竜二に対する愛は本物。そして真の慈愛の持ち主でもある。股間の観音様のご利益を提供するのも人々を幸せにしたい一心。まさに自らの身体を奉仕の道具としている神聖娼婦のような存在。

竜二にはかつて別の女がいたが、あけみの家に転がり込むことになって別れた。その女はあけみに対する復讐に燃えている。ピンク映画女優倖田李梨がこの復讐に燃える女を怪演している。そしてもう1人あけみとヤクザ一家に復讐に燃える女霊媒師がいる。この霊媒師は過去にあけみの父親に因縁のある人物。彼女の母親があけみの父に捨てられ、殺そうとしたところを返り討ちにされた。その母親と同じ観音様の入れ墨を胸に刻み、復讐を誓っている。半ばインチキな霊媒によって竜二に霊とエッチさせるように持ち込み、珍妙な展開を誘う。

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監督の実父による実録ドキュメント風の導入部が、この映画が監督自身の生い立ちやパーソナリティを強く反映した作品であろうことを想起させる。安藤監督はAVでは緊縛ものを得意としているが、映画の中にもSMに明け暮れる女性2人が登場する。父親に復讐する女というのも彼女の実体験から着想を得たのではないか。

(参照: http://vobo.jp/bonando.html 女流AV監督・安藤ボン INTERVIEW 「女性には誰しも娼婦願望みたいなものが備わっている」)

この映画、監督が女性だからなのだろうが、男性キャラより女性キャラの方が圧倒的に個性が強いし、生々しい存在感を持っているし、主体的に行動するのも大抵女性側だ。徹底的に女性側の欲望や感情を描くのがこの作品の特徴でもある。

安藤監督は上述のインタビューでも語っているが、「女の業を深く掘り下げて行くような作品」を意識して制作しているという。AV作品も制作している安藤監督だが、AVは基本的に男性の性的欲望を満たすために女性は道具立てとして存在する。しかし安藤作品で女性は主体的な存在で、この作品でもむしろ女性を描くために男性キャラが存在している。AVという現場で様々な女性を見つめてきた経験も生きているであろう。劇映画の体裁を取ってはいるが、監督自身の実体験や出会った人物からの影響を色濃く反映しているという点で、自身の過去を記録するつもりで作り上げているのかもしれない。アヴァンギャルドな世界観ではあるが、その生々しさが現実と地続きなっているのでは、と思わせる。AVというジャンルでもリアリティにこだわる同監督。実録ドキュメンタリー風のスタイルを採用するあたりにそのこだわりも見て取れる。

ネタバレは避けるが、あけみはラスト聖なる存在としての役割を終えることができ、お遍路さんとなる。お遍路は漢音菩薩の住む補陀落浄土へ向かう旅、とする説もあるが、あれは自らの失った股間の観音を再び探すということなのだろうか。

性と信仰がテーマではあるが、肩の凝る作りにはせずコミカルにまとめているので肩の力を抜いて楽しめる仕上がりになっている。

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【映画情報】
青春H『ボン脳即菩薩』
(2013年/日本/カラー/76分/ビスタサイズ/ステレオ/blu-ray)

監督:安藤ボン
キャスト:竹内ゆきの イチキ游子 冨田じゅん リカヤ・スプナー 倖田李梨 春繭
     中田寛美 長原翔 五十嵐康陽 ゆらかわまき 安藤利秋
配給・宣伝:アートポート

10月5日(土)~10月11日(金) 1週間限定レイトショー公開!
ポレポレ東中野にて 連日:21時10分より

公式サイト:http://cinema.artport.co.jp/bonno/

【執筆者プロフィール】

杉本穂高(すぎもと・ほたか)
ブロガー。映画、テレビ、オンデマンドなど、映像というオールドメディアのビジネスがインターネットの発展とともにどう変わっていくかを日々追いかけています。映画レビュー、映像ビジネスモデル、著作権に関する記事多数。言論サイトBLOGOSにも参加中。

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