【連載】ウディ・アレンの逆説 ポスト・トゥルース時代のスキャンダル③ text 大内啓輔

セレブリティの生態学 ウディ・アレンはそのキャリアを通じて、「スター・システム」に強い関心を寄せてきた映画作家である。実質的な監督デビュー作である『泥棒野郎』(1969)では、幾度となく犯罪に失敗しては、そのたびに刑務所

【連載】ウディ・アレンの逆説 ポスト・トゥルース時代のスキャンダル② text 大内啓輔

ウディ・アレンの誕生 ウディ・アレンのキャリアを改めて振り返るとき、1977年に公開された『アニー・ホール』について語ることを避けては通れないだろう。アレンとマーシャル・ブリックマンの共同脚本による『アニー・ホール』は、

【文学と記録⑧】ジョン・オカダと物語の不在 text 中里勇太

 ジョン・オカダという日系アメリカ人が書いた『ノーノー・ボーイ』(*1)という小説がある。舞台は第二次大戦後すぐのアメリカ・シアトル、主人公はイチロー・ヤマダという日系アメリカ人二世であり、物語の背景には第二次大戦中の日

【連載】つげ義春「無能の人」考⑨《後篇》 text 正津勉

「別離」 「別離」は、「COMICばく13、14」(1987・6、9)に発表。全48ページ。 これもまた扉絵からみてみよう。ひっそりとした夜景色がそれとのぞまれる。一つ点る街灯のそこだけ、照らされて明るくあり、手前に狭い

【連載】ウディ・アレンの逆説 ポスト・トゥルース時代のスキャンダル① text 大内啓輔

ウディ・アレンはどこにいるのか? ウディ・アレンにとって今のところの最新作となっている『レイニーデイ・イン・ニューヨーク』(2019)は、昨年7月3日に日本での劇場公開を迎えた。ウディ・アレンの代名詞ともなっているニュー

【連載】つげ義春「無能の人」考⑨《前篇》 text 正津勉

第九章 〈無能の人〉後三篇 「やもり」/「海へ」/「別離」 「やもり」 「やもり」は、「comicばく10」(1986・9)に発表。40ページ。〈無能の人〉シリーズ第5作「カメラを売る」と第6作「蒸発」の間に掲載された。

【連載】つげ義春「無能の人」考⑧ text 正津勉

第八章 「蒸発」 無用者 「蒸発」(「comicばく11」1986・12)、シリーズ〈無能の人〉第6作である。全36頁。 ここではまず『前著』第四章をみることに。わたしはそこで「蒸発。これこそ、つげの積年の憧憬という、よ

【連載】つげ義春「無能の人」考⑦ text 正津勉

第七章 「カメラを売る」 ガラクタ屋 「カメラを売る」(「comicばく9」1986・6)、シリーズ〈無能の人〉第5作である。全34頁。 まずもって扉絵からみよう。背にコンクリート壁。前に置かれたドラム缶の上、中古カメラ

【連載】つげ義春「無能の人」考⑥ text 正津勉

第五章 「探石行」 うらを見せおもてを見せ…… 「探石行」(「comicばく8」1986・3)、シリーズ〈無能の人〉第4作である。全27頁。 はじめに扉絵からみたい。かなり山深くの僻村だろう。鬱蒼と茂る杉木立、畑地の向こ

【文学と記録⑦】 大岡昇平と身体 text 中里勇太

 戦争文学の名作として名高い「野火」(一九五二)の著者・大岡昇平。大岡昇平には、自身の太平洋戦争従軍体験に基づく連作小説『俘虜記』(一九五二)がある。その作品群は、一九四五年一月にフィリピンのミンドロ島で米軍の捕虜となる

【連載】つげ義春「無能の人」考⑤ text 正津勉

第四章 「鳥師」 鳥屋と、石屋と 「鳥師」(「comicばく7」1985・12)、シリーズ〈無能の人〉第3作である。それでははじめに扉絵からみることにしよう。 そのまえにこれまでの扉絵の図柄をふりかえっておく。第1作「石

【連載】つげ義春「無能の人」考④ text 正津勉

第三章 「無能の人」 髪と、石と 「無能の人」。シリーズ表題作である。それでははじめに扉絵からみることにしよう。これをしかしなぜ表題作としようとしたか。そこらがわかろう図柄であるのだこれが。 ほんとおかしく滑稽で笑えてな

【連載】つげ義春「無能の人」考③ text 正津勉

第二章 石を売る 「鬼面石」 いよいよ〈無能の人〉六連作となった。シリーズ第一作「石を売る」(85・6)である。当作以降、〈無能の人〉のシリーズ名のもとに、「無能の人」「鳥師」「探石行」「カメラを売る」「蒸発」とつづく連

【連載】LA・ドキュメンタリー映画紀行 〈3〉パンデミック下での映画製作と教育——南カリフォルニア大学プロダクション部門を中心に text 中根若恵

南カリフォルニア大学映画芸術学科のスタジオ外観 世界中で未曾有の事態をもたらしたパンデミックは、映画業界にも深刻なダメージを与えてきた。毎年2月に行われるのが恒例だったアカデミー賞が延期になったのをはじめとして、長引くパ

【連載】つげ義春「無能の人」考② text 正津勉

第一章 ―「COMICばく」 「散歩の日々」 83年正月、つげは、一通の年賀状をある旧知の編集者に送付。宛先は日本文芸社・夜久弘。夜久は、その四年前から「カスタムコミック」でつげを担当、寡作の彼から前章であげたほか7篇の

【連載】つげ義春 「無能の人」考① text 正津勉

  前口上 昨年、2020年、当方は『つげ義春 「ガロ」時代』(作品社)を上梓。これがわたしの著作としては珍しく数少なくはない読者のかたから温かい批評をいただいた。そのなかに熱くもぜひ続篇として「ガロ」以後につ

【文学と記録⑥】 久生十蘭と空襲 text 中里勇太

 前回は「吉田健一と瓦礫」と題したが、変幻自在の技巧を駆使した文体と多彩な作風で「小説の魔術師」の異名をもつ作家・久生十蘭の『久生十蘭「従軍日記」』(*1)の中には、瓦礫ということばこそ現れないが、次のような一文がある。

【連載】LA・ドキュメンタリー映画紀行 〈2〉ロサンゼルス、ロックダウン下で思うこと text 中根若恵

アメリカ社会に根深くはった人種問題の可視化を一気に加速させたBLM(Black Lives Matter)、深刻な大気汚染をもたらした西海岸の山火事、混迷を極めた大統領選に、アメリカ各地でのパンデミックの第二波、第三波の

【文学と記録⑤】吉田健一と瓦礫 text 中里勇太

  小説の舞台としてかつての町や都市のすがたが描かれているとき、それを知るのもまたおもしろさのひとつである。たとえば吉田健一は、小説「瓦礫の中」や「絵空ごと」、「東京の昔」などにおいて作品ごとに時代を設定して東京を描いて

【連載】「視線の病」としての認知症 第17回 社会が動くとき text 川村雄次

「視線の病」としての認知症 第17回 社会が動くとき (前回第16回はこちら) クリスティーンが声をあげたことでオーストラリア社会は変わっただろうか? そんな問いを投げかけたのは、「クローズアップ現代」のプロデューサーだ

【文学と記録④】松井太郎とブラジル text 中里勇太

   遠く離れた土地を舞台とする小説を読むとき、その土地の生活や文化を知るのもよろこびのひとつである。しかしときには知るというよろこびよりもさきに、その異形の相貌をまえに立ち尽くしてしまう作品がある。そのひとつ

【文学と記録③】有森勇太郎の記録 text 中里勇太

 これは作中の登場人物が書いた記録である、と宣言される小説がある。そこでは、かれらの生涯の一時期や、目撃あるいは参加した出来事が語られ、その形式は、渦中で記した日記やノートを基に構成されるか、あるいは後年の記憶を基に語ら