【文学と記録⑧】ジョン・オカダと物語の不在 text 中里勇太

 ジョン・オカダという日系アメリカ人が書いた『ノーノー・ボーイ』(*1)という小説がある。舞台は第二次大戦後すぐのアメリカ・シアトル、主人公はイチロー・ヤマダという日系アメリカ人二世であり、物語の背景には第二次大戦中の日

【連載】つげ義春「無能の人」考⑨《後篇》 text 正津勉

「別離」 「別離」は、「COMICばく13、14」(1987・6、9)に発表。全48ページ。 これもまた扉絵からみてみよう。ひっそりとした夜景色がそれとのぞまれる。一つ点る街灯のそこだけ、照らされて明るくあり、手前に狭い

【連載】ウディ・アレンの逆説 ポスト・トゥルース時代のスキャンダル① text 大内啓輔

ウディ・アレンはどこにいるのか? ウディ・アレンにとって今のところの最新作となっている『レイニーデイ・イン・ニューヨーク』(2019)は、昨年7月3日に日本での劇場公開を迎えた。ウディ・アレンの代名詞ともなっているニュー

【連載】つげ義春「無能の人」考⑨《前篇》 text 正津勉

第九章 〈無能の人〉後三篇 「やもり」/「海へ」/「別離」 「やもり」 「やもり」は、「comicばく10」(1986・9)に発表。40ページ。〈無能の人〉シリーズ第5作「カメラを売る」と第6作「蒸発」の間に掲載された。

【連載】つげ義春「無能の人」考⑧ text 正津勉

第八章 「蒸発」 無用者 「蒸発」(「comicばく11」1986・12)、シリーズ〈無能の人〉第6作である。全36頁。 ここではまず『前著』第四章をみることに。わたしはそこで「蒸発。これこそ、つげの積年の憧憬という、よ

【連載】つげ義春「無能の人」考⑥ text 正津勉

第五章 「探石行」 うらを見せおもてを見せ…… 「探石行」(「comicばく8」1986・3)、シリーズ〈無能の人〉第4作である。全27頁。 はじめに扉絵からみたい。かなり山深くの僻村だろう。鬱蒼と茂る杉木立、畑地の向こ

【Review】古書に魅せられて――『ブックセラーズ』 text 吉成秀夫

はじめて試写で『ブックセラーズ』を見終わったとき、あまりの情報量に驚き、感嘆のため息を一つついてしばし呆然としました。 つぎに見たとき、私はこころみに字幕のカットがいくつあるかを数えてみましたが、1300カットを超えたと

【文学と記録⑦】 大岡昇平と身体 text 中里勇太

 戦争文学の名作として名高い「野火」(一九五二)の著者・大岡昇平。大岡昇平には、自身の太平洋戦争従軍体験に基づく連作小説『俘虜記』(一九五二)がある。その作品群は、一九四五年一月にフィリピンのミンドロ島で米軍の捕虜となる

【連載】つげ義春「無能の人」考⑤ text 正津勉

第四章 「鳥師」 鳥屋と、石屋と 「鳥師」(「comicばく7」1985・12)、シリーズ〈無能の人〉第3作である。それでははじめに扉絵からみることにしよう。 そのまえにこれまでの扉絵の図柄をふりかえっておく。第1作「石

【連載】つげ義春「無能の人」考④ text 正津勉

第三章 「無能の人」 髪と、石と 「無能の人」。シリーズ表題作である。それでははじめに扉絵からみることにしよう。これをしかしなぜ表題作としようとしたか。そこらがわかろう図柄であるのだこれが。 ほんとおかしく滑稽で笑えてな

【Book Review】「私の映画言語」とは何か――『まだ見ぬ映画言語に向けて』 text 若林良

「個の姿勢」を尊重すること  本書は、2014年から15年にかけて東京・御茶ノ水のエスパス・ビブリオで行われた、吉田喜重、舩橋淳両監督による「まだ見ぬ映画言語に向けて」と題された対談イベントを書籍化したものである。  4

【連載】つげ義春 「無能の人」考① text 正津勉

  前口上 昨年、2020年、当方は『つげ義春 「ガロ」時代』(作品社)を上梓。これがわたしの著作としては珍しく数少なくはない読者のかたから温かい批評をいただいた。そのなかに熱くもぜひ続篇として「ガロ」以後につ

【文学と記録⑥】 久生十蘭と空襲 text 中里勇太

 前回は「吉田健一と瓦礫」と題したが、変幻自在の技巧を駆使した文体と多彩な作風で「小説の魔術師」の異名をもつ作家・久生十蘭の『久生十蘭「従軍日記」』(*1)の中には、瓦礫ということばこそ現れないが、次のような一文がある。

【News】グラフィック・ドキュメンタリー『テイキング・ターンズ HIV/エイズケア371病棟の物語』翻訳刊行プロジェクトを展開中!

https://greenfunding.jp/thousandsofbooks/projects/4345/activities/14870 『テイキング・ターンズ HIV/エイズケア371病棟の物語』(2017)は、

【Book Review】描き直される映像詩人の肖像――『ジョナス・メカス論集 映像詩人の全貌』 text 大内啓輔

2019年1月23日に96歳で逝去したジョナス・メカス。その死から2年を迎えようとしているタイミングで刊行された『ジョナス・メカス論集 映像詩人の全貌』と題された本書は、ドキュメンタリー専門誌「neoneo」編集室が創刊

【Book Review】ジグザグ道の途中で――『そして映画館はつづく あの劇場で見た映画はなぜ忘れられないのだろう』 text 鈴木里実

今年ほど、映画館へのさまざまな想いが交錯した年はありませんでした。緊急事態宣言下で映画館が休館し、それまで当たり前のようにできていたスクリーンで映画を見るという行為ができないことへの飢えや寂しさ、また、再び劇場が開いてか

【文学と記録⑤】吉田健一と瓦礫 text 中里勇太

  小説の舞台としてかつての町や都市のすがたが描かれているとき、それを知るのもまたおもしろさのひとつである。たとえば吉田健一は、小説「瓦礫の中」や「絵空ごと」、「東京の昔」などにおいて作品ごとに時代を設定して東京を描いて

【Review】ふたつの『異端の鳥』がもとめた普遍 text 菊井崇史

 映画『異端の鳥』が結実するまでの道のりはけわしいものだったと監督ヴァーツラフ・マルホウルはふりかえっている。十七ヴァージョンのシナリオを書き、困難な資金調達等を忍耐づよくのりこえ、撮影には二年を要し、ついに十年以上の歳

【文学と記録④】松井太郎とブラジル text 中里勇太

   遠く離れた土地を舞台とする小説を読むとき、その土地の生活や文化を知るのもよろこびのひとつである。しかしときには知るというよろこびよりもさきに、その異形の相貌をまえに立ち尽くしてしまう作品がある。そのひとつ

【文学と記録③】有森勇太郎の記録 text 中里勇太

 これは作中の登場人物が書いた記録である、と宣言される小説がある。そこでは、かれらの生涯の一時期や、目撃あるいは参加した出来事が語られ、その形式は、渦中で記した日記やノートを基に構成されるか、あるいは後年の記憶を基に語ら

【文学と記録②】古井由吉と赤牛 text 中里勇太

 小説において、作者と近しい登場人物が記憶を語るとき、作者自身が辿ってきた道行きを背景にして読めば、語られた記憶は時代証言となる「記録」の側面をもついっぽうで、小説において語られる記憶には、作中人物の記憶ともうひとつ、記

【文学と記録①】後藤明生と土筆 text 中里勇太

 文学、殊にフィクションである小説において「記録」とはなにか。小説のなかに描かれる歴史的事件や社会事象、社会風俗に加えて、ときには作者と近しい存在である登場人物の生活なども、そこに含まれるのだろう。いっぽうで、小説がフィ