【Review】喪失と再生の先に――『ドライブ・マイ・カー』 text 若林良

 濱口竜介監督の『ドライブ・マイ・カー』が公開されている。村上春樹の短編小説集『女のいない男たち』(文春文庫)に収録された同名の短編小説を原作とし、6月に行われたカンヌ国際映画祭では脚本賞をはじめ、計4つの賞を受賞した。

【文学と記録⑧】ジョン・オカダと物語の不在 text 中里勇太

 ジョン・オカダという日系アメリカ人が書いた『ノーノー・ボーイ』(*1)という小説がある。舞台は第二次大戦後すぐのアメリカ・シアトル、主人公はイチロー・ヤマダという日系アメリカ人二世であり、物語の背景には第二次大戦中の日

【連載】ウディ・アレンの逆説 ポスト・トゥルース時代のスキャンダル① text 大内啓輔

ウディ・アレンはどこにいるのか? ウディ・アレンにとって今のところの最新作となっている『レイニーデイ・イン・ニューヨーク』(2019)は、昨年7月3日に日本での劇場公開を迎えた。ウディ・アレンの代名詞ともなっているニュー

【Review】古書に魅せられて――『ブックセラーズ』 text 吉成秀夫

はじめて試写で『ブックセラーズ』を見終わったとき、あまりの情報量に驚き、感嘆のため息を一つついてしばし呆然としました。 つぎに見たとき、私はこころみに字幕のカットがいくつあるかを数えてみましたが、1300カットを超えたと

【文学と記録⑦】 大岡昇平と身体 text 中里勇太

 戦争文学の名作として名高い「野火」(一九五二)の著者・大岡昇平。大岡昇平には、自身の太平洋戦争従軍体験に基づく連作小説『俘虜記』(一九五二)がある。その作品群は、一九四五年一月にフィリピンのミンドロ島で米軍の捕虜となる

【Book Review】「私の映画言語」とは何か――『まだ見ぬ映画言語に向けて』 text 若林良

「個の姿勢」を尊重すること  本書は、2014年から15年にかけて東京・御茶ノ水のエスパス・ビブリオで行われた、吉田喜重、舩橋淳両監督による「まだ見ぬ映画言語に向けて」と題された対談イベントを書籍化したものである。  4

【文学と記録⑥】 久生十蘭と空襲 text 中里勇太

 前回は「吉田健一と瓦礫」と題したが、変幻自在の技巧を駆使した文体と多彩な作風で「小説の魔術師」の異名をもつ作家・久生十蘭の『久生十蘭「従軍日記」』(*1)の中には、瓦礫ということばこそ現れないが、次のような一文がある。

【News】グラフィック・ドキュメンタリー『テイキング・ターンズ HIV/エイズケア371病棟の物語』翻訳刊行プロジェクトを展開中!

https://greenfunding.jp/thousandsofbooks/projects/4345/activities/14870 『テイキング・ターンズ HIV/エイズケア371病棟の物語』(2017)は、

【Book Review】描き直される映像詩人の肖像――『ジョナス・メカス論集 映像詩人の全貌』 text 大内啓輔

2019年1月23日に96歳で逝去したジョナス・メカス。その死から2年を迎えようとしているタイミングで刊行された『ジョナス・メカス論集 映像詩人の全貌』と題された本書は、ドキュメンタリー専門誌「neoneo」編集室が創刊

【Book Review】ジグザグ道の途中で――『そして映画館はつづく あの劇場で見た映画はなぜ忘れられないのだろう』 text 鈴木里実

今年ほど、映画館へのさまざまな想いが交錯した年はありませんでした。緊急事態宣言下で映画館が休館し、それまで当たり前のようにできていたスクリーンで映画を見るという行為ができないことへの飢えや寂しさ、また、再び劇場が開いてか

【文学と記録⑤】吉田健一と瓦礫 text 中里勇太

  小説の舞台としてかつての町や都市のすがたが描かれているとき、それを知るのもまたおもしろさのひとつである。たとえば吉田健一は、小説「瓦礫の中」や「絵空ごと」、「東京の昔」などにおいて作品ごとに時代を設定して東京を描いて

【Review】ふたつの『異端の鳥』がもとめた普遍 text 菊井崇史

 映画『異端の鳥』が結実するまでの道のりはけわしいものだったと監督ヴァーツラフ・マルホウルはふりかえっている。十七ヴァージョンのシナリオを書き、困難な資金調達等を忍耐づよくのりこえ、撮影には二年を要し、ついに十年以上の歳

【文学と記録④】松井太郎とブラジル text 中里勇太

   遠く離れた土地を舞台とする小説を読むとき、その土地の生活や文化を知るのもよろこびのひとつである。しかしときには知るというよろこびよりもさきに、その異形の相貌をまえに立ち尽くしてしまう作品がある。そのひとつ

【文学と記録③】有森勇太郎の記録 text 中里勇太

 これは作中の登場人物が書いた記録である、と宣言される小説がある。そこでは、かれらの生涯の一時期や、目撃あるいは参加した出来事が語られ、その形式は、渦中で記した日記やノートを基に構成されるか、あるいは後年の記憶を基に語ら

【文学と記録②】古井由吉と赤牛 text 中里勇太

 小説において、作者と近しい登場人物が記憶を語るとき、作者自身が辿ってきた道行きを背景にして読めば、語られた記憶は時代証言となる「記録」の側面をもついっぽうで、小説において語られる記憶には、作中人物の記憶ともうひとつ、記

【文学と記録①】後藤明生と土筆 text 中里勇太

 文学、殊にフィクションである小説において「記録」とはなにか。小説のなかに描かれる歴史的事件や社会事象、社会風俗に加えて、ときには作者と近しい存在である登場人物の生活なども、そこに含まれるのだろう。いっぽうで、小説がフィ

【Book Review】「なおす」ために何が必要か――青野文昭『NAOSU』 text 五十嵐拓也

「なおす」ことのズレ  2017年の展覧会「コンニチハ技術トシテノ美術」で展示された青野文昭の《なおす・それぞれの欠片から――無縁の声・森のはじまり――1997-2017》を見た時、赤い自動車が描かれた箪笥の作品に触りた

【Book Review】「映画館プログラム」という知られざる魅惑を求めて――『映画館と観客のメディア論 戦前期日本の「映画を読む/書く」という経験』 text 大内啓輔

かつて「映画館プログラム」という読み物があった! たとえば今、私たちが映画館に足を運んで映画を観るとしよう。そのとき、事前にその映画について、何一つの知識を入れずに鑑賞することは不可能に近いはずだ。いわゆる一般的に劇場公

【新刊】ドキュメンタリーマガジン neoneo12号 総特集「沖縄のドキュメンタリー」

9月中旬発売! ドキュメンタリーマガジン「neoneo」#12 総特集 「沖縄のドキュメンタリー」 お待たせいたしました! 1年ぶりのドキュメンタリーマガジン「neoneo」12号は、「沖縄とドキュメンタリー」の総特集で

【Book Review】ドキュメンタリーの教科書——『文化人類学の思考法』text 岡本和樹

「あたりまえの外へ」。編者の松村圭一郎さんにサインをいただくと、その言葉が添えられていた。本の帯にも【文化人類学は「これまでのあたりまえ」の外へと出ていくための「思考のギア(装備)」だ】という若林恵さんの言葉もある。この

【Review】その図書館は、まるでユートピアーー『ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス』 text 舘由花子

『ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス』の監督、フレデリック・ワイズマンはディレクターズ・ノートでこう語った。「ニューヨーク公共図書館は最も民主的な施設です。すべての人が歓迎されるこの場所では、あらゆる人種、民族、社

【Book Review】身体によって身体を思考する——室野井洋子『ダンサーは消える』text 中根若恵

ダンスは常に非常である。 我々は圧倒的な日常の中に生きている。 非常の身体は忘却される。 私たちの多くは、自分の身体をおのずとこの場に存在するものと捉え、その自明性に何ら疑いをもたない。例えば、道を歩く、階段を上がる、シ