【文学と記録①】後藤明生と土筆 text 中里勇太

 文学、殊にフィクションである小説において「記録」とはなにか。小説のなかに描かれる歴史的事件や社会事象、社会風俗に加えて、ときには作者と近しい存在である登場人物の生活なども、そこに含まれるのだろう。いっぽうで、小説がフィ

【Book Review】「なおす」ために何が必要か――青野文昭『NAOSU』 text 五十嵐拓也

「なおす」ことのズレ  2017年の展覧会「コンニチハ技術トシテノ美術」で展示された青野文昭の《なおす・それぞれの欠片から――無縁の声・森のはじまり――1997-2017》を見た時、赤い自動車が描かれた箪笥の作品に触りた

【Book Review】「映画館プログラム」という知られざる魅惑を求めて――『映画館と観客のメディア論 戦前期日本の「映画を読む/書く」という経験』 text 大内啓輔

かつて「映画館プログラム」という読み物があった! たとえば今、私たちが映画館に足を運んで映画を観るとしよう。そのとき、事前にその映画について、何一つの知識を入れずに鑑賞することは不可能に近いはずだ。いわゆる一般的に劇場公

【新刊】ドキュメンタリーマガジン neoneo12号 総特集「沖縄のドキュメンタリー」

9月中旬発売! ドキュメンタリーマガジン「neoneo」#12 総特集 「沖縄のドキュメンタリー」 お待たせいたしました! 1年ぶりのドキュメンタリーマガジン「neoneo」12号は、「沖縄とドキュメンタリー」の総特集で

【Book Review】ドキュメンタリーの教科書——『文化人類学の思考法』text 岡本和樹

「あたりまえの外へ」。編者の松村圭一郎さんにサインをいただくと、その言葉が添えられていた。本の帯にも【文化人類学は「これまでのあたりまえ」の外へと出ていくための「思考のギア(装備)」だ】という若林恵さんの言葉もある。この

【Review】その図書館は、まるでユートピアーー『ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス』 text 舘由花子

『ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス』の監督、フレデリック・ワイズマンはディレクターズ・ノートでこう語った。「ニューヨーク公共図書館は最も民主的な施設です。すべての人が歓迎されるこの場所では、あらゆる人種、民族、社

【Book Review】身体によって身体を思考する——室野井洋子『ダンサーは消える』text 中根若恵

ダンスは常に非常である。 我々は圧倒的な日常の中に生きている。 非常の身体は忘却される。 私たちの多くは、自分の身体をおのずとこの場に存在するものと捉え、その自明性に何ら疑いをもたない。例えば、道を歩く、階段を上がる、シ

【Book Review】制作と批評が織りなすドキュメンタリーの公共性——金子遊『ドキュメンタリー映画術』text 中根若恵

世界との回路としてのドキュメンタリー 昨今のドキュメンタリー映画界が見せる活況についてはことさら論じるまでもない。世界中で多くのドキュメンタリーが生み出され、劇場や映画祭でそれらを目にする機会も増えた。個々の作品に目を向

【Review】『アピチャッポン・ウィーラセタクン 光と記憶のアーティスト』 text 佐藤奈緒子

アピチャッポン・ウィーラセタクン監督の映画は、見るものを未体験の困惑にいざなう。特に初めて見た時は不可解すぎてほとんど寝てしまったし、同じ映画を見た人とも話が噛み合わず狐につままれたような体験をした。そうした分かりにくさ

【Book】私たちが新しく手に入れたガイドブック 『アメリカン・アヴァンガルド・ムーヴィ』(西村智弘・金子遊 編) text 野村建太

幸運なことに、本書『アメリカン・アヴァンガルド・ムーヴィ』で取り上げられた作品の多くを、これまでに見る機会があった。東京でジョナス・メカスの作品が上映されれば可能な限り足を運んだが、いつも会場はそれなりに混み合っていたこ

【Review】コンテンツとしての「ドキュメンタリー入門書」 寺岡裕治編『21世紀を生きのびるためのドキュメンタリー映画カタログ』 text 細見葉介

「ゼロ年代」の初頭に、ドキュメンタリーに興味を持ってイチから知ろうとした時、その敷居は高かった。インターネット上の情報精度が低かったこともあるが、例えば文学少年にとっての「新潮文庫の100冊」のような、分かりやすい作品の

【Book Review】 沖縄イメージの攪乱:『las barcas 別冊』text 松田潤

根間智子「paradigm」  ■変容する沖縄イメージ 先日都内で公開された根間智子の写真展示「paradigm」(表参道画廊・1月18〜30日)と奥間勝也の監督作品『ギフト』(2011)、『ラダック:それぞれの物語』(

【Interview】 今を考えるための映画監督・佐藤真——「日常と不在を見つめて ドキュメンタリー映画作家 佐藤真の哲学」編集者・清田麻衣子さん

90−00年代に、日本を代表するドキュメンタリストのひとりとして時代を駆けた佐藤真。その仕事を、未発表原稿や寄稿、批評など、さまざまな角度からまとめた「日常と不在をみつめて〜ドキュメンタリー映画作家 佐藤真の哲学」が、こ

【Interview】この映画は芸術作品ではない。原発推進派に勝つための訴状です~『日本と原発 4年後』 河合弘之監督インタビュー

去年(2014年)の秋、『日本と原発』というドキュメンタリー映画が有料上映会を都内から始め、多くの観客を動員した。 脱原発弁護団全国連絡会の共同代表であり、原発訴訟を多く手掛けるベテラン弁護士・河合弘之の初監督作品。自ら

【Review】映画に見る戦後70年と「天皇の歴史」text 山石幸雄

2015年は多くの戦争映画が上映された。 『野火』『この国の空』『日本のいちばん長い日』『戦争ぬ止み』『沖縄 うりずんの雨』『“記憶”と生きる』『インペリアル 戦争のつくり方』など。今回はその中で『“記憶”と生きる』『イ

【Monograph】地域映画と映像教育の文化史 第2回 藤川治水と熊本映画サークル運動(2)text 佐野亨

貴重な機会をいただいて始めたこの連載だが、個人的な事情により、第1回の掲載から約2年という長期の空白期間を要してしまった。ご期待くださった読者の皆様方に深くお詫びしたい。第1回では、熊本を拠点として、映画批評、教育活動、

【Book Review】喪われたものの感覚〜亀山亮『戦場』(晶文社刊) text 小谷忠典(映画監督)

パレスチナ、シエラレオネ,リベリア,アンゴラ、スーダン、コンゴ,ソマリア、ブルンジ、ケニア……「戦争とは何か」を写し取りたいという強い衝動に突き動かされ,各地の紛争地帯を渡り歩いてきた戦場カメラマン亀山亮氏。氏の写真は戦

【News】8/1(土)-7(金) 一週間限定!「観ずに死ねるか!傑作絶望シネマ88」 (鉄人社)出版記念上映会 @テアトル新宿

「観ずに死ねるか!」シリーズ最新刊!「傑作絶望シネマ88」発刊記念一週間限定レイトショー@テアトル新宿にて開催!「観ずに死ねるか!傑作絶望シネマ88」(鉄人社)の出版を記念し、8月1日(土)~8月7日(金)の1週間、テア

【Book Review】ヒトはなぜ結婚をするのか〜『恋する文化人類学者』鈴木裕之著 text 指田文夫

1949年の映画『晩春』以後、なぜ小津安二郎は、ほとんどの作品で、親が娘を嫁つがせる話を延々と作り続けたのだろうか。筋も役者もほとんど同じなので、どれがどれだかよく分からなくなるほどである。この本は、そうした私の疑問にも

【Book Review】ドキュメンタリー史の古典が新装復刊  エリック・バーナウ『ドキュメンタリー映画史』 text 細見葉介

このほど、エリック・バーナウ著『ドキュメンタリー映画史』が筑摩書房より出版された。ドキュメンタリー映画の長い歴史を顧みるとき欠かせない名著として、日本国内でもこれまで数多くの機会に取り上げられてきた『世界ドキュメンタリー

【Book Review】歴史を変えた1冊~『放射線を浴びたX年後』の2人の英雄~ text 神崎晃

「放射線」という言葉から、私たちは何を連想するだろう。4年前の東京電力福島第一原子力発電所事故だろうか。 大きな揺れと津波の後に起こった人災。燃え上がる赤い炎と、毎日報道される放射線量。錯綜する情報。ネットで行われる論議

【Book Review】帝国の境界を解体する、風景への眼差し―金子遊 著『辺境のフォークロア』 text 野澤光

本書は、日清戦争後から二次大戦末期にかけて、日本の辺境を旅した、20名以上にわたる民俗学者や文学者たちの足跡を辿り直したものである。その「辺境」には、琉球、小笠原諸島をはじめとして、かつて大東亜共栄圏の一部であったサハリ