【News】グラフィック・ドキュメンタリー『テイキング・ターンズ HIV/エイズケア371病棟の物語』翻訳刊行プロジェクトを展開中!

https://greenfunding.jp/thousandsofbooks/projects/4345/activities/14870

『テイキング・ターンズ HIV/エイズケア371病棟の物語』(2017)は、著者自身による1994年から2000年までのHIV/エイズケア病棟での看護師勤務経験に基づく回想録(グラフィック・メモワール)であり、当時の患者や医療従事者など、さまざまな関係者の証言を織り交ぜて製作された「グラフィック・ドキュメンタリー」としての側面も併せ持つ意欲作です。

米国シカゴにて、HIV/エイズに特化した緩和ケア病棟として創設された371病棟では、死と隣り合わせの患者と接する日常がくりひろげられていました。エイズに対する恐怖がパニックを引き起こしていた1990年代当時の貴重な証言の記録にもなっています。担当患者が数か月から数年で亡くなってしまう中での看取りを、新米看護師がどのように感じ、どのように向き合っていたのかも読みどころになっています。

タイトルである「Taking Turns(テイキング・ターンズ)」には「代わりばんこに」という意味が込められていますが、医療従事者も含めて誰しもが患者の立場になりうることを表しています。著者が推進する「グラフィック・メディスン」は医療をめぐる包括的な概念でありコミュニケーション・ツールとして医療現場にマンガを導入する試みでもあります。マンガを媒介に医療や健康について物語る「順番(ターン)」は読者である私たちにも開かれているのでしょう。

クラウドファンディングを導入し、新しい出版のあり方を探るサウザン・ブックス社によるレーベル「サウザン・コミックス」は、バンド・デシネ(フランスのコミックス)翻訳家である原正人氏が編集主幹をつとめ、日本でなかなか翻訳紹介が進まない海外マンガの多様な魅力を紹介することを目指して設立されました。『テイキング・ターンズ』は、「サウザン・コミックス」第2弾企画です。

「グラフィック・ドキュメンタリー」は、コミックスなどのヴィジュアル表現を用いてドキュメンタリーのあり方を探る概念として注目されている領域です。『テイキング・ターンズ』の著者MK・サーウィックは自身の方法論を編み出す上で、スタッズ・ターケルの手法を意識していたと述べています(2019年度国際グラフィック・メディスン学会講演にて)。

アニメーション・ドキュメンタリーの動向なども含めて、ドキュメンタリー概念の多様性、それぞれのメディアの特質を探ることも興味深い論点となるでしょう。

クラウドファンディングは2021年2月28日(日)まで実施中!

「活動報告」として、認定NPO法人ぷれいす東京代表の生島嗣さんをはじめ、「コメント」を寄せていただいています。こちらもぜひご覧ください。

ドキュメンタリーに関心のある多くの方に参照いただけましたら嬉しく思います。

 

https://greenfunding.jp/thousandsofbooks/projects/4345/activities/15284

 

原典:Taking Turns: Stories from HIV/AIDS Care Unit 371. Penn State UP, 2017

著:Mary Kay Czerwiek(MK・サーウィック)
1967年生まれ。イリノイ州シカゴ郊外にあるノースウェスタン大学フェインバーグ医学部に勤務。ロヨラ大学(イリノイ州)英文科卒業後、ラッシュ大学にて看護師の学士号取得。ノースウェスタン大学大学院医学人文学・生命倫理学研究科にて修士号を授与。1994年から2000年までHIV/エイズケア病棟看護師として勤務。2000年からは自身のウェブサイトを中心に「コミックナース」の名前で作品を発表。2007年からはイアン・ウィリアムズと共にグラフィック・メディスンの活動を展開。グラフィック・メディスンの概念を提唱した共著『グラフィック・メディスン・マニフェスト マンガで医療が変わる』(北大路書房、2019)はこの領域の基礎文献となる。本書『Taking Turns(テイキング・ターンズ HIV/エイズケア371病棟の物語)』(2017)は長編グラフィック・ノベルの第一作である。編著として女性コミックス・アーティストのアンソロジー『メノポーズ マンガで扱う更年期』を2020年8月に刊行。

プロジェクト発起人:中垣 恒太郎(専修大学文学部、アメリカ文化研究)