【Report】『うらぎりひめ』(監督:岩名雅記)宣伝リポート text 歌川達人


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舞踏家  岩名雅記監督の『うらぎりひめ』

「舞踏」という身体表現をご存知だろうか?舞踏家は、「生まれてから現在までの生きられた時間を内包する身体」を用い、その圧倒的な身体表現を観客に見せつける。今回紹介する岩名雅記という映画監督は、40年以上、そういった舞踏で生計を立てて来た希有な映画監督だ。岩名監督は、普段フランスの南ノルマンディーという人の数よりも牛の数の方が多い田舎町に家を構え、妻と息子の3人で、質素に暮らす。

そんな岩名監督の劇場公開第3作『うらぎりひめ』が、2013年10月渋谷アップリンクにて公開された。本作を端的に言い表すのならば、「老練舞台女優にして人生論の文筆家でもある老婆の現在と、囚われの少女時代(67年前)の過去とが交錯する、ジャンル分け不可能な身体の映像作品」と言えるだろう。また、批評家である金子遊氏は『うらぎりひめ』の魅力を下記のような文章で的確に表している。

「私が岩名雅記監督の『うらぎりひめ』を傑作だと思うのは、国家主義への批判と寺山修司的な土俗世界、舞踏に特有の身体パフォーマンスとたむらまさき氏による撮影が、見事な緊張度を実現しているからです。そして各要素が絡みあい、実験映像やメディアアートよりも前衛的だと言えるのかもしれない、21世紀のデジタル時代における映像詩がここに実現しています。」

なるほど、一筋縄ではいかない映画であるというのが、お分かり頂けただろうか。

本作は、明大前のキッドアイラックホールで大盛況であった2013年3月の先行上映を受け、2013年10月に渋谷アップリンク・札幌狸小路2丁目シアター大阪シアターセブンの三都市にて、劇場公開するに至った。今回は、私が宣伝を担当した渋谷アップリンクでの公開を振り返り、インディペンデント映画の自主配給・宣伝の現状を考えていきたい。

映画鍋とクラウドファンディングの可能性

『うらぎりひめ』東京上映の宣伝を担当することになった私は、独立映画鍋 という団体で岩名監督と知り合った。独立映画鍋とは、簡略化して説明すると「日本映画界の極端な二極化に警鐘を鳴らし、インディペンデント・フィルムメーカーと上映活動に携わる多くの人々、それらを取り巻く環境をサポートするシステムを作りたい」という意志のもと、活動を行う非営利団体である。独立映画鍋では、月に1度、ゲストを招いての勉強会「鍋講座」や、提携するMotion Galleryのクラウドファンディングによる「資金調達の援助」などを行っている。設立して1年ということもあり、お世辞にも多くのサポートシステムを構築出来ているとは言えないが、岩名監督は独立映画鍋を大いに活用し制作活動を続ける監督である。

岩名監督はこれまで、映画鍋が提携するMotion Galleryのクラウドファンディングという資金調達スキームを利用して、2度の資金調達を行っている。

1つ目は、今回上映された『うらぎりひめ』の配給宣伝費サポートの為に行われたクラウドファンディングだ。46名の支援者の方から、約61万円をサポートして頂き、3都市での宣伝配給費が賄われた。フランス在住の監督にとって、劇場公開までに日本での宣伝活動や配給業務を行う為の人件費や諸費用の捻出がかねてからの問題であった。しかし、クラウドファンディングによって、最低限の配給宣伝費ならば集めることが出来る。これは、若手のインディペンデント映画が陥りがちな、劇場公開に向けた資金繰りという問題を解決する為の一助として、今後どんどん活用されて行くべき事例であるように思われる。

2つ目の資金調達は、次回作『シャルロット/すさび』の製作資金サポートの為のクラウドファンディングだ。『シャルロット/すさび』は、2015年夏に撮影予定の岩名監督第4作で、2013年11月現在で80万円を超えるサポートを頂いている。

上記のクラウドファンディングを行うメリットは、資金調達の側面もあるが、それ以上に、「クラウドファンディングを行うという行為自体が作品の宣伝になりうる」という側面が大きかったと実感している。特に『シャルロット/すさび』のクラウドファンディングに関しては、『うらぎりひめ』の劇場公開と合わせて、告知を行った。それにより、「うらぎりひめ」チラシと共に『シャルロット/すさび』クラウドファンディング募集チラシを織り込むことが出来た。

逆に、独立映画鍋 in 第26回東京国際映画祭 特別提携企画「クラウドファンディング・リアル」にて、『シャルロット/すさび』のクラウドファンディングに関するプレゼンテーションを行った際、劇場公開を控える『うらぎりひめ』の宣伝を東京国際映画祭という大舞台で同時に行うことも出来た。また、劇場公開中に次回作の資金調達を合わせて行うことによって、公開中の『うらぎりひめ』をご鑑賞なさった方々に、次回作へのサポートを行って頂けるという好循環が生まれていた。

実際に、渋谷アップリンクにて上映された『うらぎりひめ』を鑑賞したお客様が、映画に魅了され次回作の『シャルロット/すさび』に多額の支援を下さった事例もあった。映画を「見せる」という行為が次回作の製作に直接つながっているという実感が、今回の劇場公開に動員以上の価値を与えていたように思う。
IWANA_A                                                               上映後、サインと質問攻めに合う岩名監督

観客との交流がもたらす恩恵

そして、10月26日より渋谷アップリンクにて、『うらぎりひめ』2週間のレイトショー上映が始まった。岩名監督は、連日上映後の質疑応答に立ち会い、観賞後の観客と交流を図った。そういった地道な努力が直接動員に影響しているかは定かではないが、そのような映画に向き合う真摯な姿勢が観客に届いていたように、宣伝マンの私には感じられた。

実際に、動員に対する物販のパンフレット販売率が約30%と、劇場にお越しになった3人に1人はパンフレットを購入し、また監督のサインを希望する観客も現れた。これは作品の満足度の高さの現れでもあると言っても言い過ぎではないだろう。上映後のゲストトークも4度行い、粉川哲夫氏(映画・メディア批評家)、深田晃司氏(映画監督)、石川雷太氏(現代芸術家)、金子遊氏(映像作家・批評家)という豪華なゲストに囲まれ、魅力的なトークが催された。『うらぎりひめ』は決して難解な作品ではないが、ある観客から「噛めば噛む程、味が出るスルメのような作品だ」という評が寄せられたように、ゲストとのトークによって、より一層『うらぎりひめ』や岩名監督の魅力に気づかされる。そのため、上映後のトークで作品の魅力を再発見し、何度も足を運ぶリピーターも少なくなかった。連日のトークショーが『うらぎりひめ』の隠れ持つ映画的豊かさを掘り起こすことに起因したのだと考えれば、非常に有意義なイベントだった。
KONAGAWA_2            粉川哲夫さんトーク風景(左が岩名監督)

自主配給・宣伝の厳しさを乗り越えて

最後に、自主配給・宣伝で映画を撮り続けることの厳しさについて言及したい。強烈な社会的な意義を持ったドキュメンタリー映画なら、大いにその可能性は眠っているかもしれないが、ナラティブな(物語性を持った)劇映画において、自主配給・宣伝で利益を出すこと、あるいは制作者の生計を立てることは、神業のように思われる。実際、今回の3都市上映でも興行収入という面では苦戦を強いられた。しかし、60歳を超え本気で映画を撮り始めた、身体の映像作家 岩名雅記は、この無謀とも言える挑戦を孤独に続けている。その強靭な精神力と行動力に敬意を表したい。映画の裾野を広げるという意味でも、私のように岩名映画にエールを送りながら、今後の『シャルロット/すさび』に期待する映画関係者も少なくないだろう。数年後、我々は岩名雅記という映像作家に度肝を抜かれるだろうと、妄想にも似た推測を抱く。次回作『シャルロット/すさび』の完成が待ち遠しい。
SYUUGOU                    石川雷太さんとの対談後、記念撮影

【作品情報】

『うらぎりひめ』
(2012年/日本/91分/カラー/16:9)

監督/脚本:岩名雅記
出演:たうみあきこ,大澤由理、七感弥広彰(ななみこうしょう)、他
プロデューサー:岩名雅記
撮影:たむらまさき、岡田信也
編集:井関北斗
音楽:チャイコフスキー/弦楽セレナーデ ハ長調 作品48(ナクソス版)
宣伝: 歌川達人
制作:映像舞踏研究所 白踏館

【監督プロフィール】

岩名雅記(いわな・まさき)
1945(昭和20)年2月東京生まれ。’75年演劇から舞踏世界へ。‘82年全裸/不動/垂立の‘非ダンス’で注目される。‘88年渡仏、現在まで40カ国/100都市で舞踏ソロ公演。
‘95年、フランス南ノルマンディに拠点をつくり、2004年から映画製作を開始、2007年、初監督作品『朱霊たち』の東京上映では、レイトショーとして異例の63%の稼働率をあげる。また同作品は英国ポルトベロ国際映画祭で最優秀映画賞を受賞したほか、ロッテルダム(蘭)、ヒホン(西)、タリン(エストニア)ほか4国際映画祭に公式招待される。第二作『夏の家族』はロッテルダム、ヨーテボリ(スエーデン)ほか4国際映画祭で公式招待。映像舞踏研究所・白踏館主宰。

【外部リンク】

岩名雅記公式サイト:http://www.iwanabutoh.com/ja/
独立映画鍋公式サイト:http://eiganabe.net/

 Motion Gallery「シャルロット/すさび」クラウドファンディングサイト:
https://motion-gallery.net/projects/susabichar

独立映画鍋 in 第26回東京国際映画祭 特別提携企画「クラウドファンディング・リアル」 岩名雅記監督「シャルロット/すさび」プレゼンテーション映像:
http://www.youtube.com/watch?v=_E1W6PBjh-g

【執筆者プロフィール】

歌川 達人(うたがわ・たつひと)
1990年生まれ。北海道出身。京都で映画漬けの大学生活を過ごす。2013年より上京。独立映画鍋に参加し運営に携わる。2013年山形国際ドキュメンタリー映画祭にて、リーダースタッフとして参加。映画やCMの撮影助手としても活動する。
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