【Interview】『希望のシグナル-自殺防止最前線からの提言-』 都鳥伸也&都鳥拓也監督インタビュー


日本で最も自殺率が高い秋田県で行われている自殺防止活動に焦点を当てた映画『希望のシグナル-自殺防止最前線からの提言-』が現在ポレポレ東中野で上映されている。

毎年約3万人が自らその命を絶っている現在の日本。無縁死の問題も含めて人が自殺する背景には人とのつながりや居場所が希薄になり生きづらい社会が形成されている。
この映画では地域に居場所を作り、つながっていこうとする人々が描かれている。それはまさに「生きやすい」社会を作る活動だ。こうした東北の小さな町の先進的な活動を記録したこの映画は、都心部に様々な問題を抱える日本社会に大切なメッセージを投げかけていると思う。
この映画を製作したのは岩手県出身・在住の若手映画作家・都鳥伸也(企画・製作・監督)と都鳥拓也(企画・製作・撮影・編集)。地域の文化に根ざした映画を発信し続けている都鳥兄弟に話を伺った。
(取材・構成=neoneo編集部)

(左)兄・都鳥拓也(企画・製作・撮影・編集) (右)弟・都鳥伸也(企画・製作・監督)


|「自殺」をテーマにしたこと


―― 今回、秋田県内の自殺防止活動に焦点を当てたきっかけは何ですか?

伸也 2010年1月、前作のプロデュース作品『葦牙―あしかび-こどもが拓く未来-』(小池征人監督)※1の上映会で秋田県に行った時に、中小企業経営者とその家族のための自殺予防活動を行なっている「蜘蛛の糸」の理事長・佐藤久男さん※2(『希望のシグナル』の出演者の一人)と初めてお会いしました。
お会いする以前に佐藤さんがお書きになった本を読んでいまして、そこに書かれている人を支えていく活動などにすごく共感しまして、ぜひ映画として取り組んでみたいと思っていました。
ただ、お会いするまで佐藤さんは著書から「すごく固い人」というイメージを抱いていまして、重くて厳しい話になるだろうと思っていたのですが、実際はすごく気さくで明るい方でした。そして相談に来る人たちのことをすごく真剣に考えている。佐藤さんの人間的な魅力とそうした自殺防止活動はドキュメンタリーとしてやったら面白いだろうな、と改めて強く思いました。

――佐藤さんはどんな方なのですか?

伸也 欠点もすごくある人なんです(笑)。でも人間って完璧じゃつまらないじゃないですか。弱い部分も含めて人間的な魅力を感じました。佐藤さんご自身も本に書いていますが、倒産を経験して初めて自分は全部他人にやってもらっていたということに気づいたそうです。書類のコピーすら取ることも出来ない自分は何だったのだろう?と。そういった部分が魅力的なんですね。だからまずはこの人を撮っていけばいいという感じでした。

―― 「自殺」はかなり重いテーマだと思いますが、制作する上でのプレッシャーなどはありましたか?

拓也 前作『葦牙』の公開近くに行なった試写会であるトラブルを経験したことがあります。それは作品の公開が危ぶまれる程のトラブルでした。でもそれを乗り越えてきたので、今回の作品はとりあえずやってみようとなりました。『葦牙』で注意不足だった部分はあったので、その辺りをまず押さえておけば問題なく公開出来るだろうと意識していました。
また『葦牙』では児童虐待を受けた子供たちの自然治癒力を描いたのですが、それに対して大人はどう対処するんだ?支える側が描かれていないのでは?という意見が多少ありました。だから今回『希望のシグナル』では、支える側に興味が惹かれたというのもあります。
伸也 あとは佐藤さんのキャラクターもあって、出だしはあまり重たいことは考えずに佐藤さんの思いを一緒に映画にしたい、みたいなところから始まりました。


|まず居場所を作る

―― 映画に登場する秋田県藤里町の「コーヒーサロン よってたもれ」を開いている袴田俊英さん(「心といのちを考える会」代表)※3や、よさこいの会「素波里 狢(すばり むじな)」※4 など、直接的な自殺防止活動をしているグループではないと思ったのですが?

伸也 自殺する直前に人を止める活動は非常に重要なのですが、自殺まで追い詰められる前のセーフティネットは必要なわけで、僕らは今回、自殺しに来た人を説得するという活動にあまり興味は惹かれませんでした。袴田さんがしている活動というのは、居場所作りという部分に重きが置かれていて、それが僕らの中では腑に落ちたというのが大きいですね。僕らも月に一回、仲間たちと飲んでいまして、そういうのが息抜きになっていてちょっと大変でもやっていられるなと実感がありましたから。そういった部分と袴田さんの活動がすごく符号して、皆が集まる場所があって仕事とかしがらみがなく話せる場ってすごく重要だと思いました。佐藤さんにしても袴田さんにしてもすごく回り道な活動なんですね。この映画に出てくる全てがそうなのですが、そちらの方が自殺防止には効果的なのではと思います。

―― 自殺防止活動をするには、まず他人に関心を持つことが必要だと思います。しかし他人に関心を持てる人が少なくなってきているのが自殺の原因だと思うのですが?

伸也 皆、個人で完結してしまっていると思います。今は家族も地域も繋がっていない。それは東京でも田舎でも変わらない。だから自分一人で物事を抱え込みやすい人が増えましたよね。愚痴れないというか、息抜きが出来ない人。
拓也 社会構造として自分たちの親の世代から段々個を尊重するようになったと思います。地域の集まりにも出なくていいし、いろんなことから避けられる状況にもなってくるし、お互いが関心を持つ必要もなくなってきている。この映画では「ゆとりと優しさ」が一番のテーマだと思っているのですが、優しくなるためには関心を持たなければならない。この映画を観て自分は他人とどう接しているのだろう?ということを感じてもらえればいいと思います。


|東日本大震災

――撮影も終盤に差し掛かっていた時、東日本大震災が起きたわけですが映画制作にどのような影響を受けましたか?

拓也 映画どころか自分たちが食っていけない状況になりました。バイトやんなきゃみたいな。
伸也 とにかくどうその状況を乗り越えるか、映画より生活の立て直しが優先されてしまいました。
拓也 映画のことなんか真っ白になるくらいでした。とにかく自分たちのことで精一杯だった。考えてみたら『希望のシグナル』が一番順調でしたね。撮れるものは撮れるし、編集もスムーズに進むし、一番問題なく進みました。

――映画では自殺防止活動をしてきた秋田県の人たちが被災地へ支援に向かう様子が描かれていますね?

伸也 被災地での活動している場面を入れたのは、自殺防止活動にしても震災支援にしても、やる行動は同じなわけです。自殺防止というカテゴリーを越えて、いろんな普遍性を持つことが出来るのでは?という意図もあって震災後の場面を積極的に入れました。
拓也 自殺防止活動と震災支援活動は違うが基本的な考えとしては、弱っているところをどう引っ張り上げるために支えるか、我々はそこをどうサポート出来るのかだと思います。
伸也 特別な人の特別な活動じゃないというか、何にでもつながる活動なんだということを震災の場面を入れることでかえって語れるのではと思いました。テーマだけ見ると震災の支援活動と自殺防止活動って絡まないのではと、テーマがぼやけるのではという意見も頂いたのですが、やっていることは同じだろうという気がします。


※1 『葦牙-あしかびーこどもが拓く未来』(09) 岩手県にある児童擁護施設みちのくみどり学園に入所する子どもたちと地域の人々との交流を描いた作品。小池征人監督。都鳥兄弟第2回プロデュース作品。

※2 佐藤久男 「蜘蛛の糸」の代表。26歳で秋田県職員を退職後、株式会社「不動産情報センター」「かんきょう」(福祉と介護用品専門店)を設立し経営にあたる。2000年10月に倒産。その後、友人の自殺を通して倒産に伴う中小企業経営者とその家族のための自殺予防活動を行う。著書に「死んではいけない」「自殺防止の灯台論」「自殺防止の現場力」がある。

※3 袴田俊英 秋田県藤里町「月宗寺」の住職。2000年、藤里町で「心といのちを考える会」発足。毎週1日、町の中心地にある交流館で「コーヒーサロン よってたもれ」を開いている。

※4 「素波里 狢」 藤里町にある、よさこいの会。現在大人21人、子供19人で活動。各地区での夏祭りやイベント、老人ホームへの訪問活動などもしている。

都鳥伸也(企画・製作・監督) 都取拓也(企画・製作・撮影・編集)
1982年岩手県北上市出身。在住。2004年日本映画学校卒業後、映画監督・武重邦夫の主宰する「Takeshigeスーパー・スタッフ・プログラム」に参加。地域の文化に根ざした映画の発信を目指し、映画の企画・製作・配給について学ぶ。このとき企画した『いのちの作法-沢内「生命行政」を継ぐ者たち-』(小池征人監督)をプロデューサーとして製作。2009年には第2作目『葦牙-あしかび-こどもが拓く未来』(小池征人監督)を発表。本作品で兄・拓也は撮影・編集、弟・伸也は監督に初挑戦した。

 

『希望のシグナル-自殺防止最前線からの提言-』
企画・製作・監督:都鳥伸也 企画・製作・撮影・編集:都鳥拓也
製作:『希望のシグナル』サポーターズ・クラブ/ロングラン映像メディア事業部
2012年/日本/DVCAM/16:9/カラー/102分
ポレポレ東中野にて公開中 10:30 7/13まで
公式サイトhttp://ksignal-cinema.main.jp/

映画スチル(C)『希望のシグナル』サポーターズ・クラブ/ロングラン映像メディア事業部