【Report】『シリア・モナムール』公開記念 早稲田大学 映画上映&ディスカッションレポート


さる6月10日(金)夜、早稲田大学早稲田キャンパスで、全履修科目「ドキュメンタリー論」(野中章弘教授)の授業において、6月18日(土)より、シアター・イメージフォーラムで公開の『シリア・モナムール』の上映が行われた。映画は昨年の山形国際ドキュメンタリー映画祭で優秀賞を受賞。内外の映画祭でも高い評価を得た、シリア内戦を描いたドキュメンタリーだ。

当日は、アジアプレス・インターナショナルの代表でもある野中教授のナビゲートのもと、在日本のシリア人ジャーナリスト、ナジーブ・エルカシュさんと、シリアへ5度の取材経験を持つジャーナリスト、桜木武史さんを迎え、90名を超える学生たちが映画を鑑賞、その後ゲストとの質疑応答など活発なやりとりが行われた。

まずは野中教授の、「現実に向き合う力こそが、ジャーナリズムには必要。外で起きていることから、目を背けることはできないし、そうした出来事は我々の内面ともつながっている。今日これからみなさんが観る『シリア・モナムール』で描かれる現実から目を背けることはできない。君たちが向き合うべき、ある意味試金石となるドキュメンタリーだ」という言葉で授業はスタートし、96分間の映画がスタートした。

通常の作品だと途中眠りこける生徒も多いというが、本作が始まると90名を超える学生たちは画面に釘付けになり、目を背ける人はほとんどいない。やがて会場からはため息とすすり泣きの声も聞こえてきた。

上映後、ナジーブ・エルカシュさんによる、シリアにおいてかつての映画産業がどんな役割をはたしていたか、そして内戦から現在の状況、さらにシリアにおける報道についてのレポートが行われた。内戦前のシリアでは映画は製作されるものの、作られた映画が上映されることはないというねじれのある偽善の状況にあったという、かつてのシリアの映画界の状況が興味深く語られた。現在の内戦状況については、シリア国内のところどころで民主化を実現しようとしている小さなコミュニティーを作る活動も行われているが、日本をはじめ、各国がそれを伝えないことに苦渋の表情をにじませた。

「世界のメディアはISに夢中で、反米などという大きな枠組みばかりを報じる。シリアの中には、小さいけれど、生き生きした民主主義がある。ただ、その地域に行くまでが非常に危険で、海外のメディアがそこまでたどりつけない現実はある」と説明した。また、イスラム国が支配する首都ラッカ周辺の様子を撮影し、インターネットに動画を配信する「ラッカは静かに殺される」というニュースサイトもあると説明。エルカシュさんは「ラッカの住民は、携帯電話などで町の様子を撮影しただけで殺害される。でも命がけで撮影し、映像を流している」と涙ながらに語った。

一方、本年度の果敢かつ誠実な国際報道に努めた個人に贈られる「山本美香記念国際ジャーナリスト賞」を受賞した桜木さんには、学生から「危険なシリアに、なぜ行くのですか? 私には、行く勇気はありません」と質問が飛んだ。同氏は取材当時を振り返り、「行く勇気…自分も、勇気はあまりありません。でもシリア人に会いたいから…それだけです。彼らに会って、現地で何が起きているかを知らせたい。シリアの生の声を伝えたいんです」と熱く語った。

最後に野中教授は、ジャーナリズムを学ぶ学生たちに「常に現地の小さな声を拾いながら、大きな戦局も見ることが必要だ。虫の目でディテールを見、鳥の目で全体を見る力を養ってほしい」と授業を締めくくった。

(レポート:テレザとサニー オフィシャルレポートより転載)

 

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【映画情報】

『シリア・モナムール』
(シリア・フランス / 2014 / 96分)
監督・脚本 : オサーマ・モハンメド ウィアーム・シマヴ・ベデルカーン
編集 : アサド・メゾン
追加編集 : ダニ・アボロー レア・マッソン
オリジナル音楽・ヴォーカル : ノマ・オルマン

協力 : 山形国際ドキュメンタリー映画祭
配給・宣伝 : テレザとサニー

2016年6月18日よりシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開

公式サイト:http://www.syria-movie.com/

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