【Interview】9月17日(土)に開幕。『第4回なら国際映画祭』 中野 聖子さんインタビュー 聞き手:向井 啓太

「なら国際映画祭」は奈良出身の世界的な映画監督・河瀬直美がエグゼクティブ・ディレクターを務め、2010年に始まってから隔年開催で行われ、今年で第4回目を迎える国際映画祭である。まだ歴史が浅いにもかかわらず、国内外で優れた映画作家を輩出し、映画祭での受賞者に奈良を舞台とした映画制作権を与え、その映画が今回、ワールドプレミア上映されるなど意欲な試みが次々と行われ、評価を急速に高めつつある。今年からは世界で活躍するドキュメンタリー映画作家の育成のために「フラハティ賞」が設けられた。(受賞者には、2017年のフラハティ・フィルム・セミナーへの参加が認められ、参加費や渡航費は映画祭が負担。)この映画祭はどういう経緯で始まったのか、今年のみどころは何か、河瀬直美監督と一緒にこの映画祭を立ち上げたキーパーソンである中野聖子さんにお話を伺った。

ーどのようなきっかけでこの映画祭が誕生したのですか。

2007年、河瀨直美さんが『殯の森』(もがりのもり)でカンヌ国際映画祭で審査員特別大賞(グランプリ)を受賞しましたよね。凱旋帰国されて、地元の有志でお祝いをした時に「今回の受賞は奈良のおかげ、世界へ出れたのは映画祭という場があってこそ」と言われてたんです。翌年になって「奈良で映画祭を開催して、何か恩返しができないだろうか」との河瀬さんの提言があって、それはありがたいことだと私たち奈良在住の人々が集まって、実行委員会をつくりました。

みんな素人で最初は誰もどうすればいいかわからなかったのです。映画祭のことを知らない素人の集まりでした。当時、奈良市には映画館が一つだけあったので、そのシネコンを借りて初回の映画祭を開催する予定だったんですが、開催直前の1月に突然倒産してしまって。それで急いで手配して「ならまちセンター」という市民ホールで開催することになりました。おかげさまで、映画館でなくても映画は上映できる、暗闇さえあれば問題ない、という姿勢を身に着けることができました。

ー最初から国際映画祭として始まり、海外の注目作を上映したり、カンヌと提携するなどとても野心的に思えます。

河瀬さんには自分のあとに続く、世界に出て活躍する人材を育てたいという想いがあります。新しい才能を発掘して世界へ送り出す、という使命を我々は最初から掲げているのです。そのため、地方都市で開催する映画祭ではありますが、「国際映画祭」でなくてはならなかった。今年ようやく、そういう想いが形になった「Road to Cannes ~カンヌへの道~」というプログラムを開催できるんですよ。このプログラムでは、海外映画祭でも通用する作品創りとは何か?を根本から議論し、若手監督の育成、海外進出をバックアップしたいと考えています。

ーまだ歴史は浅いですが、この映画祭が送り出した日本の映画作家はいますか。

才能の発掘という点ではかなり大きな成果を残しているんですよ。2014年のゆうばり国際ファンタスティック映画祭に出品した『瘡蓋譚-カサブタタン-』の上野遼平監督もその一人です。彼はNARA-wave(学生部門)出身ですね。また、劇映画だけでなく、劇場での上映機会の少ないドキュメンタリー映画も取り上げています。ボスニアの炭坑で黙々と働く坑夫たちの生活を描いた『鉱』(あらがね)は昨年、山形国際ドキュメンタリー映画祭で高く評価されましたが、その監督の小田香さんもNARA-waveの出身です。

ー資金面はいかがですか。今回は苦労されたと伺いました。

そうなんです。今年予算計上されていた奈良市からの映画祭に対する補助金1,260万円とシネマテーク(月1回行われている移動型の映画館)に対する補助金600万円が打ち切られてしまい、一時は開催すら危ぶまれました。最終的には多くの方のご支援をいただいて、一口一万円のサポートを頂くレッドカーペットクラブ会員に今年はたくさんご入会下さいました。現在で755人ですね。レッドカーペットクラブ会員の方には、なら国際映画祭2016のレッドカーペット&オープニングセレモニーへの招待とフリーパス、映画祭グッズの進呈など様々な会員特典を用意しています。さらに、企業による協賛などのご助力あり、2,000万円以上集めてなんとか開催できることになりました。本当に感謝の気持ちでいっぱいです。

  NARAtive2016『東の狼』(カルロス・M・キンテラ監督 )

ーなら国際映画際2016のみどころを教えてください。

まずインターナショナル・コンペティションですね。約1,700本の中から厳正な選考を経て選ばれた、世界の若手映画作家の珠玉8本が上映されます。ヨーロッパ人の監督が多いのですが、なぜか舞台がドイツ、中国、タイ、ミャンマー、イランなどといったアジアが多いっていうのが今年の特徴です。日本初公開の映画が揃っています。

もうひとつの目玉はですね、カンヌ国際映画祭からの正式招待作品です。2016年に河瀬直美さんが審査委員長を務めた短編部門、シネフォンダシオン(学生部門)の2部門から、4作品が上映されます。カンヌ映画祭が取りあげた短編や学生部門の映画を観ることができるのは、なら国際映画祭だけです。

また奈良を世界へ発信するべく、期待の若手映画監督を招いて、地元の人々と共に奈良を舞台にした映画製作を行うNARAtive2016というプログラムがあります。前回のインターナショナル・コンペティションで審査員特別賞を獲得したキューバー出身のカルロス・M・キンテラ監督に奈良での映画制作権が与えられました。その映画『東の狼』が完成し、今回の映画祭においてワールドプレミア上映されます。キンテラ監督はカンヌ国際映画祭などでも注目を浴びている新進気鋭の映画監督です。本作品は、100年以上前に奈良県東吉野村で絶滅したとされる幻のニホンオオカミに執着している75歳の孤独な猟師を描いた作品で、是非メイキングと一緒に観ていただきたいですね。

中野 聖子(なかの さとこ)

生家は映画館であった「尾花劇場」を経営。損害保険会社を経て、ホテルサンルート奈良に入社し、現在、代表取締役社長。なら国際映画祭実行委員会理事。

向井 啓太(むかい けいた)

奈良県生まれ。児童養護施設に関する初監督作品『チョコレートケーキと法隆寺』は第7回坐・高円寺ドキュメンタリーフェステバル(2016)で奨励賞を受賞。第4回なら国際映画祭で地元初公開される。