【info】「隅田川野外上映会」 9/29-30 10/6-7

 夕刻の隅田川はとても気持ちがよい。

柔らかい光と風、

行き交う屋形船、

寄り添って歩く男女たち。

そんな時間の隅田川をお散歩して、映画を見る、

「隅田川野外上映会」を催します。

 

 

開催日
9月29日(土)30日(日) 10月6日(土)7日(日)

※荒天時の開催有無についてはtwitter @sumidafilmにて当日お知らせ致します。

時間
受付開始 17:00〜17:30
上映開始 17:45(予定)

上映作品

9月29日(土)

『はじまり』 監督:濱口竜介 2005年 13分
ほか高野徹作品 計52分
9月30日(日)
『あとのまつり』  監督:瀬田なつき 2009年 19分
ほか高野徹作品 計58分
10月6日(土 
『少年と町』 監督:小林達夫  2006年 10分
ほか高野徹作品 計50分
10月7日(日)
特別プログラム

受付場所
両国橋のたもと[中央区側](JR浅草橋駅東口から徒歩5分)

上映会場
隅田川テラス [浜町公園裏]

※受付場所から上映会場までお散歩していただきます。

料金
¥1000(1ドリンク+お土産付き)

詳しくはこちら http://www.sumidafilm.com

 

 

 

 

 

隅田川野外上映会・主宰者の高野徹に聞く
(取材・構成=福永順)

 

――どうして隅田川で野外上映会をやろうと思ったのですか?

 

高野 僕は隅田川がとっても好きなんです。東京の風景って高層ビルが林立していて空が見えず窮屈だなあ、と常々感じているのですが、隅田川沿いは異常に抜けがよいので居心地が良くて。遊歩道も整備されているから、散歩やランニングしている人が多いですし、楽器の練習をしている人もいて、とてもゆっくりした時間が流れています。そんな場所で映画が撮りたいと思って『お姉ちゃんとウキウキ隅田川』という映画を撮ったのですが、撮影した場所で映画を上映したらどうなるんだろう、と思ったのがはじまりでした。

 

――上映前に観客が隅田川沿いを“お散歩”をするそうですね。それが特殊だなと思いました。

 

高野 たしかに、特殊ですよね。上映会を手伝ってほしい、と知人に説明すると、「お散歩?」と必ず聞き返されます(笑)受付場所と上映会場を徒歩10分くらい離れた距離に設定しまして、そこをお客さんには歩いてもらいます。夕方の隅田川沿いって光と風が柔らかくて、とても気持ち良いんです。上映の前にお散歩という形で、その時間をお客さんに体験してもらいたいと思いました。それに『お姉ちゃんとウキウキ隅田川』は男の子と女の子が隅田川を歩く話なのですが、登場人物たちが歩く場所とお客さんたちがお散歩する場所というのが同一の場所なんです。

 

――つまり、観客が“お散歩”で見た風景が映画の中にも写っている、ということですね。

 

高野 そうなんです。映画を見ていて、自分が知っている場所がふとスクリーンに映って、ハッとした体験って誰もがあると思うのですが・・・。例えば僕は『バックドロップ・クルディスタン』(2007)というドキュメンタリー映画を見たとき、かつて僕の家族が住んでいたアパートが突然映画の中に映って驚いたことがあります。日本に亡命してきたクルド人一家の映画なのですが、彼らが住んでいるアパートに僕も住んでいたんです。しかも、時期も被っていて。うちは一階の部屋だったのですが、もしかしたら僕が呑気にテレビでも見ている中、その上の階では映画が撮影されていたんじゃないかと思うと、とてもゾクゾクしました。今回の野外上映会ではそんな体験を意図的に作り出すことができるでは、ということに気づいて、お散歩ということをやってみようと決めました。また、それだけではなくて、今回上映する映画は全て登場人物たちが歩いている映画なんです。お客さん自身の歩くという行為と歩く映画がどんな関係を結ぶのか、という実験ができたらとも考えています。

 

――今回は高野さんの映画だけでなく、濱口竜介監督や瀬田なつき監督、小林達夫監督といった新進気鋭の映画監督たちの短編も上映されるのですよね。高野さんは皆さんとどのような関係なのですか?

 

高野 濱口竜介監督は、知人に濱口組の美術助手をやらないかという話をもらって、現場ではじめてお会いしました。『THE DEPTHS』という2010年に撮影した長編映画です。以前『PASSION』(2008)を拝見したとき、しばらく何も言えなくなるくらい圧倒されてしまったので濱口監督の演出を見てみたかったんです。役者たちの表情や発話、動きにも驚きましたが、決定的な瞬間にトラックが画面に侵入してくるシーンなど、どうしたらこんな映画が撮れるのか全然わからず、濱口監督の秘密を暴いてやろうと意気込んで参加しました。でも、セット建込みや飾り込みなど、自分の仕事に精一杯で演出のことはあまり見れていないんですよね・・・。濱口監督のスタートをかける大きな声と、役者の芝居を見るときにギョロっと大きく見開いた目だけは強く印象に残っています。それと、何かの待ち時間になると、僕の知らない陽気なJ-POPを結構大きな声で歌っていらっしゃって、ちょっとだけ戸惑いました(笑)そのあとも山形国際ドキュメンタリー映画祭で『なみのおと』(2011)、オーディトリウム渋谷でのレトロスペクティブなど、上映がある度に濱口監督を追いかけています。

 

――瀬田なつき監督とは?

 

高野 瀬田監督は大学のゼミの先輩なんです。横浜国立大の梅本洋一ゼミ出身なのですが、僕たちが卒業制作映画の上映会をやったときに、トークゲストとして瀬田監督をお招きしました。ちょうど瀬田監督のメジャーデビュー作『嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん』(2010)が公開中のときでした。『みーまー』はもちろん、『彼方からの手紙』(2007)や『あとのまつり』(2009)も拝見していて、物語や内容は全然ないんだけれど映像の瑞々しさや遊び心ある音の使い方に驚いて、同時にとても嫉妬していました。僕はこんな映画が撮りたかったんだ、と気づかされたんです。でもそれは既に瀬田監督がやっているので、僕はいったいどうしたらいいのだろう・・・という。なので、卒業上映会の打ち上げでは変な意地をはって一言もお話をしませんでした。・・・本当は瀬田監督の映画のことをたくさんお聞きしたかったんですけどね(笑)

 

 

――なるほど、瀬田監督に対して並々ならぬ闘志を秘めているようですね。そして、小林達夫監督とはどこでお知り合いになったのですか?

 

高野 小林監督とは2010年の京都国際学生映画祭でお会いしました。小林監督は2007年に同映画祭でグランプリを獲得されていて、その後に撮影した初長編映画『カントリーガール』(2010)がオープニング作品として映画祭で上映されたんです。僕は日程が合わず拝見できなかったのですが、短編コンペ部門に出品されていた僕の映画『濡れるのは恋人たちだけではない』(2010)を小林監督がひどく気に入ってくれて、声をかけてくださったんです。「近々新作を撮る予定です」と僕が言ったら、「メイキングを撮らせてほしい」と持ちかけられました。それを聞いて、この人とても胡散臭いなと思ったんです(笑)僕の映画のメイキングを撮りたいなんていう人がいるわけない、きっと何か恐ろしい罠があるに違いないと思って。でも話を聞いてみると、小林監督が担当しているとある衛星放送番組の素材に使いたいということだったので、大変失礼な勘違いをしていました。映画祭のあとも、たまにご飯を一緒に食べたり、僕が映画を撮るたびにアドバイスをしてくださったり、本当に良くしてもらっています。それと『カントリーガール』の東京封切りの前に試写に呼んでくださり、個人的に映画評を書いて小林監督に送ったら、パンフレットに掲載してくださって。とても大きな自信になりました。

 

――高野さんにとって頼りになるお兄さんといった印象ですね。その小林監督が気に入ってくれたという映画『濡れるのは恋人たちだけではない』と、『TOKYO BIG PARADE デラックス』(2011)、そして『お姉ちゃんとウキウキ隅田川』(2012)を今回一挙上映されるということで。どれも、タイトルが個性的だと思うのですが。

 

高野 いつの間にか、長いタイトルになってしまいます。僕は滑舌が良い方ではないので、人に自作のタイトルを説明するとき、いつも苦労します・・・。

 

――高野さんの映画を見ていると屋外のシーンが多いですね。今回も野外上映会ですし、屋外が好きなのですか?

 

高野 どうなんでしょう・・・。単純に屋内だと照明が必要で、照明のことがよくわからないから、屋外に逃げてしまおうみたいな。いや、後ろ向きの発言ですね。屋外だと映画を撮影していて、自分が思ってもみなかったことが起こりやすく、それを記録したいということはいつも思っています。例えば、こんなことがありました。勝浦にある廃墟の前で撮影をしていたら、近くに住んでいたおじいさんが突然フレームの中に入ってきたんです。おじいさんは堂々とした立ち振る舞いで一言しゃべってフレームアウトしていきました。しかも、その一言が物語に寄り添っている内容で、撮影していてとても興奮しました。役者の人たちはおじいさんに動揺して笑みをこぼしており、堂々としたおじいさんのほうが台詞を与えられた俳優に見えてしまいました。そんな逆転を平然と許してしまう、目の前の世界を撮影したいという思いから、屋外でばかり撮っているのかもしれません。

 

 

――それと高野さんの映画の印象として、“俗っぽさ”というのを感じずにはいられません。例えば、銀座の交差点で40〜50人の群衆がダンスをする『TOKYO BIG PARADE デラックス』のラストシーン。しかも、流れている曲は郷ひろみというのが、かなり俗っぽいですよね。どうしてあんなことをやろうと思ったのですか?

 

高野 僕も何を信じて、あんなことをやろうと思ったのかよく覚えていません(笑)とりあえず銀座の歩行者天国でダンスするシーンを撮りたかったのですが、最初は主演の役者3人だけの予定でした。それが、いつの間にか10人、15人・・・と構想がふくらんで増えていき、ええい、どうせやるなら呼べるだけ呼んでしまえ!と思って、友達30人に来てもらいました。ちょうどダンサーたちの後ろに歩行者が通っていたので、たくさんいるように見えてラッキーでした。

 

――失礼ですが、高野さん自身の俗っぽさが映画に反映しているのかな、とも思いました。

 

高野 ・・・それは否定したいところですが否定できませんね。今回上映する新作も川端康成の「雨傘」という短編小説を下敷きに製作をはじめたんです。それがいつの間にか、『お姉ちゃんとウキウキ隅田川』というタイトルの映画になってしまいましたからね。でも、とってもウキウキする映画ですし、お姉ちゃん役の坂口真由美さんはキレイだし、とっても気に入っています。撮影をした隅田川で上映するのがとても楽しみです。

 

 

 

【プロフィール】

高野徹 1988年生まれ、横浜市在住。現在、横浜国立大学大学院都市イノベーション学府建築都市文化専攻(Y-GSC)所属。主な映画作品に、『映画はエンジン』(2009、イメージフォーラムフェスティバル2010入選)、『濡れるのは恋人たちだけではない』(2010、SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2010、第13回京都国際学生映画祭、北京学生短編映画祭)、『TOKYO BIG PARADE デラックス』(2011)、『お姉ちゃんとウキウキ隅田川』(2012)がある。