【連載 二丁目のエランヴィタール④】鈴木志郎康『日没の印象』text 若木康輔

♯4 『日没の印象』

2012年1月 インターネットの動画で

 

映画作家・原将人の家でビデオ作品『百代の過客』の梱包と発送を手伝った1993年の年末。鈴木志郎康の宛名と住所を書くだけで緊張した。遠い別世界のひとだと、作品を未見のままでいた。

金子遊編「フィルムメーカーズ」を読み、そうも言っていられないぞと思い始めた2011年の秋、ちょうど渋谷で上映会があったばかりだったと、数日後に知った。肝心な情報を掴めない自分のどんくささにガッカリした。あきらめがつかなくて、ネットにUPされている『日没の印象』を見たのだ。

ジョナス・メカスの365日連作を筆頭に、オンライン公開もオフシアターのうち、と僕は割合すんなり受け入れている。地方出身の映画ファンは大抵、テレビの深夜映画劇場やレンタルビデオで十代の基礎をつくるので、その延長。

ただ、それでもほとんどネットを通じて映画を見ることはない。権利阻害への加担にならないか、ためらいがある。幸い、『日没の印象』は鈴木志郎康本人の公式サイトにリンクが貼られていたので、大っぴらに見させてもらった。

僕には映画の感想がかなり大げさになるクセがあって、なかでも最上級が「自分はこの映画を見るために生まれてきた」。起きながら新しい人間性が目覚めるような、細胞の入れ替わりが手応えとして感じられるような気分を、年にほんの数回だけ味わう。『日没の印象』は、それが冒頭からいきなり来た。

 

 


いいカメラを買って嬉しい。すぐにでも撮りたい。妻と赤ん坊が家で待っている。すぐ撮り始めてみる。心技体とレンズがぴったり一緒になって、ああ、映画をつくるとはこういうことだと鈴木志郎康は掴む。なんて素晴らしい発見、出発点だろう。

てっきりお互いにそのつもりだと思い込んでいた、長い付き合いの相手に、求婚をあっさりと断られて(このままでいいじゃないのと言われたが、僕は「妻帯者」になりたかったのだ。パソコンを頑固にやらないやつだったので書いちゃうけれど)、しばらく無口に暮らした。

もともとからっきしモテないのが中年になってフラれたのだから、今後はひとりだなと、最近はサバサバしていたのだが。『日没の印象』を見たら、しみじみと結婚したくなってしまい困った。僕なんかでもいいと思ってくれる女性と、これから出会えるだろうかなあ。

自分のことばかり書いてる。紹介文としてはメチャクチャだ。それだけ人のこころのなかにパーッとまっすぐ入ってくる映画なのだと、ご容赦ねがいたい。『日没の印象』はすでに「セルフドキュメンタリーの先鞭をつけた記念碑的作品」という不動の評価を得ている。そこを咀嚼しようとしたら、フシギとまず自分語りからになる。アナタも見たらね、おそらくそうなります。

 

【作品情報】
 
『日没の印象』
1975年/日本/24分/16mm/モノクロ
構成・撮影・編集/鈴木志郎康
鈴木志郎康公式サイト:http://www.catnet.ne.jp/srys/

※サイト内の「WELCOME to Shirouyasu WEB VIDEO」にて『日没の印象』を観ることができます→http://www.haizara.net/~shirouyasu/webkoukai.html