【Interview】中国インディペンデント映画祭2013 中山大樹さんインタビュー

CIMG111311/30(土)から渋谷・オーディトリウムで開催される、中国インディペンデント映画祭。2008年より開催されているこの映画祭は、インターネットやマスメディアの情報では分からない、現代中国に生きる人々の生の姿が見られるとあって、好評だ。
主催者の中山大樹さんは、ドキュメンタリーを含む中国映画の最新事情に明るく、監督との交友関係も幅広い。近年は中国インディペンデント映画の紹介のみならず、中国で日本のインディペンデント映画を上映する活動も手掛けられている。本誌の貴重なレギュラー執筆者(ワールドワイドNOW★中国編)でもある。
4回目を迎えるにあたって、今回の作品のみどころや、ここ最近の中国のインディペンデント映画をめぐる最新状況についてもお話をお聞きした。
(取材・構成 佐藤寛朗/neoneo編集室)


今年の映画祭の特徴

——2008年、中山さんがほぼ一人で立ち上げた中国インディペンデント映画祭も、今年で4回目を迎えます。中山さんのなかで、定着してきた実感はありますか。

中山 今年は会場がオーディトリウム渋谷に移りましたが、2週間で50回、なるべくたくさんの人に来てもらおうという主旨で、本数を増やしています。毎回来てくれる人もいるし、楽しみにされている方は年々増えているような気がしますが、実際に会場でみなさんの顔を確認してみないと、分かりませんね(苦笑)。

——しかし、最近でも『スプリング・フィーバー』(監督:ロウ・イエ)のヒットや、王兵(ワン・ビン)人気など、中国のインディペンデント映画自体への関心は、決して低くない気がします。その中で今年の『中国インディペンデント映画祭』には、どのような特徴がありますか。

中山 もちろん、映画を通して、ほかの商業映画やテレビでは知ることができない中国の姿を観てほしいというのは、大きな主旨としてありますね。

あとは「インディペンデント映画」と言ってもいろいろな種類の映画があるので、何本かを並べてみることで、多様さや幅の広さがあることを知っていただけたらいいな、と思っています。今回は、呉文光(ウー・ウェンガン)のような古株から20代の女性監督までいて、監督の世代の幅も広いです。

——今の中国社会がストレートに反映されている、という印象が個人的にはあります。

中山 そもそも、インディペンデント映画自体にそういう意識づけがあるんですよ。意図的に集めた、いうよりは、自然にそうなっているんですけど。
中国の場合、テレビや新聞などのマスメディアは、政府の代弁者というか御用機関的な立場で仕事をせざるを得ないわけです。そうすると、ふつうの中国人からすると「何だ、またこんなのをやっているよ」という番組が多いわけです。

劇映画でもドキュメンタリーでも「実際はこんなじゃない」という強い思いが、彼らを現実に向かわせるというか、より社会的なテーマに向かわせる、というのがあると思うんですよね。だから、プログラムの傾向としては、ほかのメインストリームが扱わないもの、というものに、自然になっていくのです。

——作品は、どのように探してくるのですか?

中山 いわゆる非公式の地下上映のような場所でみつけてくる作品も多いですし、最近ではそうでないところで上映される作品からもみつけてきています。今回でいえば、『春夢』は中国国内では全く上映されていませんが、逆に『ホメられないかも』『白鶴に乗って』は検閲を通した作品なので、中国の劇場でも観られる作品です。以前は中国国内のインディペンデント映画祭に行けば、そこで全てが集まるという感じでしたが、最近は映画館でかかるもの、かからないもの、いろいろと出てきています。

検閲のあるなしは、ひとつの基準ではあるんですが、この映画祭では、そこが境目だとは思っていません。私から見て「これはインディペンデントと言っていい」と思った作品を選んでいます。

——検閲を通らない、ということは、国内の公式な上映機会を奪われることを意味します。監督たちは、自分の作品が公開されないストレスを、強く感じたりはしないのですか?

中山 
作った以上は、観てもらいたいと思うのは当然ですから、場所が無いということに関しては、すごくストレスがあるとは思いますけどね。

もちろんそれを覚悟の上で作ってはいるんですけど、もともとこの人たちはインディペンデントからスタートしているので、はじめから検閲を通さず“地下上映”でやるんだ、という人もいます。逆に、テーマによっては検閲を通し、より多くの人に観てもらう可能性を選択する人もいます。今回の『ホメられないかも』がそうですね。監督の楊瑾(ヤン・ジン)の少年時代の話だから、切らなければいけないところがもともと無いし、そういう作品でも今までと同じ作り方をしていますし、彼の中では変わらないです。

劇映画であれば、脚本を書く時点で「これは検閲を通すのが無理だな」というのが分かるわけですから、作る時点で、そもそも劇場公開を考えませんよね。ドキュメンタリーに関しては、基本的には、今でも中国国内の劇場公開は考えられません。だから今回のように、自分の作品が海外の劇場で、お金を取って公開されるというのは本当に貴重な機会なので、彼らはとても喜んでいます。
homerarenaikamo                『ホメられないかも』

——最近の中国国内の“地下上映”に関して、当局の動きの変化というのはありますか。

中山 昔は民間の映画祭を開催しても、あまり宜しいとは思わないが黙認、という姿勢でした。ところが最近は、もうやらせない、という方向にどんどんなってきていて、大きなイベントだけでなく、レストランやバーで毎週小さな上映会をするのも、北京では最近は難しくなっています。規模が大きくなったわけでも、作品の内容が過激になったわけでもないのですけどね。ちょっとしたことでも危険視する、政府のとらえ方の問題だと思います。

——政府の圧力が、理由はよく分からないが強まってきている、ということでしょうか。

中山 じゃあ極端にインディペンデント映画に対する圧力が強まったかといえば、そういうことでもないのです。個々の監督が警告を受けるとか、映画祭の主催者が拘束されたりすることもありません。作ること自体は、問題にはされません。ただ、上映を中止します、と宣言しろと。

昔は上映をさせなければ、当局もそこでコントロールできましたが、最近は微博(ウェイボー、中国国内のツイッターのようなもの)など、インターネットで動きがどんどんアップされますからね。もちろんひとつひとつ消していくわけですが、映画祭は、人々が集まり話をするところですから、結局はそれが運動化していくというか、力になっていくのを恐れているのかもしれません。


作品について


−—それでは、個々の作品についてもお聞きします。まず今回の特集上映として、張律(チャン・リル)監督を特集されますね。

 中山 張律(チャン・リル)は好きな作家で、ずっとやりたいと思っていましたが、朝鮮族の彼は今、韓国にいることもあって、なかなか接点がありませんでした。観る機会も余りなく、特に今回上映する作品は3本とも観ていませんでした。『キムチを売る女』や、モンゴルで撮影した『風と砂の女』なんかも、好きな映画ではあったんですけども。

ちょうど楊瑾(ヤン・ジン)の『ホメられないかも』をチャン・リュル監督が監修していた縁があったので、ヤン・ジンのほうから私に紹介してあげるといってチャン・リュル監督にDVDを送ってもらい、今回の上映が実現したんです。

——チラシで読む限りですが、強い個性がありそうですね。3作品の作風は違いますか。

中山 作風は違いますね。特にデビュー作の『唐詩』から『重慶』『豆満江』と徐々に変わってきているので、並べてみる楽しさはありますよ!彼は今、韓国の映画界で活躍していたりもしますが、今回の上映にあたっては、中国で撮った作品をフォーカスしました。

彼の作品は、中国国内ではあまり観られてはいませんが、若い監督にとても影響力のある人です。『キムチを売る女』(2007、韓国)は、海賊盤のDVDが出回っていたりするのですが……。面白かったのは、今回、DVDを送って頂けるよう監督にお願いをした時に、中国からわざわざ日本語字幕がついたものを取り寄せて下さったんですが、それが、中国で売られている日本の海賊盤だったという(笑)。
dmj                           『豆満江』
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