【Interview】中国インディペンデント映画祭2013 中山大樹さんインタビュー

           CIMG1116
ドキュメンタリー編

 ——ドキュメンタリーが3本ありますね。まずは『唐爺さん』[監督:徐童シュー・トン)]。これは前作『占い師』(中国インディペンデント映画祭2011で上映)で登場する女性のお父さんを撮っているそうですが、どのような経緯でそうなったのですか。

 中山 『占い師』の登場人物・唐小雁(タン・シャオエン)は、徐童(シュー・トン)が占い師を撮るなかで、お客さんとしてきた人です。『占い師』では、売春宿の元締めだった彼女の行く末は分からない、とされていたわけですが、実際には彼女は逮捕され、そのあとで監督に連絡をよこしてきた。いわく、罰金が必要なのだけれども、頼れる人がいないので、たまたま電話番号の覚えやすいシュー・トンのところに連絡をつけたんです。シュー・トンも、そんなによく知っている人ではなかったんだけれども、何とかしてあげなきゃということで、罰金の肩代わりをしてあげた。

まあ、彼の人間性がそうさせたと思うんですけども、彼女もすごくそれを恩に着て、これから私にできることがあったら手伝わせてくれ、という話になった。それで、彼が彼女の実家に招かれて行ってみたら、すごく面白いお父さんがいたので、じゃあお父さんを主人公にした映画を撮ろう、ということになりました。彼女の話もいっぱい出てくるし、自然な人間関係が素直に出ている作品だと思います。

tanjiisan 『唐爺さん』

——中国には、個人的な関係が続いていく中で、2部作、3部作になっていく作品が結構あるように思います。監督と撮影対象の人々との関係性がそうなるのは、中国ならではの特殊な事情などはあるのでしょうか。

 中山 たしかに、山形映画祭で上映された顧桃(グータオ)(『雨果の休暇』『オルグヤ・オルグヤ』など)もそうですね。

今回のシュー・トンに限っていえば、彼らと一緒になって同じ立場で撮る。そうでなければ自分は撮れない、という立場ですね。作品によって撮影対象は変わりますが、前の作品にちょっと出ていた人や、あるいは親戚だった、という人から繋がっていく。客観的な立場になるべきだという考えは全くない人ですね。

だからシュー・トンは、タン・シャオエンとは、撮影をしていないときでもご飯を食べたりしているし、映画ができ上がってからも、上映の場に彼女を一緒に連れていくんですね。彼女は前回、東京にも来て質疑応答をしましたが、今回も来るって言っています。監督は被写体を撮影の時だけ一方的に利用するのではなくて、上映も含めて一緒にやっている、という考え方です。そして、映画に一緒に出ている人たちにも上映の場をみせたい、自分たちがどういう事をしているのかを知ってほしい、というふうに考えています。

——考えてみれば、撮影対象になる方々も、撮影をしている監督の作品を観たことがない方が、ほとんどだと思います。

中山 そうですね。だから撮られる側も、撮られている時には。これがどういう形ででき上がっていくのかとか、どういう場で上映されるのかとかが。彼の場合は全てそういうことで、知ってもらえることで、より協力してもらいやすい関係を作っているところがあると思います。

——『マダム』[監督:邱炯炯(チュウ・ジョンジョン)]の主人公は、激しいタイプの人ですね。中国社会で生き抜くのは大変そうにみえましたが、監督とはどのような関係性だったのでしょう。

中山 邱炯炯(チュウ・ジョンジョン)の場合は割と身近な、アイデンティティの問題などをテーマにする作家でしたが、今回は彼のキャラクターに引かれて撮影をしていった、という作品ですね。
madame                         『マダム』

——「中国インディペンデント映画の始祖」と言われた呉文光(ウー・ウェングアン)も、今回2本の作品が上映されます。特別上映『ファク・シネマ』あたりからパーソナルなテーマになってきて、今回の新作『治療』はついに「セルフドキュメンタリー」になっている。その変化については、中山さんはどのようにお考えですか?

中山 これは、中国ドキュメンタリーの傾向とも重なってくるところもあると思います。

最初の頃は、ドキュメンタリー映画を意識しない、あるいは海外の作品など観たことがない人たちが、何かを撮ってみようというところから始まった。その時は単なるインタビューや、テレビのドキュメンタリーの影響が大きかったと思うんです。その後、それこそ呉文光(ウー・ウェングアンの紹介が大きかったのですけれども、フレデリック・ワイズマンなどの影響があって、ダイレクトシネマ的な撮り方をみんながするようになっていった。王兵(ワン・ビン)なんかもそうですが、なるべく自分は出てこないその場の映像というのが、中国ドキュメンタリーの主流になっていきました。

ところが最近は、みんながカメラを持つようになって、家族を撮ったり自分を撮ったりする視点が増えてきています。呉文光(ウー・ウェングアン)の場合は、全ての歴史を知っているので、いろんなことを考えながら変化を遂げてきていると思うのですが、おっしゃるような傾向はありますね。

chiryo                                                                    『治療』(映っているのが呉文光監督)
——中国のドキュメンタリー映画のひとつの特徴として、撮影対象となる人物が、撮られていることをあまり意識しない、日本に比べ、カメラの前で話すことに抵抗がない、というのがありました。以前はそういう作品をよく観たのですが、最近はその傾向も変わってきたりしていますか?

中山 撮る側の意識も若干変わってきているし、撮られる側の意識も変わってきていると思います。最初の頃は、撮られることも少なかったし、撮られても上映される場が無いから、撮られていることに対する意識なんて、全く考えないわけですよ。むしろ撮って撮って、みたいな感じだった。

でも最近はネットなどでやたらと動画が出回るようになり、中国でもいわゆる“炎上”じゃないですけど、その人たちをつきとめたりして、話題になるわけですね。プライバシーという意識が生じてきて、そういうことを考えて撮らせなかったりすることが出てきた。昔は撮る側もプライバシーなんていうのを全く考えなかったんですが、最近では意識をしながら撮る人が増えてきていますね。

劇映画編

——劇映画についてもお聞きします。『嫁ぐ死体』[監督:彭韜(ポン・タオ)]や『白鶴に乗って』[(監督:李睿珺(リー・ルイジン)]など、死の匂いのする映画が集まったのは偶然ですか?

中山 そこを意図して選んだわけではないので、偶然といえば偶然ですね。

—–『嫁ぐ死体』に出てくる、死体ブローカーという職業がある事をはじめて知りました。

中山 この『嫁ぐ死体』の習慣というのは、男性が独身のまま亡くなるとかわいそうだ、せめてあの世で一緒にさせてやろうと、女性の死体を買ってくる、ということになるんですけども、中国の北の方には多いですね。あの世とのつながりが濃いのでしょう。葬儀なんかも、伝統的なやり方にこだわるところがあって、遺体はその人の故郷で埋葬してあげるという習慣や、亡くなった時にあの世で使うためのお金を用意するという習慣もあります。そういう習慣が当たり前のように息づいています。

totsugushitai                                                                                    『嫁ぐ死体』
——『白鶴に乗って』に関しては、いかがですか。

中山 『白鶴に乗って』は原作の小説があって、火葬にするか土葬にするかという話なんですが、田舎では土葬にしてほしい、という習慣が今でも根強いです。私も実際に撮影をしたところに行って出演者に話を聞いたんですが、やはり本人も土葬にしてほしいと思っているそうです。

——『ホメられないかも』[監督:楊瑾(ヤン・ジン)]は、侯 孝賢(ホウ・シャオシェン)の世界観のような作品かと、チラシの文字面では思ってしまいました。

中山 観た人で、その比較を口にする人は多いですね。夏休みの話だったり、子どもの成長の話だったりするので。でもこの作品は、監督の少年時代をモチーフにしているので、舞台設定としては90年代です。だから、当時のそれらしい雰囲気が良く感じられます。ダムができると補償が貰える、ということで、みんな木を植えるわけですよ。自分の木だ!というと1本1本に補償がつくから、みんな木を植えておこうとする。そういうのは実際にあった話なんですけど、いかにも中国的というか。

——『小荷』(シャオホー)[監督:劉姝(リウ・シュー)]についてはいかがですか。

中山 女性監督らしい視点で撮られた作品だと思います。主人公は30歳前後の女性で、経済的にも、立場的にも、どうやって自立したら良いかを考えています。自分の考え方を貫くとか、男性に頼らないで生きていくとか。一方で親から結婚しなさいと言われたり、でも実際には不倫をしていたり。

あとは職業が学校の先生で、ほんとうは国の方針に従って教育をしなきゃいけないわけですが、本人はそれを決していいものとは思っていない。もっと生徒に考えなさいと言うけれど、それは中国では異端視されてしまう。そういう葛藤を抱えた末に、教師を辞めて北京へ出ていくのですが、なかなか自立した生活が難しい。安い地下室のようなところに住んで、職探しをしながら苦労するのですが、女性であるが故の弱さもある…という作品です。

今回は女性監督の作品が3本ありますが、今まではどちらかといえば男性的な作品が多かったので、そういう女性の視点も楽しめるかなと思います。

shaoho
——女性監督といえば、大阪アジアン映画祭で話題になった『卵と石』[監督:黄驥(ホアン・ジー)]も、今回、上映されますね。若い世代の台頭の象徴、のような視点は、この作品の選定にあるのですか。

中山 彼女は、今回の監督の中ではいちばんの若手です。監督は北京電影学院出身で、伝統的な流れをくんでいる人ですね。14才の少女を主人公に、監督の故郷を舞台に、思い入れ強く作っているので、今の若い世代の人たちにどういう思いがあるかがあらわれている作品です。

——もうひとつの女性監督作品『春夢』[監督:楊荔鈉(ヤン・リーナー)]に関してはいかがですか?

中山 円満な家庭と安定した収入を持って都会で生活しているが、どこか精神的な不満がある女性が、別の男の夢を見たことがきっかけで、夢の中で関係を持って、これはまずいのではないか、とお払いを受けにいったりする話です。でも、どこかでその男に依存していたりもする。

今、中国には、都会で物質的に豊かな生活をしているが、精神的には充たされない、という人が増えているんです。その中で皆、どうしたら良いのか分からなくなっている。この『春夢』という作品では、本人が悩みを抱えてお寺に行くのですけれども、実際に今、宗教に入り信仰を持つ人が増えているんです。そういうのも今の中国のひとつの現象です。豊かになった反面迷いを持つ、などということは、今までの映画では描かれてこなかった部分ではありますよね。そのようなテーマの作品が、きっと今後は増えてくるような気がします。
chm                             『春夢』

【上映情報】

中国インディペンデント映画祭2013
2013年11月30日(土)〜12月13日(金)

主催:中国インディペンデント映画祭実行委員会 
共催:オーディトリウム渋谷

【期間】2013年11月30日(土)〜12月13日(金)
【会場】オーディトリウム渋谷
【料金】一般1500円/シニア・学生1200円/高校生以下800円 3回券3600円 
    ※劇場窓口でのみ取り扱っています。
【公式サイト】http://cifft.net
    ※期間中ゲスト&トークイベント多数あり 公式サイトをご確認下さい 

【neoneo web 関連記事】
【ワールドワイドNOW★北京発】中国での独立映画祭の現状 text 中山大樹
※2013年10月

【ワールドワイドNOW★北京発】北京独立影像展の報告 text 中山大樹
※2012年8月の『北京独立影像展』報告

【Report】アジア映画の潮流を肌で感じる10日間@第8回大阪アジアン映画祭(前編)text 江口由美
【Report】アジア映画の潮流を肌で感じる10日間@第8回大阪アジアン映画祭(後編)text 江口由美 
※『卵と石』の紹介 2013年4月
【Report】「メモリー」そして「メモリー・プロジェクト」記憶と記録を巡る問い ~『カメラが開く記憶の扉 中国ドキュメンタリー映画の試み』第二部レポート ~ text久保田桂子
※今回上映・呉文光(ウー・ウェンガン)監督の活動を紹介 2012年12月