4年目の311に刊行される拙著「福島 未来を切り拓く」(SEEDS出版)。
その一見した肝は、日々隣に机を置かせていただいている福島県生活協同組合連合会の、金賞数日本一の酒ドコロにあって日本酒をこよなく愛す専務理事をして「(平井)有太マンの朴とつで誠実な接し方が、寡黙で万事控え目な福島県人の重い口を広げ、たくさんの本音の声が集まり、いろいろな福島があるということを気づかせてくれた」と評していただいた、第3章「福島、市民の声」だろうか。
同章をさらに「母」、「未婚女性」、「飯舘村出身」、「飲食店経営」、「農家」、「果樹農家」等と分け、常日頃首都圏、関西、総じて県外に届いていないと感じる想いを、拙くも、極力丁寧にまとめさせていただいた。「なぜ逃げない?」、「福島産食べていいの?」、「子どもは?」といった、いつまでもなくならない疑問に対する何通りかの答えはそこに見つけられるかと思うし、どれもが正解で、間違いはない。
もちろん、第1章「原発災害と福島大学」も、期せずして原発災害最前線に置かれた国立大学の研究者たちが、自らの専門知識と思考、行動力をフル稼動させた記録をおさめたもので、2011年末頃取材を通じて初めて出会い、すでに「フクシマ論」(青土社)で時代の寵児となっていた社会学者、開沼博氏に、「これは歴史的連載ですね」と評していただき、それは当時自分の背中を押してくれる原動力となった。
実際、2011年10月から2012年3月まで24回に渡り週刊朝日のカラーグラビア1Pでの連載「From F」だった同章は、最終回にお話を伺った入戸野学長(当時)に、「大学を終わらしめる、恐ろしい連載かと思いました」との言葉をいただき、連載終了後、たまたまお話する機会に恵まれた、「福島の真実編」準備中だった「美味しんぼ」原作者、雁屋哲氏には「頑張ってください」と固い握手をいただいた。氏の、シリーズ開始前1年以上に及ぶ福島取材のソースの一つとして、「From F」があったという。
ただ拙著を、他になかなかないであろう「復興に向けた実践の書」たらしめるのは、第4、5章だと自負している。そろそろ原発が福島県に立地された経緯、理由、その如何や、低線量被ばくの危険性の有無、WBC(ホールボディカウンター)による実測値の低さといった判断材料は揃ってきた。それでも不安が消えず、行政が彼らなりの理論の上で極端な安全論にシフトしていく中、それぞれ仕事や土地、家、家族の問題などを抱え「避難するにも避難できない」、または「色々考えた末前向きに残る決断をした」、はたまた「最初から避難など選択肢になかった」市民が、どう日々の生活を再構築していくか。
県外で被ばくリスクのない立場から、論理的には正しいかもしれない、こうすべき、ああすべきといった理想論は耳に入ってきた。しかしそれを個人が、しかも日常の暮らしの中で実現させていくのはほぼ不可能。国や県はどうやら、最初から答えありきで動いているかのようで、頼りにならない。東電をはじめとした企業も然り。そこで力を発揮したのが農協、生協といった、つまり「協同組合」だった。それらが実は親戚同士のような組織であり、しかも、生協の国内の組合員数は2000万人超で国内最大規模。世界的には国際協同組合同盟に100ヵ国以上、10億人以上が加盟する、想像を絶する巨大組織で、とにかく協同組合が未曾有の事態に奮い立ち、底力を発揮する様を目撃できたことは自分にとってまったく予想外の、心地よい衝撃だった。
中通りの住民にとっても遠い原発事故が起きた途端、「福島で農業をすれば人殺し」で、「農家はオウム信者と一緒」といった声が、首都圏の消費者から飛んできた。でも、それだけのことを言うからには、ベクレルとシーベルトの違いは当然、セシウムとカリウムの挙動の類似性とだからこそ有効だった吸収抑制対策、NaIシンチ(レーション)とゲルマ(ニウム半導体検知器)の違い、県内で2012年度から実施されている米の全量全袋検査の結果や、それが玄米30キロで1袋、1000万袋以上が対象で、精米すると糠部分に溜まる性質のセシウムは一気に激減する事実、そして、作物ごとの移行係数等も熟知の上なのか、せめて知ろうとする努力くらいはしてくれているのかという疑問も浮かぶ。
本来、生産者と消費者は共に原発事故の被害者。力を合わせて共闘する関係にありこそすれ、すれ違い、仲違いしていたのでは、事故を起こした当事者に利するだけ。分断を統治のセオリーとする、為政者の掌で踊るだけの結果にならぬよう警鐘を鳴らすのが、本書に込めたつもりのメッセージの一つだ。そしてそれが、複雑かつ流動的な福島の現場に身を置き、共に復興への取り組みを実践する中で育み、集めた言葉で構成され、最終的に福島地元の出版社から刊行されることに、もしかするとかつてなかったかもしれない、大切な意味が込められたのではないかと願う。
当初から執筆作業の中頃まで、自分にとってしっくりきていたタイトルは「先を行く、福島 望まずして未来を切り拓く」だった。結果、よりシンプルな、ご覧の通りのタイトルに落ち着いたが、込めた気持ちに変わりはない。「先を行く」と、「望まずして」が共存しているところに、原発災害を受けて福島が置かれた複雑な状況がある。
【書籍情報】
『福島未来を切り拓く』平井有太著
2015年3月11日発売
SEEDS出版 定価1852円+税 B6版 320頁
【執筆者プロフィール】
平井有太(ひらい・ゆうた)
1975年、東京生まれ。NYの美大School of Visual Arts卒。2001年帰国以降、フリーランスのライターとして雑誌媒体を中心に寄稿。イベント・プロデュース、通訳業等も兼務。2012年10月、福島市に「土壌スクリーニング・プロジェクト」事務局として着任、2013年度第33回日本協同組合学会実践賞受賞。地産地消ふくしまネット特任研究員、福島大学FURE客員研究員。共著「農の再生と食の安全 原発事故と福島の2年」(新日本出版、2013年)
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