【Report】IFFR&Berlinale2020 < ロッテルダム国際映画祭編> text 歌川達人

 

映画制作者の私は、常日頃から諸先輩方に「若いうちに海外の国際映画祭へ行って勉強してきた方が良いよ」と言われていた。

そんな折、運よくロッテルダム国際映画祭で自身の短編「時と場の彫刻 (英題The Sculpture of Place & Time)」が上映されることになり、初めて欧州のハブとなる映画祭へ参加することに。私の個人的な経験と視点から、ロッテルダム国際映画祭2020を振り返りたい。

若手にフォーカスしたロッテルダム映画祭

ロッテルダム国際映画祭はオランダ第二の都市ロッテルダムで毎年1月頃に開催される若手の登竜門として知られている。映画祭の傾向としては、エクスペリメンタル映画の色が濃い。映画表現そのものの可能性を押し広げるような、挑戦的な映画が上映されているような印象を受けた。

セクションを簡単に説明すると、映画祭目玉のコンペBright Future 部門が主に長編2作目までの新人監督にフォーカスしており、短編・中編・長編の部門にそれぞれ分かれている。その他、Voices部門、Deep Focus部門、Perspective Programs部門、美術館やアートスペースでの展示上映も行われている。

今年は15本の日本作品が上映され、Bright Future 部門では小田香監督「セノーテ」、平井勇監督「Shell and Joint」、中編Bright Future部門では遠藤麻衣子監督「TOKYO TELEPATH 2020」が上映された。その他の詳細は下記を参照頂きたい。

https://unijapan.org/news/awards/works/49th_international_film_festival_rotterdam_1.html

IFFRでは短編映画が数多く上映されており、その表現の多様性にたじろいだ。「こんな映画観たことない」と言うような作品が何本もあり良い刺激となった。その他、日本でもお馴染みのポン・ジュノ監督やペドロ・コスタ監督のマスタークラス、香港特集など企画が盛り沢山。コンペの結果はと言うと、Tigerコンペの大賞は、中国のZheng Lu Xinyuan監督「The Cloud in her room」。Bright future長編部門グランプリは、韓国のYoon Dan-bi監督「Moving On」。どちらもアジアの若手女性監督である。個人的には、韓国の「Moving on」が素晴らしい出来で驚いた。3世代で同居している家庭を静かに描いているのだが、キャストの演技が瑞々しく、胸を打つ。監督はまだ20代。今後の躍進が期待される韓国期待の若手監督と出会ったような気がした。

https://iffr.com/en/2020/films/moving-on

 

IFFR Pro Hub Mentor

IFFR Proでは、助成金支援やCo-producionマーケットなど、様々な形で映画監督やプロデューサーをサポートしている。その中でも、私は”IFFR Pro Hub”と呼ばれるセクションのプログラム「Pro hub mentors」と「Pitching sessions」に参加してきた。映画祭は作品を上映してもらうご褒美ではなく、何かを掴み取り、次回作に繋げる絶好の機会である。そんな想いでIFFR Pro Hub のプログラムにも積極的に足を運んだ。

まずは、「Pro Hub Mentors」について。これは、30分ほどメンターと一対一で面談できるプログラムだ。メンターは8名いて、それぞれ専門領域が異なる。

https://iffr.com/en/pro-hub-mentors-2020

最初は申し込もうかどうか躊躇したが、七里圭監督が以前同様のプログラムに参加したというレポートをウェブで拝読し雰囲気を掴むことが出来た。その為、私が参加しても場違いではなさそうだと感じ、2名のメンターとの面談を予約した。こういった過去の参加者によるレポートが日本語で読めるのは、私のような初参加の若手にとっては、非常に貴重でありがたい。

https://www.cinematoday.jp/page/A0003848

私が面談を申し込んだメンターのうちの1人、短編映画とエクスペリメンタル映画を専門とするMarina Kožulさん。彼女に「短編映画祭のランドスケープは、ジェネラルな映画祭とは全然違う」と教えて頂き、エントリー可能な短編映画祭とエクスペリメンタルにフォーカスした映画祭についての具体的な情報を頂いた。しかし、同時に「今後、自分がどういった方向で映画を作っていきたいのか?エクスペリメンタルな映画か?短編映画を専門に作っていくのか?ドキュメンタリーか?ジェネラルな長編映画を作りたいのか?それによって、全て戦略が変わってくるよ」とも言われた。「結局、あなたが今後どうしていきたいのか?あなたの興味次第よ」という言葉が印象的だった。

IFFR Pro HubPitching sessions

このプログラムは2名のピッチング講師によるワークショップが2時間行われる。そして、後日、5名のゲストとオーディエンスの前で3分間のピッチを行うというプログラム。ゲストは、映画祭のプログラマーやファンドのオーガナイザー、プロデューサーなど。詳細は下記のリンクを参照ください。

https://iffr.com/en/pitching-sessions-2020

ワークショップの内容は、そもそもピッチを受け取る側が「どういった情報が欲しいのか?どういう方法でピッチすれば、自分の企画を印象的にすることができるのか?」など基本的な座学。その後、2人1組でお互いピッチを披露し、どのように改善していけば良いかオープンに話し合うというのが大きな流れ。参加者のピッチ内容がみるみるうちに受け取りやすい形へと変わっていったのが印象的だった。

ただ気をつけなければいけない点として、短い時間で企画を他者に伝えるピッチというスキルは役に立つ反面、ピッチ向きな企画が量産されてしまったり、似たようなストリーテリングに終始してしまう危険性がある。分かりづらい複雑さや定義不可能な曖昧さを表現することそのものが、アート映画の使命ではないかと私は考えている。よって、自分の映画企画を言葉で単純化させ他者に伝わり易い形へ変換するピッチという行為によって、映画内容そのものが引っ張られ変容してしまわないようにだけは注意したい。一つの技術として、身につけておいて損はないと感じつつも、日本でこのようなワークショップを受ける機会はあまりないので非常に良い経験となった。後日、ゲストと観客の前でピッチを行った為、様々な人に顔と企画を覚えてもらったようだ。英語が堪能とまではいかずとも、なんとか会話ができるレベルの英語力がある監督は、気合を入れて参加すると良い経験になるのではないかと実体験として感じた。ちなみに、アジアの監督で参加していたのは私一人だった。

スペースを探して

IFFRの終わり際、ロッテルダムの名物ポテトを一人モグモグ食べながら、ふと今後の自分の将来を考えてみた。メンターのMarinaさんから投げられた問いが頭を反芻する、「今後どうしていきたいの?あなたの興味次第よ」と。「そんなこと聞かれても、なんて答えれば良いのだろうか…」と少し頭を悩ませつつ、「でも、多様な選択肢を知らない今の状態で、具体的に答えるのが難しいのも当然か」と開き直る。もちろん、この問いに即答できずとも自分の興味のまま映画に関わり続けることはできる。しかし、私はもう少し知りたいと思った。インターナショナルに映画を支えるプラットフォーム(映画祭)を取り巻く環境を。自分の興味を追求しながら映画に携わっていけるスペースがどこにあるのかを。そんな中、ふと思いつく。「もっと様々なハブとなる映画祭に足を運んで、自分の目で観察してみるのはどうか」と。そのような経緯で、2月に開催されたベルリン映画祭にも足を運ぶことに。

 

【執筆者プロフィール】

歌川 達人(うたがわ・たつひと)
1990年、北海道生まれ。映像作家。主にドキュメンタリーのフィールドで活動する。立命館大学映像学部卒業後、フリーランスとしてNHK番組やCM、映画の現場で働く。初監督ドキュメンタリー「カンボジアの染織物」がカンボジア、スペイン、ブラジルで上映され、ギリシャのBeyond The Borders International Documentary Festival 2018のCompetitionでは審査員特別賞を受賞。短編「時と場の彫刻 (英題:The sculpture of place & time)」がロッテルダム国際映画祭2020で上映。