【Preview】アニメーションとドキュメンタリーが交わる??――〈GEORAMA 2014〉開催!! text 岩崎孝正

『チトー・オン・アイス』 © Nail Films and Max Andersson

『チトー・オン・アイス』 © Nail Films and Max Andersson

「本誌neoneo02号、03号に連載されている土居伸彰氏のコラム『アニメーションとドキュメンタリーが交わるとき』を参考に、『GEORAMA 2014』の紹介記事を書いてください」と編集部の萩野さんから電話があった。アニメーションとドキュメンタリーが交わる? 違うジャンルの映画(映像)が交錯することはめずらしくないが、萩野さんへもう一度聞き返そうとためらった。「えっ。アニメーションとドキュメンタリーですか?」。

劇映画とドキュメンタリーが交わるのならまだわかる。世界的な評価を得たという河瀬直美監督『萌の朱雀』(97)や、近作では震災直後の宮城県の石巻近辺で撮影したという園子温監督『ヒミズ』(11)など、日本映画でもそのタッチのものは少なくない。 だが、土居氏のコラムで紹介されているアリ・フォルマン監督『戦場でワルツを』(08)を私は過去に見て、衝撃を受けていたことを想いだした。

『戦場でワルツを』は、監督の薄れたレバノン内戦の記憶をたよりに、過去の戦友たちを訪ねていく、ドキュメンタリータッチで描かれたアニメーションだ。これが、自叙伝的な傑作だった。「この映画は、現在のインタビュー映像も、過去の回想も、同じスタイルのリアリスティックなアニメーションを用いて区別なく描く。『アニメーション・ドキュメンタリー』では、その選択が、過去のトラウマが現在に貫入し、逆に現在が過去を捏造していく、過去も現在も未来も混然一体となったリアリティの感覚を創りだすと指摘する」と土居氏は書く。

個人の内的な世界を(手書きで)表現するアニメーションと、実社会の外的な記録を主とするドキュメンタリーは、異なる。この動きはアニメーションの側からというより、どちらかといえば、ドキュメンタリー側からのクロスオーバーなのか? 実は土居氏の指摘によれば、古くはユーリー・ノルシュテイン監督『話の話』(79)から、近年は宮崎駿監督『風立ちぬ』(13)まで、アニメーションとドキュメンタリーのジャンルを越境する作品は、知らないだけでごろごろと転がっているのだ。

アニメーション・ドキュメンタリーと一口にはいうけれども、どれだけの数が上映されているのか。今回の「GEORAMA 2014」は、アニメーション・ドキュメンタリーをはじめ、世界の最先端を行く長編アニメーションを観られるチャンスだ。世界の最先端が4月12日~25日まで吉祥寺バウスシアターに集うのだ。

© Spectre Films

『痛くて惨めだ』 © Spectre Films

フィル・ムロイ監督『痛くて惨めだ』(13)の登場人物たちは、ムロイ監督作に出演し、それを映画館で見ている。映画はエンドロールからはじまる。役者にもかかわらず「コンピュータ・ボイスと口パクの影絵」の登場人物たちの姿は滑稽である。彼らは出演しているにもかかわらず、エンドクレジットに名前が入っていないことを目撃する。彼らは監督に異議を申し立てようとするが、映画館はなぜか閉鎖されドアがない。外へ出られない役者たちはやがて内輪揉めをはじめる。

『痛くて惨めだ』は、そんな役者たちのドタバタを、コミカルかつシュールにとらえたアニメーションだ。はじめは笑って見てられるのだが、彼らが密室殺人を犯すことで、とたん劇はミステリーとなる。密室の会話劇とでもいうべき展開は、そのまま映画館の密室性をぼんやりと考えさせられる。殺人事件を犯してしまう彼らはなぜか哀切である。

哀切さでいえば、クリス・サリバン監督『コンシューミング・スピリッツ』(12)も負けじ劣らずな作であった。新聞記者であり、自然史博物館ボランティア、またバス運転手であるバイオレットは、とある夜、尼僧(の恰好をしたドリス・ブルー)をひき逃げしてしまう。一方で、ビクター・ブルーは飲酒運転と盗難車運転の容疑で警察に捕まる。また、アール・グレイはひき逃げされたドリス・ブルーを看病して、手術まで施すが、やがて逮捕される。アメリカ郊外の田舎町マグソンを舞台に、「家族」とは何かを訴える、悲しくも愚かな3人を主な登場人物としている。

二作とも作中に事件性を埋めこみ、一方で大きな事件があり、もう一方で小さな事件が起こり物語は展開する。『コンシューミング・スピリッツ』は、登場人物の古い記憶が内面として語られ、ややわかりにくい構造となっているが、咀嚼して観ればより深い感動をもたらすアニメーションとなっている。

『マイ・ドッグ・チューリップ』 © The My Dog Tulip company LLC

『マイ・ドッグ・チューリップ』 © The My Dog Tulip company LLC

一方で、『マイ・ドック・チューリップ』(09)は、愛犬とのささいな日常を綴ったアニメーションだ。英国の小説家であるJ・R・アッカリーと、愛犬チューリップ(ジャーマン・シェパード)が過ごす16年間をアニメーション化している。偏屈な老人であるアッカリーにとって、彼女は「生涯の『恋人』であり、『わがまま娘』そして『理想の友人』――つまり、まさに彼が長年探し求めていた相手」だ。

英国(イギリス)原作の動物アニメーションといえば『あらいぐまラスカル』(77)、犬のアニメーションであれば『フランダースの犬』(75)であるが、両者と比較して、この愛犬チューリップは彼らのようにキャラクター化された動物(犬)ではない。J・R・アッカリー視点の、犬を飼ったことのある者なら誰しも「それある、ある」とうなずくようなエピソードが満載のアニメーションであろう。伝染病の予防接種から、出産にいたるまで、飼い主としてのJ・R・アッカリーの困惑をリアルに描いている。

都合、最後に見たのがマックス・アンダーソン&ヘレナ・アホネン監督の『チトー・オン・アイス』(12)である。これが、一番アニメーション・ドキュメンタリーに近い作であった。監督の作である「ボスニアン・フラット・ドッグ」という、実話をもとにしたマンガがある。これをスウェーデン代表としてスロベニアの国際カンファレンスに出したところから映画ははじまる。その後、監督自身が、スロベニアのメテルコヴァ、ザグレブ・ウトリネ、セルビア・ベオグラード、ボスニア……などを、マンガと(ともに氷漬けにされたチトーのオブジェ)をめぐるロードムーヴィーになっている。モデルとなった登場人物のインタビューをはさみながら、マンガの舞台を歩いていく構造である。

驚くのはうまく編集されたアニメーションの豊かさだ。観客を、すんなりとマンガの世界観へと引きずりこむのだ。恐らく監督作のマンガを読んだ後と前では見方が違う。単なるブツ撮りではないアニメーションの豊かさと、カットの多い編集が素晴らしかった。アニメーション・ドキュメンタリーの可能性を観た気がした一本だ。

『背の高い男は幸せ?』 © Partizan

『背の高い男は幸せ?』 © Partizan

さて、以上4作を見て来た。「GEORAMA 2014」は、ほかにも見逃せない映画が目白押しだ。黒人監督テレンス・ナンス監督『あまりにも単純化しすぎた彼女の美』(12)は、hiphopアーティストとして著名なJay-zがプロデューサーに名を連ね、かねてから監督の名前は風の噂で飛んできてはいた。国内公開を今か今かと待ち望んだ人も少なくないだろう。またトマシュ・ルナク監督『アロイス・ネーベル』(11)は、ヤン・シュヴァンクマイエル監督で有名なチェコ・アニメーションで、社会主義体制崩壊の物語を描いている。

だが何と言っても見どころはミシェル・ゴンドリー監督『背の高い男は幸せ?』(13)である。言語学者ノーム・チョムスキーのドキュメンタリーに『チョムスキー9・11』(02)があるが、本作が素晴らしいのは、チョムスキーの理論をアニメーション化している点だ。インタビューだけでは浮びあがらない彼の思想(理論)と知性をアニメで表現するとは、全くの図抜けた発想ではなかろうか。とくにゴンドリーの作品はアニメーション・ドキュメンタリーの作例としてぜひとも期待したい。

「GEORAMA 2014」は、これら計7作品、国内未公開の長編アニメーションが目白押しなのだ。 ほかにも特別企画「暗闇のアニメーション」『闇の中の眠り姫』(07)、『おかえりなさい、うた』(10))「特別オールナイト・変態&3D」「カナダ国立映画製作庁3D作品傑作選」「変態ナイト3D奇妙な立体特集」公開中の『ワンダー・フル!!』のめくるめく衝撃も記憶に新しい水江未来監督による「水江未来と抽象アニメーション大戦争」)、クロージングプログラムひらのりょう監督『パラダイス』完成記念パーティー」など、てんこ盛りの内容だ。

とりわけ特別オールナイトで製作作品が上映されるカナダ国立映画製作庁(NFB/ONF)は、かつてイギリスのドキュメンタリー運動を主導したジョン・グリアスンによって、ノーマン・マクラレン監督ら抽象アニメーションの作家とともに、ミシェル・ブロー監督やピエール・ペロー監督などの重要なドキュメンタリー作家をいくつも輩出している。春の夜に、是非吉祥寺へ足を運んでほしい。

『パラダイス』 © Ryo Hirano/FOGHORN

『パラダイス』 © Ryo Hirano/FOGHORN

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|開催概要

0-(Logo) GEORAMA2014

会期 2014 年 4 月 12 日(土)〜4 月 25 日(金)
会場 吉祥寺バウスシアター     
    東京都武蔵野市吉祥寺本町 1-11-23 TEL:0422-22-3555

★前売券絶賛発売中!
【窓口】吉祥寺バウスシアター 3 月 1 日(土)~4 月 11 日(金)
★山口会場、神戸会場での開催も決定!
山口情報芸術センター[YCAM] 2014 年 6 月 21 日(土)・22 日(日)
神戸アートビレッジセンター 2014 年 7 月 19 日(土)~25 日(金)

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|プロフィール

岩崎孝正 Takamasa Iwasaki
1985年福島県生まれ。フリーライター。福島県相馬市の「被災地」となった地元を舞台に、ドキュメンタリーを制作中です。