今から15年ほど前、僕は新宿TUTAYAというお店のアルバイト店員でした。レンタルビデオのフロアは、当時日本で有数と言われるぐらいのビデオ在庫量でした。働いている店員も多種多様。邦画マニア・洋画マニア・アニメマニアから、自主映画監督・俳優・ミュージシャン・お笑い芸人などなど・・・。
僕は洋画7:邦画3ぐらいの割合の映画マニアで、主に4F洋画フロアで働いていました。
そして、この店で働く映画マニア(の男子)のほとんどが、愛読していたのが『映画秘宝』シリーズだったのです。今でこそ『映画秘宝』と言えば月刊誌スタイルですが、当時は『別冊 宝島』シリーズの流れをくむ単行本でした。若い人には『別冊 宝島』そのものが、チンプンカンプンでしょう。現在の雑誌『宝島』からは想像も出来ない別冊ですよ(笑)。
今回はそんな雑誌『映画秘宝』を、一冊丸々レビューしてみようと思います。『映画秘宝』7月号の表紙から裏表紙まで、広告も含めて一字も逃さず、全ての文字を拝読いたしました。冒頭に雑誌記事の「ベストテン・ワーストテン」をかかげ、以下に寸評を加えたいと思います。
<ベストテン>
10位 町山智浩のU.S.A.レポート『キャビン・イン・ザ・ウッズ』(P28)
9位 海外ドラマ 夏の陣!(P58~63)
8位 エロス・ノワール対談 井土紀州×笹峯愛『彼女について知ることのすべて』(P54~55)
7位 『メン・イン・ブラック3』大放談!(P27)
6位 愛と誠と梶原一騎と三協映画の世界(P46~50)
5位 『ベルフラワー』公開記念対談 花くまゆうさく×樋口毅宏(P66)
4位 技斗番長 活劇与太郎行進曲 エピソード104 ハチャメチャな映画を支える制作さん苦労話Part.1 (P95)
3位 大槻ケンヂの激突!パイパニック対談 第116回 田中れいな(P36~37)
2位 みうらじゅん×中野貴雄 帰ってきたエマニエル夫人!(P42~43)
1位 ウィンスロウ・リーチよ、永遠なれ!(DEVILPRESS内) (P52)
10位にあげた『キャビン・イン・ザ・ウッズ』は、『映画秘宝』7月号の全てに目を通して、一番観たくなった映画でした。クロックスワークス配給で年内公開予定。以前、TBSラジオ「たまむすび」内で町山氏が紹介していて気になっていたのですが、今回の記事を読んでますます観たくなりました。『LOST』や『クローバーフィールド』の脚本家ドリュー・ゴッダードが監督です。前半は典型的なホラー映画のお約束展開なのが、後半は『トゥルーマン・ショー』もビックリな仕掛けが!どうやら古今東西のホラー話を統一する理論が鍵となるようです。クライマックスは『ゾンビ』『悪魔のいけにえ』『シャイニング』『ゴジラ』などを足して、しかも割らないらしい(笑)。最後に登場する宇宙最強モンスターと戦い続けて来た人って誰?謎のクライアントの正体は?あああああ、早く観たい!!がんばれ!クロックワークス!!
9位は、まずマッチョ野郎たちが殺しあう剣闘士ドラマ『スパルタカス』を、田亀源五郎氏に語らせている点が、痒い所に手が届く采配で素晴らしい!なんせ筋肉・セックス・残酷描写と、エログロがテンコ盛りのドラマですから!他には、イスラエル産サスペンスをリメイクした『Homeland』が、双極性障害を本格的に取り上げていて興味深い。日本でも放送が決定しています。グリム童話をモチーフにした犯罪ドラマ『Grimm』と、全米ではヒットメーカーながら、日本では秘宝読者ぐらいしか知らないであろう(笑)、ジャド・アパトー(『40歳の童貞男』『スパーバッド 童貞ウォーズ』など)のイタイ20代女子群像劇『Girls』はどちらも残念ながら日本上陸未定。アパト-は傑作青春ドラマ『フリークス学園』を送りだした実績もあります。そんな『フリークス学園』を深夜に放送していた日テレさん、どうですか?
8位の対談では、他紙なら大人の恋愛映画として取り上げるであろう『彼女について知ることのすべて』を、大人の犯罪映画として分析している点が、いかにも『映画秘宝』らしくてイイ。人も雑誌も同じで、他と同じ事をしても仕方ない。同じだったら一つで良いのだ。笹峯愛さん演じる和風ファムファタールに振り回されて、ドツボに堕ちて行く三浦誠己さん演じる教師・・・。佐藤正午原作だが、記事内でも指摘されているように、まるでどこかの地方都市に転がっている事件の実録でもあるかのようです。映画を観た後にこの対談を読むと、もう一度観なおしたくなりますね。
7位は軽めのインタビュー記事なのだが、いきなり前作『MIB2』についてふれられたソネンフェルド監督が「あの作品のことはみんな忘れてくれ」と嘆いたり、キャストのジョシュ・ブローリンが「金と暇があったら『ジョナ・ヘックス』を自分で撮り直したい」とか「『グーニーズ』?忘れてくれ(笑)」なんて言い出して、人には歴史と後悔が必ずあるんだなと思い知らされます(笑)。『MIB』シリーズは幸いな事に『1』しか観ていませんが、『2』の存在は忘れて『3』をチョット観たくなりました。今回はタイムスリップして1969年が舞台になるのも興味を引きます。ザッツ・ハリウッドな作品ですが、面白いか面白くないかには、どこで作られたかなんて関係ないですから。
6位の5ページにもわたる記事では、やはり三池崇史監督vs斎藤工の対談がピカイチでした。作品ごとに賛否激しい三池映画ですが、監督から語られる言葉はいつもブレが無くてカッコイイと思います。予告編を観た限りでは、有名原作漫画を大袈裟なミュージカル仕立てにしてしまっていたり、妻夫木聡を筆頭にかなり大人が高校生を演じていたりと、不安要素だらけでした。しかし、この対談内で監督が、「女の子たちはリアルな歳の女優、男の子はひと回り上の男優」をキャスティングした理由とか、「ミュージカルではなく、ただ登場人物が歌い出すだけ」との旨の発言をしており、抱いていた不安が少し和らぎました。70年代版『愛と誠』や三協映画についての解説なども含めて、『愛と誠』を観る前に読んでおくとイイかもしれません。
5位も対談ですが、こちらは関係者では無くて、『ベルフラワー』ファン代表の二人が語り合うといった感じです。『マッドマックス2』の悪玉:ヒューマンガスに憧れて、火炎放射機と炎を噴き出す改造車を自作した男が、監督・主演した狂った自主映画『ベルフラワー』は、一見バカ映画のようですが、実はかなりシリアスな恋愛映画だったりします。樋口氏が『青春の殺人者』を監督にプレゼントしようとするのが、良く分かります。対談の最後で、花くまゆうさくさんが、ボンクラという言葉を使う時は杉作J太郎さんへの謝意がないといけないと発言していて、本当にその通りだと納得させられました。便利な言葉だが、「ボンクラ」をやたらに使ってはいけないのです。ロフトプラスワンでの『東京ボンクラ学園』に通っていた身としては、肝に銘じなければと痛感しました。
4位は日本を代表する殺陣師・アクション監督の高瀬将嗣氏の連載で、ご自身も関わられた実写版『ビー・バップ・ハイスクール』シリーズのロケ地探しの苦労話を、制作部をねぎらいながら爆笑エピソードとして昇華させています。制作部出身の僕が感動しないわけがありません!(笑)。確かにあのシリーズは今から考えても、走行する電車内から人を放り投げたり、商店街のアーケードから何人も飛び降りたりトンデモナイ撮影をやっていました。似た様な事は出来ても、当時の熱までは再現できないだろうなぁ・・・
3位は、サブカル界のロックスター:大槻氏が、毎回美女と対談する連載。秘宝に出ても大丈夫なのか?と心配してしまうような方も対談されてますが、今回の田中さんもそうでした。友松直之監督『ステーシー』の原作小説が、モーニング娘。がズラリと出演する歌劇になることにも驚いたが、心配した通り田中さんが元ヤンキーの過去をさらりとカミングアウトしていてもっと驚きました(笑)。モーニング娘。メンバーだから、どうしても喫煙の有無が気になってしまいます・・・。歌劇の方はエロやグロをやらない方向らしいですが、果たしてあのゾンビ小説をどのように料理しているのか気になります。
2位は、みうらじゅん氏と中野貴雄監督が『エマニエル夫人』シリーズへの想いをぶつけ合う爆笑対談。二人の結論は「このシリーズはBOXを出した方がイイと思う」でした(笑)。御二人の対談も爆笑ですが、新エマニエル夫人シリーズのタイトルも酷くてイイです!
『エマニュエル スキンレスシティ』:ロゴはもちろん『シン・シティ』風!
『エマニュエルとチョコレート工場』:こちらにもMJモドキは出るのか!?
『エマニュエル 辱めの報酬』:コードナンバーは0069!
『エマニュエル パラノーマル・エクスタシー』:おそらく定点カメラ!
『エマニュエル・イン・ワンダーランド』:ロゴまでソックリ!
『エマニュエル 未知との挿入』:最後はダジャレかよ!!
一生懸命、企画会議をしたんだと思います。そんな会議風景を是非BOXの特典映像に入れて頂きたいですね。
そして、栄えある1位は『ファントム・オブ・パラダイス』『悪魔のシスター』など初期デ・パルマ監督作品や、『悪魔の沼』『ファンハウス/惨劇の館』などトビー・フーパー監督作品の常連でもあった俳優:ウィリアム・フィンレイへの追悼記事。たった1ページだけの記事ですが、イラスト:三留まゆみ・文:柳下毅一郎という完璧な布陣。これが出来るのは映画秘宝だけだ!!今の宝島には絶対無理だ!(笑)。フィンレイの事を知らない人たちにも、是非読んでいただきたい。そして、興味を持ったら彼の代表作『ファントム・オブ・パラダイス』 を観て欲しいです。
<ワーストテン>
10個もないですが、気になった記事をいくつか。
5位)『G.I.ジョー バック2リベンジ』公開時期表示(P11)
4位)ウィンスロウ・リーチよ、永遠なれ!(P52)
3位)愛と誠と梶原一騎と三協映画の世界(P46~50)
2位)エロス・ノワール対談 井土紀州×笹嶺愛『彼女について知ることのすべて』(P54~55)
1位)ピンク映画50年!銀座シネパトスで大特集!(P28)
5位:コレは雑誌側に問題はなく、作品の公開時期が急遽8月から3月に延びた為だが、速いのが当たり前のネット時代における月刊誌について考えさせられました。延びた理由が3D化の為と発表されているがホント?出来上がりに問題があるのでは?その辺りを次号で追及してリベンジしていただきたい
4位:ベストワンの素晴らしい追悼記事ですが、惜しむらくは、イラストをカラー掲載で見たかったです。今回は1ページでしたが、いずれ大特集を秘宝なら組んでくれると期待しております。
3位:ベストテンにも入っている記事ですが、5ページある記事全体で、梶原一騎氏の取り上げられ方に対して、もう少し作画担当のながやす巧氏も扱って欲しかったです。例えば、ながやす氏に今回の『愛と誠』の感想をインタビューするとか。
2位:こちらもベストテンに入れた記事ですが、笹嶺愛と笹峯愛の表記が二つあったけど、理由はあるのだろうか?御本人のHPだと笹峯しか見当たらなかったですが・・・。残念なのは、笹峯愛プロフィールに『BSマンガ夜話』が入っていないこと。あの番組のファンとしては是非入れて欲しかったです。
1位:『PINK FILM CHRONICLE 午後8時の映画祭』は夏の終わりまで続く長い興行ですが、1/6ページでは、いくらなんでも扱いが小さ過ぎる!映画秘宝らしくないよ!監督名を連ねるだけでも凄いメンツだよ!くやしいからYou Tubeの予告編を載せておきます。 個人的に一番のオススメは、高橋伴明監督の泣けるピンク映画『襲られた女』。普段、ピンク映画などを観ない人たちにこそ観て欲しい特集です。
生まれて初めて雑誌一冊全ての文字に目を通しました。夢中になった『少年ジャンプ』でも、高校生の頃ハマったヘヴィメタル専門誌『BURRN!』でも、やったことは無かったですね。初体験が『映画秘宝』で良かったのかもしれません。前厄にして童貞卒業です(笑)。
【執筆者プロフィール】 雉雅威(きじがい) 映像制作・上映団体Astro Cheap所属。今一番面白いメディアは、間違いなくラジオだと思います。生粋の阪神ファンです。最近は、某マンガの映像化と、某事件の映像化に日々精進しております。サイトhttp://www.facebook.com/kijiguy ツイッターhttps://twitter.com/#!/kijiguy