佐藤健人(映像作家)セルフ・インタビュー
──イメージフォーラムフェスティバル2012のジャパン・トゥモロウ(一般公募部門)で『5月/May』がノミネート上映された佐藤健人さんに「出品作家の眼から見たイメージフォーラムフェスティバル2012 」というテーマでお話をお聞きしたいと思います。
今年の公募部門は8ミリフィルムを使用した作品が多かったですよね。大賞受賞の『きりはじめて、はなをむすぶ。』も8ミリとデジタルをうまく組み合わせた作品ですし、佐藤さんの『5月/May』でも8ミリと映写機が重要なアイテムとして出てきます。
佐藤 シングル8の出荷が終わり、現像終了も近づいているという事も関係しているのかもしれません。8ミリ特集のプログラムの最後に上映された、『FU嶽三十六景』(金谷祐希)は、まさしく8ミリのそういった現状を描いたインタビュー形式の作品で、見ていいて感慨深い気持ちになりました。
──作者の金谷祐希さんは舞台挨拶で「8ミリが終わっていく事へのささやかな反抗心から制作した」と語っています。
佐藤 インタビューも8ミリで撮影してますからね。作品全体を貫く基本的な概念にブレがない。もし、デジタルで撮影して、インタビューだけを繋いだとしても記録映像としては充分価値のあるものになると思います。でも、金谷君はそれに甘んじなかった。多重露光であらゆる風景に富士山を登場させたり、バルブ撮影をしたりして、8ミリ映画の魅力を自分からも伝えようとしているんです。ちなみに、フィルムは自家現像したものだそうです。そこまで徹底して8ミリに拘っている。富士山にまつわるインタビューから始まって、「富士→富士フィルム」へと話が変化していくという構成の面白さも、技巧的でしっかりエンターテインメントを考えいてます。ただ、少し真面目すぎてパンチ力に欠けたかな、という気がします。特に後半にかけてが、完全にインタビュー重視になってしまっていて……。破綻してもいいから、金谷君自身が8ミリを楽しんでいるのが伝われば、もっと良かったと思いました。
──「8ミリを楽しんでいる」という事で言うと、『チェンマイ チェンライ ルアンパバーン』(栗原みえ)はどうでしたか?オリジナル8ミリフィルムでの上映でしたが。
佐藤 『チェンマイ~』にはド肝を抜かされました。とにかく構成がものすごく巧みだと思いました。最初は説明も無くどこか異国の情景が映し出されて、タイトルに「チェンマイ」ってあるから、(ここがチェンマイなのかなー)とか思いながら観てて、結構長くこれが続いて。と思ったら、途中から突然ナレーションが出て来る。妙に舌足らずで特徴的な語り。とりとめのない事を喋ってるんだけど、何故か面白い。映像のついた旅エッセイみたいな感じで、これだけでも面白かった。でも、ここまではよくある日記映画ですよね。それが旅行が終わってから突然、ナレーションのトーンがめちゃくちゃ重くなって、「赤いつぶつぶが降って来た」とか言い始める。同じ人が喋ってるとは思えないような暗い声。この変化に、もの凄い恐怖心を抱きました。「赤いつぶつぶ」って、つまり放射性物質の事をいっている訳ですが、放射性物質なんて目に見えるはずがないじゃないですか。でも、栗原さんは「赤いつぶつぶ」として見えていて、恐くて家中を目張りして、外にも出なくなったと言っている。作品の為にそういう描写を選んだのか、放射能の恐怖心からオカシクなっちゃったのか、それとも本当に見える能力があるのか……、どちらにしても、とんでもない人だと思いました。最後に「エピローグ」として、再び旅の映像に戻って、ナレーションもまた舌足らずな喋りになる。この落差に感情が付いて行けず、さらに不安定な気持ちになるんです。確実に意図してこういった構成にしてますよね。術中にハマってしまいました。
──デジタルと8ミリの混合した『そげる・たわむ・外に流れる』(三木はるか)はどうでしたか?貧乳にコンプレックスを持った監督が、高校時代を振り返ったりヌーブラを購入したり何故か原始時代にまで遡ったりするという、虚実入り混じった作品ですが。
佐藤 これは「貧乳である」という入り口だけがドキュメンタリーで、後は徹底的に作り込まれた劇映画です。この方法でやるなら、現実に影響を与える位の虚構の構築をする必要があると思います。園子温監督や平野勝之監督の8ミリ時代の作品の様に、周りを巻き込みながらドラマを作り上げて行くべきだと思うのです。
──いわゆる、ポストダイレクトシネマの手法ですね。
佐藤 そう、ポストダイレクトシネマ。つまり、映画が作者の意図すらを越えて、あらぬ方向へ暴走していく程の力強さが欲しかったんです。原始人の格好でプロペ通りを闊歩する程度で満足せずに、実際に豊胸手術をしてしまうくらいまでいって欲しかった。もちろん、必ずしも体を張ることが正しいとは思いませんし、三木さんは自分のキャラクターと表現手法を考えた上で、とても真面目に丁寧に作っているというのも判るのですが、物足りなさを感じてしまいました。 そして、同じく物足りなさを感じたのが、観客賞受賞の『加藤くんからのメッセージ』(綿毛)です。
──妖怪になれると信じている36歳加藤くんを追った、モラトリアム期を抜けられないダメ人間への応援ドキュメンタリーですね。
佐藤 取材過程を全部見させられている様な構成・編集の不十分さも気になりますが、根本的に問題なのは、対象者への突っ込みの甘さです。加藤くんの周りにいる人全員が彼を肯定していますよね。それならせめて監督が、敢えて意地悪な質問をしたりして揺さぶりをかけるべきだと思うんです。綿毛さんという女性が監督ですが、アニメ声で顔もカワイイ。それなのにその要素が全く活かされていないんです。「アニメ声の女性が非リア充中年を密着取材」なんてそれだけで面白くなりそうなのに、全然そういう展開にならない。後半になって、加藤くんが綿毛さんの事を好きだと言っていたことが明かされますが、そこまで言われてるのに、なんでもっと突っ込んでアクションしていかなかったのか疑問でなりません。この映画、仕事の話とか、親の事とかどれもこれも中途半端に出て来るけど、正直そんなのどうでも良くって、一番重要なのってやっぱり女でしょ。中年ダメ男にとって最も重要なのは、お金でも仕事でも親でもなく女。それをテーマに撮れば面白くなったと思います。
──綿毛さんが「女の子にモテる為に妖怪になりたいって言ってるんじゃないですか?」って質問するシーンがありましたね。
佐藤 そう、この作品で唯一気の利いた質問がそれでした。でも、その質問も否定されたらそれっきり。それ以上は何も掘り下げていかない。非常に残念でした。 あと、加藤くんのパフォーマンスの映像に、内輪感というか、「面白さの押し売り」みたいなものを感じて興醒めしてしまったという部分もあります。これは加藤くんの妖怪活動の問題ではなく、作品としての見せ方の印象です。
──人の作品ばかり散々言ってきましたが……、ご自身の作品『5月/May』について、何か言う事はありますか?
佐藤 僕は自分の日常を撮影した作品が多いのですが、その中でも『5月/May』は特に個人的な内容だったので、まさかノミネートされるとは思っていなかったんです。でも、今回スクリーンで改めて客観的に観て、「いい映画だな」って思いました。シングル8って、扇千景さんが「私にも映せます」と言う有名なCMからも判る様に、元々家庭用に普及したものじゃないですか。だから、『5月/May』は8ミリ本来の使い方をしているなって思ったんです。引っ越しの時に撮影していたフィルムを、2年後に家族で映写して笑い合うっていう。道端で拾った映写機にしても、(この映写機も、きっとこうやって家庭に団らんを与えていたんだろうな……)とか考えながら観ました。2年前の家族を振り返る哀愁と、使われなくなって棄てられてしまった映写機に馳せる思いと、二つのノスタルジーが絡み合う秀逸なラストシーンでした。
──自分の作品褒め過ぎでしょ。今日はありがとうございました。
ニューフィルム・ジャパン(招待部門)、ジャパン・トゥモロウ(一般公募部門)など
名古屋 6/13~6/16 愛知芸術文化センターにて
京都 6/16~6/22 京都シネマにて
横浜 7/14~7/16 横浜美術館にて
※チケットぴあ、ローソンチケットなどで特別鑑賞券を発売中
【執筆者プロフィール】 佐藤健人 1984年生。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。『もここ』でイメージフォーラム・フェスティバル2008一般公募部門奨励賞受賞。以降、『簡単に卒乳させる100の方法』『4月/April』『5月/May』などの映像エッセイを制作。8月に開催の「三軒茶屋映像カーニバル」で、『Fまたはもここpart3もしくは番外編』上映予定。