セルフドキュメンタリーで見えてくる、いまの日本の等身大の現実
トップバッターはなんと neoneo編集室・佐藤寛朗!?
胸を張れることはありません 佐藤寛朗(neoneo編集室)
「neoneo」でドキュメンタリーの魅力を紹介する活動を続けながら、いつかは自分で撮りたいという思いを持ち続けていた。しかしその1本目が、自分で自分を撮る「セルフドキュメンタリー」になるとは、正直思いもよらなかった。
いちばんはじめに観たドキュメンタリー映画は『極私的エロス・恋歌1974』(監督:原一男)。
その影響もあって、先日インタビューした『CINEMA塾』で上映されるようなセルフドキュメンタリーは比較的観ているほうだったが、自分では撮れないだろう、と思っていた。東京郊外のサラリーマン家庭で何の不自由もなく育った自分には、両親に対する葛藤もなければ、これまでトラウマを抱えて生きることもなかったからだ。
しかし、その「葛藤のなさ」が、実は最大の問題だった。
「人は一生に1本だけ、家族の話ならドキュメンタリーを撮れる」とはよく言ったもので、突然降って湧いた家のある危機に、結果的に僕は振り回されることになる。
突きつけられた課題は「自立」。
ドキュメンタリー映画やその周辺の仕事で生活を成り立たせるのは、経済的に少し厳しい部分もあって、収入の少なさを言いわけに、ここしばらくは家賃も入れず、実家でのほほんと暮らしていた。38歳にもなって、親に寄生する生活。正直、自分でもどうかとは思っていた。
番組作りの直接の契機は、そんな自分の甘えに対して、「これではいかん」という思いを、A4の紙3枚の“半生(反省)記”としてプロデューサーに提出したことからはじまったのだが、どういう風の吹き回しか、直後に実家の状況が激変。友達でも撮るかとのんびり考えていた当初の構想は崩れ、降り掛かるいくつもの現実を受け止め、記録することが精一杯になった。
両親の突然の完全リタイア、突きつけられる生活の問題,そしてこのサイト「neoneo」の運営のこと…
いくつか判断を迫られるなかで、社会人として人間として当り前のことができない自分の甘さや中途半端さを、嫌というほど思い知らされた。優柔不断な自分の決断が番組に反映されているのか、未だもって自信がない。結局、どういうことになったかは実際に番組をご覧いただくとして、この間私の心境は、起きたできごと以上に激しく揺れ動いていた。
画心だの演出意図だのは、まだ口が裂けても語れない。家族を巻き込み、裸になり、自分の恥部も含めてさらけだすことしかできなかった。一家総出演の「恥」の記録。父と母には、ほんとうに頭が上がらない。
この番組『にっぽんリアル』は、僕の回を皮切りに、同世代のディレクターがそれぞれの事情と向き合う、セルフドキュメンタリーのシリーズものとして、順次、放送されていく。
これだけがドキュメンタリーの作り方ではないし、劇場公開の「作品」とも性質は異なるが、ある家族とその息子のから見えるいまの日本の一断面を、日曜日の夜、できれば笑って観ていただけると幸いです。
【番組概要】
新番組『極私的ドキュメント にっぽんリアル』 #1「38歳 自立とは?」
撮影・演出:佐藤寛朗
ナビゲーター:安藤サクラ
※第31回ATP賞 ドキュメンタリー部門 奨励賞 受賞
制作:NHK
制作・著作 :NHKエンタープライズ スローハンド
【日時】2014年5月25日(日)23:00〜23:30 NHK BSプレミアム
※ 2014年8月3日(日)1:20~1:50 再放送
※ 2015年1月4日(日)23:30 再放送(NHK BSプレミアム)
【内容】
今年38歳になる僕は、ずっと両親に“寄生”しながら生活してきた。そんな僕が頼りにしていた父が突然失業した。しかも退職金ゼロ。僕は、40歳を目前にいやおうなく自立を迫られた。ある日、なかなか家を出られない優柔不断な僕に対し、両親が本気で爆発! 今さら仕事や家は見つけられるのか? 自分の力で生きるとはどういうことか? こんな僕の自立はいかに!?