【Interview】あらゆる映像を生活の一部に取り込んだ「ホームビデオ」 。近すぎて見えなかったもうひとつの映像史―『VHSテープを巻き戻せ!』ジョシュ・ジョンソン監督インタビュー(取材:千浦僚)

ジョシュ・ジョンソン監督(左)と聞き手・千浦僚氏(右)

「フィルムからデジタルへ」。映画が劇的な変換期をむかえているいま、忘れてはならない映像フォーマットがある。家庭での映像の録画・撮影を可能にしただけでなく、映像を所有するという夢を実現したホームビデオ「VHS」である。VHSはより映画を身近なものし、映像業界の構造をも一変させるまさに大革命だった。その変遷をVHSに魅せられた人々の証言で描き出すドキュメンタリー『VHSテープを巻き戻せ!』が現在公開され話題を呼んでいる。自他ともに認める映像ソフトマニアで、現オーディトリウム渋谷支配人兼映写技師・映画感想家の千浦僚が自慢のVHSを山ほど抱えて、監督のジョシュ・ジョンソンとの対談に臨んだ。
( 取材:千浦僚 通訳:井上緑さん 構成:加瀬修一)


―今日はジョシュさんとお話できるということで、こんなVHSを持ってきました。

(そういいながら、紙袋とリュックから次々とVHSを取り出していく千浦)
ジョシュ・ジョンソン( 以下JJ ) すごい!これは千浦さんのコレクションですか?

―ええ、家に山ほどあります(笑)。

JJ
 『キルボット』(86)がある!実は友人がこの映画の監督ジム・ウィルノースキーのドキュメンタリーを制作したんですよ。

そうなんですか!ウィノースキー監督もB級映画職人の代表みたいなひとなので、そのドキュメンタリーもぜひ観てみたい!これ傑作ですよね!ショッピングモールのお掃除ロボットが人を殺しはじめる、というロジャー・コーマン製作映画で……、ちょっとこのままだとビデオの話だけで終わってしまいそうなので、早速『VHSテープを巻き戻せ!』のお話をお訊きしますね(笑)。本当に楽しく拝見しました。他人事に思えない映画です。

JJ  千浦さんと同じように、これまで観てくださったみなさんも、あれは自分だ、これが一緒だって、映画の中の誰かに共感を持って観てくれるようです。

『キルボット』のVHSを手に取るジョシュ監督(中央)左は翻訳・井上緑さん

まずこの作品を作ろうと思ったきっかけを教えてください。

JJ
 僕は1982年生まれなんですが、すでにホームビデオ革命は始まっていました。

こどもの頃は料金が安かったので、両親がレンタルビデオ店によく連れていってくれたんです。それが映画に興味が沸くきっかけでした。映画館では上映されないような作品もビデオ店には置いてあるので、それを発見する楽しみ、ワクワク感がありました。その時の気持ちがずっとあって、これを映画にしようと思ったのがきっかけです。

もうひとつ。DVDやBlu-rayになっていない、VHSだけしかない作品がたくさんあります。そういう映像作品が、誰にも気づかれないうちに失われていくことに危機感を持ったんです。VHSの現状をみんなに知ってもらい、完全に観られなくなってしまう前にアーカイブしていくことが大事なんだということを伝えたかったんです。

―コレクターの方たちがたくさん出演されていますが、この作品のために探して取材をしたんですか?

JJ
 最初は知人からインタビューを始めました。撮影が終わってから、「他に話を訊いておいた方がいい知り合いはいないかい?」と尋ねると、あいつがいいとか次々に紹介してもらえました。その繰り返しで、自然発生的にドンドン広がっていったんです。

―日本人の出演者もいます。この方たちは?

JJ
 日本での撮影費用は、クラウドファンディングで賛同者を募りました。実は「インタビューしたい人リスト」を作ったら膨大な量になってしまったんです。そこからプロデューサーや協力者の方々のアドバイスや伝手を頼っていきました。無謀なチャレンジですよね(笑)。VHSはもともと日本で生まれたテクノロジーですし、そこから世界中に派生していったという経緯がありますから、革命のキーとなる国・日本での取材は欠かせないと思いました。また日本は北米とは違ったマーケットがあります。例えばオリジナル・ビデオ・ムービーは、北米では過小評価されているようなマーケットで、劇場の興行が王道です。でも日本は独自の進化をして、興行とは別のマーケットを獲得しました。これは非常に興味深いことです。

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映画『VHSテープを巻き戻せ!』より© Imperial Poly Farm Productions