【連載】ワカキコースケのDIG!聴くメンタリー 第5回『決定盤!! 長編現地録音 阿波おどり』




「聴くメンタリー」には珍しく! ジャケ買いしました


廃盤アナログレコードの「その他」ジャンルからドキュメンタリーを掘り起こす、「DIG!聴くメンタリー」の時間がやってまいりました。DJはワカキコースケ。それなりにマジメに書いてるんだけど結果的には他愛なくなるおしゃべり、よろしくお付き合いください。

今回からは、ラジオ番組風にスタートです。特に意味なし。

実は、この連載を始めた理由のひとつに、「聴くメンタリー」なレコードを見つけては買うのはいいんだけど、大半はそのまま放っておいてしまう。強制的に耳にするための枷を作らねば……という個人的理由があった。

だってねえ、横井庄一さん本土帰還ドキュメントや、サトウハチロー本人が語るメルヘンの世界、大井川鉄道の列車走行音などなど。集めておいてナンだが、集めてみるとマニアっぽくて辛気くさい。そんなに、いそいそとターンテーブルに乗せたくなるものではないです。自分のコレクションになりさえすれば満足していた(と書いてる時点ですでに軽くイッてる自覚は、あったりなかったり)。

ただし、今回紹介するレコード、1978年にキングレコードからリリースされた『決定盤!! 長編現地録音 阿波おどり』については、連載の当初から、夏場に書くと決めていた。その時、初めて袋から出して、じっくり耳にするのを楽しみにしていた。

どうです、タイトルとジャケット、いいでしょう。これだけまっすぐ、なおかつ大らかに、耳で聴くドキュメントの魅力を表現してくれているデザインは案外、無い。

 

 

当時はロック、ポップスのほうでもジャケット・アートの感覚はかなり成熟していた。現代の写真用語でいうセットアップ・ドキュメンタリーの考え方で制作されたジャケットが、多数ある。代表的な1枚がジャクソン・ブラウンの
『プリテンダー』76)。撮影はトム・ケリー。(無名時代のマリリン・モンローのヌードを撮ったことで有名な、ハリウッドの写真家と同一人物かどうかは……不明)

ヒスパニックや黒人が大半を占めるLAの横断歩道を、ただひとりの白人=ジャクソンが渡る。個人的な事情や孤独感ばっかし歌にして、それでもこの作風しか自分には無いんだ、と噛みしめた男の決意までも描かれていて。中身はもちろん、ジャケットも、いつまでも眺めていられるドキュメント作品として大好きだ。



祭囃子にざわめく夜は、青春の光と影なんよ


『プリテンダー』とデザインが似ている本盤のジャケットも、なかなか負けていない。

エライヤッチャ エライヤッチャ ヨイヨイヨイヨイ
踊りおどらば しなよく踊れ 姿のよいこを 嫁にとる

年にいちど、徳島の町じゅうが沸きたつ夜の、刹那な熱気が伝わる。踊る人、見物に集まる人、それぞれの人生が、青春がある。ほら見てみい、前で踊っとる二丁目の良子。白い足袋がよく似合うようになっとうぜ。ちんこい鼻たれじゃとばっかり思うとったら、なんやらこっちのほうが、がいわるうなってくるのう。

ああそうだ、こんな夜はね、きっと思わぬ再会もあるよ。

人ごみのなかで、10年振りにすれ違った高校の同級生、山田くんと高橋さん。上京する山田くんが「東京でBIGな仕事ができるようになったら、きっと高橋さんを迎えにくるけん」と約束した仲。だけど山田くんは都会で散々もがいた末、今は小さな文房具メーカー勤務。いいムードになっている同僚の子に、本場の阿波おどりが見たいとせがまれ、連れて帰ってきていた。高橋さんは地元の信用金庫につとめながら、山田くんの約束を忘れてはいなかった。

すれ違ってアッとなり、彼女を先に実家かホテルに戻らせて、高橋さんの後を追う山田くん。

「高橋さん―」
「えっとぶりやね―。私ね、信用金庫の子たちとこれから踊らにゃならんの。もうおばさんなのに、こんな派手な襦袢、恥ずかしいわ。フフ」
「そんなことあるか。高橋さん、今でも、かい(可愛い)らしか」
ごじゃばっかし言うて。さっきの人、山田くんの恋人やろ?」
「いや、あれは―」

(唄が響いてくる。踊る阿呆に見る阿呆 同じ阿呆なら 踊らにゃそんそん)

「高橋さんとの約束、忘れたことは1日だってなかったぜ」
「―」
「いつも考えてた。6年前じゃ、俺が今の仕事を見つけた時。いちから2人でやっていけんもんかって書いた手紙、返事くれなかったのはなぜじゃろうって」
「こっちにはこっちの暮らしがあるんよ」
「俺ァ、今でも変わらん。高橋さんのことが」
「その先は言わんといて」
「―」
「私らはお互い、少しずつ意気地のない、踊りきれない阿呆やったとよ。違う?」

なんて。こんなこと言われたら、押すのか引くのか、どうするよ男コノヤロー! 

盤に針を落とす前に、ジャケットを眺めるだけで、しこたまインナートリップを堪能してしまった。「聴くメンタリー」の基本精神は、いかに安上がりに遊ぶか、ですので。妄想のまま書いたインチキ徳島弁、失礼。

 ここまで満を持してから、聴きはじめたわけです。


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