【Interview】嘘と本当の混沌から見えるものがある――『水の声を聞く』山本政志監督に聞く text 植山英美

楽園のそのままの美しいマングローブの村の住む家族。川のせせらぎしか聞こえないうっそうとした山中に切り裂く突然の爆音。米軍のヘリコプターだ。静寂が一瞬で破壊されることへの単純な怒り。この数秒のシーンで基地問題の深刻さを垣間みれる。2011年度公開の『スリー☆ポイント』沖縄篇はドキュメンタリーで、力強いメッセージを感じざるを得ないが、当の山本政志監督は「そこまで深く考えて撮ったわけじゃなかった」と言う。

12月13日より新宿K’sCINEMA にてアンコール上映が行なわれる最新作『水の声を聞く』でも、済州島四・三事件(さいしゅうとうよんさんじけん 韓国政府軍・警察により島民の5人に1人にあたる6万人が虐殺されたとする事件)を取り上げ、実際のニュース写真を導入、“不都合な真実”を織り込んだ。

大根仁監督作品『恋の渦』でプロデューサーとして得た収益を全て投入し製作した本作品は、広告代理店の男が運営を仕切り、ネットを駆使したマーケティングで信者を集めるフェイク宗教団体『真教・神の水』をめぐるストーリー。「いったい何が「本物」で、何が「偽物」なのか?」というテーマそのままに山本政志監督に「嘘とリアルの狭間」を語ってもらった。

[取材・文=植山英美]

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――『水の声を聞く』も『スリー☆ポイント』でも、ドキュメンタリーと虚が混じり合う感覚があって、最近の山本監督の作風と感じていますが。

山本 1本目からそうだよね。『闇のカーニバル』(1983)でも徹底的にこだわった。芝居もそうだし、出演者の選び方もね。ストリートを撮るとなったら、ストリートで暴れてるホンモノを入れたくなるし、小道具も水道配管図とか、ガス管の配置図とか、電気系統図とか、新宿の地下の見取り図とか全部本物を使ってるし、ピストルもかなりのレベルのものを使ってる。ドキュメンタリーじゃないんだけど、ドキュメンタリーの味わいもあるような。映画ってほらを吹く映画と詐欺をする映画、があると思うんだよね。『インターステラー』(2014/クリストファー・ノーラン)は大ほら吹きの映画でそれはそれで面白いし、俺の映画は詐欺の方で、本物っぽいなっていう嘘の付き方で、そっちの作風だと思うよね。

――『水の声を聞く』でも、『スリー☆ポイント』でもゲリラ撮影でした。

山本 ゲリラやるってことは街を生きたまま撮りたいからやってるだけで、それが一番面白いから。機動性があって街を生きたまますぐ取り込む。許可全部取ってエキストラ掘り込んでっていうのも手だけど、それやると爆大な金かけたくなる。どちらも一緒なんだよ、「嘘とリアルの狭間で」という。リアリズムって興味ないんだけど、リアリティあるな、っていう作り方好きなんだよね。

――嘘とリアルの狭間という話に繋がると思いますが、『水の声を聞く』のちょうど半ばに「本物とか偽物とか関係ないです。私たちにはすがるものが必要なんです」という台詞があるのが印象的でした。

山本 病んでるって言えば病んでるだよね、そこまで依存しなくちゃ生きていけないっていうのは。現代の情報に対する崇拝はそれに近いものがあると思うんだよ。ひとつの病理だと思っていて、嘘の情報もいっぱいあるのに、すがってるじゃん。なにかを信じたいっていうのと重なると思う。逆に情報はしっかりとは信じてないからもっとタチ悪い。信じてるかどうかはっきりしないものに動かされている。

――何故フェイク宗教の話を撮ろうと思ったのでしょう?

山本 あんまり記憶にないんだけど(笑)、人を救うとかをやりたいと思ったんじゃないか。エラそうななことではなくてね。生まれてこのかた今が一番悪い時代だと思っている。お金が無くてもたいがいは「なんてことない」て思えたけど、政治も含めて全体がタチ悪過ぎると思う。特に福島以降閉塞感もすごくあって、いつまで経っても原発あるし。首絞められているような閉塞感の中から「救い」みたいな方向に舵切れないかな、と。「救われるわけない」とも思うけど、せめてそこを目指すような映画を作りたいなと、それが大きかったんだよね。ただ「宗教」て露骨なんだけど、そこはまじめに宗教をやるタイプじゃないから。嘘から始めて、嘘が本当になって、本物に見えてくる。リアリティと嘘の狭間を枝にしていくという話に重なるんだけど、そういう混沌としたところから見えてくるものがあるんじゃないかな、と。

――「3.11」の影響はありましたか?

山本 それはあるよ。題材的に『熊楠・KUMAGUSU』(*)や『ロビンソンの庭』(1987)みたいな、正面切って世の中に挑んでいくっていう題材から、ちょっと違う方向に切り替えて行ってたでしょ。軽いエンターテイメントをやってみたりとか、ストリートの小さい世界をやってみたりとか。『熊楠・KUMAGUSU』が上手くいかない中で、魂とか、神秘とか、というテーマは骨の折れる素材だから手を出すのを避けていた。今回は時代がやらせているのかどうだかわからないけど、やってみようという気持ちになった、それだけ時代がうざいから思ったのか。

――済州島のエピソードや韓国移民のエピソードを入れようと思ったのは、どういう経緯があったのですか。

山本 済州島から来た移民の孫という設定は最初からあったんだけど、『水の声を聞く−プロローグ−』を撮った時点では丸きり済州島の事件は知らなくて。その中で「じゃあ、この子はどこから来たんだろ、おばあちゃんが巫女さんだったんだな」とか、「おばあちゃんはいつ頃日本に来たのかな」とか、辿っていって事件にぶつかっていったという感じで。そこから作ったわけじゃなくて、俺みたいな不勉強なやつは出会ったものを取り込んでいくっていうタイプなので、自然といい形であの事件と出会ったんだと思う。映画が引き会わせてくれたんだと。

――済州島の四・三事件に触れる部分がかなり印象的だったんですが、韓国政府はあまり公にしたくない部分だと思います。

山本 そうみたいだね、政府が公式に謝罪したのが、2003年。そこに至るまで、結構時間が掛かってる。今回も資料が少なかったしね。なかなか手に入らなかった。韓国にも連絡取ったんだけど、新聞社が出版してる本に掲載された写真は、映画に使っていいいと許可してくれたんだけど、当時の事件の写真は手に入らなかった。もちろん現地に入って時間を掛ければ何か出てくる可能性はあっただろうけどね。

――済州島四・三事件を機に大阪に大量に移民が来た。

山本 大正後期から大阪ー済州島航路があって、大阪の猪飼野に移民は大勢いたんだよ。四・三事件後には、多くの人がやって来ただろうね。まあそりゃそうだよね。済州島がああいった状況になったんだから。

――韓国政府としては、そこはあまり公にしたくないのでは、と。強制連行という事実が欲しいのでは、と思いますが。

山本 そこに関しては違う話だろうと。今の日韓のゴチャゴチャとは関係ないよ。

――日韓関係が昨今かなり悪くなっていますが。

山本 何の興味もないんだよね。国と国となんて関係なくて韓国の友達と遊ぶ時は遊ぶし、「そんなことばっかり言ってられない」と言う人もいるけど、国の為に俺たちが生きる必要は全くなくて。個と個の付き合いが大事だろ。基本的に政治嫌いだもん。政治と映画とは全く違うところにあると思うから。映画に国境とかあらゆるボーダー(境界)は、必要ないと思ってる。ただ今回は背景探る時点で事件が出て来たから入れ込んだに過ぎない。映画で政治を語ろうなんてこれっぽっちも思わない。映画を小さくするしね。

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――山本監督はずっとインディペンデントを貫いていますが。

山本 俺がインディで好きなのは自由さだよね。自分のやりたいことをやれるっていうところ。俺の心の師匠みたいなのが三人いて、一人は脚本家の内田栄一さん。栄一さんは、自由さ、軽やかさの師匠だった。で、ドキュメンタリストの小川紳介さん。三里塚シリーズを7年撮って、稲がわからなきゃだめだって言って山形に移住して農業やって、稲のドキュメンタリー撮って。『1000年刻みの日時計 牧野村物語』(1986)って、自分の人生と映画をごちゃ混ぜにしたような巨大な作品を創り上げた。あそこまで突き抜けるって、ハンパないよね。

それから若松(孝二)さんだよね。若松さんみたいな素敵な不良監督が映画界にいなくなっちゃったね。映画でのケンカのやり方とか、見習うこともいっぱいあったし。大量の勇気をくれた。そういったインディーの流れに自分は居ると思うよ。それは絶対に思う。インディペンデントっていう自負だよね。誇りだよ、プライド。インディペンデントってのはどこにも寄っかからないってことだよ。あらゆるシステムや枠組み属さない。独立してるって事だと思う。

今インディペンデントは小さい意味で使われ過ぎてる。お手軽に撮れるのがインディだと思ってる。バカ映画撮るにしても徹底した規制の掛からないバカ映画を撮ればいいんだし選択肢は山ほどある。それをやれるのがインディ。今は勘違いしてるところがあるんじゃない? 身の回りを撮りましたインディみたいな(笑)。今度、ベネチア映画祭の全面出資で撮る長谷井宏紀や、タイに住み込み中の富田克也みたく、軽いフットワークで世界のどこでも行けて発信できるのはインディの強みだと思う。インディだらけの映画なんて観たくもない。逆にメジャーだけでも面白くない。多様性があった方がいい。

――これからもインディペンデントで撮りますか?

山本 もうインディペンデントでなくてもいいかな、と思ってる。今やりたい企画は金が掛かるからインディの枠じゃ出来ない。『熊楠・KUMAGUSU』でもインディの企画でないし、以前は、メジャーでやりたいとかカケラも思わなかったけど、今はどこでも撮れるだろうと思うし。どこでやろうが、自分の臭いを出せる自信もある。もうこのくらいの歳になったら「すみませんこれから人生をやり直します」ていう嘘はつけない(笑)。自分の臭いが全身に染み付いてる。馬鹿は馬鹿の道をやるしかないし、だから、どこでやろうが大丈夫だと思うよ。(了)

(*)『熊楠・KUMAGUSU』(主演町田町蔵[町田康])1991年6月に撮影開始するが、未完。

|公開情報

『水の声を聞く』

東京・新宿コリアンタウン。在日韓国人のミンジョンは美奈の誘いにのり、軽くひと稼ぎし、頃合いを見てやめるつもりで巫女を始めた。しかし、救済を乞う信者が増え、宗教団体『真教・神の水』が設立され、後戻りができない状況になってくる。借金取りに追われる父親、それを追う狂気の追跡者、教団を操ろうとする広告代理店の男、教団に夢を託す女、救済を乞う信者達、ミンジョンは聖と俗の狭間で苦悩し、偽物だった宗教に心が入ってくる。やがて、ミンジョンは大いなる祈りを捧げ始める。不安定な現代に、“祈り”を捧げる。“祈り”によって、世界を救済する。いったい何が「本物」で、何が「偽物」なのか?大いなる祈りは、世界に届くのか?

監督・脚本:山本政志
出演:玄里、趣里、中村夏子、鎌滝秋浩、小田敬、萩原利久、松崎颯、村上淳
プロデューサー:村岡伸一郎 ラインプロデューサー:吉川正文
撮影:高木風太 照明:秋山恵二郎 美術:須坂文昭
録音:上條慎太郎 編集:山下健治 音楽:Dr.Tommy
2014年/日本/129分
公式サイト:http://www.mizunokoe.asia/
公式Facebook:https://www.facebook.com/mizunokoewokiku
公式Twitter:https://twitter.com/thevoiceofwater

★12月13日より新宿K’sCINEMA にてレイトショー再上映。全国順次上映中。

|プロフィール

山本政志 Masashi Yamamoto
『闇のカーニバル』(1983年)が、ベルリン・カンヌ映画祭で連続上映され、ジム・ジャームッシュらニューヨークのインディペンデント監督から絶大な支持を集める。『ロビンソンの庭』(1987年)[ベルリン映画祭Zitty賞/ロカルノ映画祭審査員特別賞/日本映画監督協会新人賞]では、ジム・ジャームッシュ監督の撮影監督トム・ディチロを起用、香港との合作『てなもんやコネクション』(1990年)では専用上映館を渋谷に建設、『ジャンクフード』(1997年)を全米12都市で自主公開、『リムジンドライブ』(2001年)では単身渡米し、全アメリカスタッフによるニューヨーク・ロケを敢行、蒼井そらを主演に据えた『聴かれた女』(2006年)は、英、米を初め7ヵ国でDVDが発売され、2011年には、超インディーズ作品『スリー☆ポイント』を発表、2012~13年は実践映画塾「シネマ☆インパクト」を主宰し、12人の監督とともに15本の作品を世に送り出し、その中から、メガヒット作大根仁監督『恋の渦』を誕生させた。国境やジャンルを越えた意欲的な活動と爆発的なパワーで、常に新しい挑戦を続けている。