【Report】『独立映画鍋』キックオフイベント text 村松健太郎

去る7月23日(月)、渋谷円山町にある複合映画館ビルKINOHUS1階「cafetheo(カフェ・テオ)」にて、独立映画鍋キックオフイベントが行われた。

そもそも私自身が独立映画鍋を知ったのがキックオフイベントの数日前ということで、どのような趣旨の組織かも判断しきれずにイベント当日を迎えた。

ホームページ上の設立趣旨などでも不明な点が多く、不躾にも土屋代表と独立映画鍋宛にいくつかの質問を送りつけもした。

すべての疑問に明確な回答を頂けたわけではなかったが、土屋代表からの真摯な返信をいただき、団体の運営姿勢に一定の信用を感じたこと、そして個人的にも映画に対しての次のアクションとしての魅力を感じる部分もあり、会員になることを決めイベントへ向かった。

時間的な都合もあり、イベント前に行われた設立に関する記者会見と、代表理事でもある土屋代表の新作『GFP BUNNY』の試写会には参加できず、イベントのみの出席となった。

いざ会場に到着してみると、既に会場には多くの来場者で埋まっており、熱気に溢れたイベントとなっていた。方々で映画のあり方、作品賛否、今後の活動などを熱く語り合う若者たちが多く集まっていた。

これは、そのまま厳しい状況の中でも映画を創り続けていきたいという想いの熱さであろう。独立系はもちろん準メジャーと呼ばれている映画製作会社ですら、経営が厳しく製作本数を減らしている中で、それでも創り手の意識は高いままであるということを肌で感じることができた。

もちろん、イベントについては不満な点も少なくない。来場者数が予想を上回ってしまったこともあり、代表理事の挨拶、そしてイベントの肝でもある企画プレゼンテーションの音声がほとんど会場に伝わっていなかった。

実際に後方の位置でプレゼンテーションを見ていたが、説明の声は聞き取れないものばかりだった。これでは肝心の独立映画関連プロジェクトに対して寄付を募るクラウドファンディングサイト『Motion  Gallery』へ誘導することが大変難しくなってしまう。

出席者への配慮の不足していた部分があったと思う。立食形式のパーティーで、本来であれば闊達な意見交換や交流の場として機能すべきであったが、結果としては顔見知りのクリエイター同士が固まって話をしているということが多く、私のような新参の一間者は肩身の狭い気分になった。幸い、知り合いのインディペンデント映画作家の女性と出会えてしばし会話が持てたが、彼女もまた、手持ち無沙汰なようだった。

せめて、主催関係者だけでも名札をつけ、さらに一人との会話が長くならないようにし、できるだけ初めての人間に声をかけて回るぐらいの意識があってよかったと思う。

独立映画鍋の会員となればその枠内でのミーティングなどで、交流する機会は多くあると思われるが、独立独歩のインディペンデント映画作家が一堂に会するという機会は極まれであり、今回、それが活発になされなかったことは独立映画鍋の設立趣旨から考えてみても残念な結果である。

ただ、裏を返せばこのような失点も独立映画鍋に対して想像を上回るほどの期待ないし興味を抱いた人々が存在したということであり、これは独立映画鍋のようなインディペンデント映画作家の横の連携を模索してくれる組織の発足が熱望されていた事の表れだとも言える。「10年~15年かけて、環境が良くなった、風通しが良くなったというようにしたいという」土屋代表の狙いを考えれば、周囲の熱い期待と独立映画鍋の受け皿としての大きさとの齟齬も、いずれは埋まってくると思われる。逆に言えば、独立映画鍋が組織としてスタートした今、彼らの思いを裏切ってはいけないことにもなるが・・・。

 最後に願うこと、そして会員となった今思うことは、独立映画鍋の行動が決してうち向き・閉鎖的なものにはなってはならないということだ。今後は門戸を広く開放し、敷居はできるだけ低くしてイベントに参加してみたものの誰と話すでもなく時間が来たので帰ったというようなことを少しでも減らせれば、減らせた分だけ独立映画鍋の活動が活発に、そして理想に近い形になっていくだろう。

藤岡朝子・山形映画祭東京事務局ディレクターによる企画プレゼン「イーッカさんとの対話」。この日集まった参加者の投票により、企画賞を受賞した。

 

◆独立映画鍋キックオフイベントでプレゼンテーション並びにサポートの呼び掛けが行われた主な企画は以下のとおり。『Motion  Gallery』にて詳細が確認できる。

・映画『さようなら』…アンドロイドと人間が共演し、世界に衝撃を与えた平田オリザの傑作舞台を、深田晃司監督(『歓待』など)が映画化

・イラク人質事件で「自己責任」批判を受けた高遠菜穂子氏を追ったドキュメンタリー映画

・映画『GFB BUNNY』・・・2005年の「タリウム少女」事件をモチーフとした、土屋豊監督(『新しい神様』など)によるメタフィクション

・映画『ムネオイズム2.0 ~愛と狂騒の13日間~』…政治家の鈴木宗男の選挙戦に密着した、金子遊監督(『ベオグラード1999』など)のドキュメンタリー

 

◆また記者会見の概要は下記のようになっている。

「独立映画鍋」は、現在のインディペンデント・フィルムを取り巻く製作・配給・上映の環境をサポートするネットワークとして立ち上げられた(6月12日)。メジャーとインディペンデントの対立的な二元論に陥らず、映画の多様性を育むため、人、情報、資金を結び付ける公共的・持続的なプラットフォームを構築することを目指しており、NPO法人化に向け申請をしている。

設立メンバーは、代表理事=土屋豊(映画監督)・深田晃司(同)、理事=高木祥衣(OurPlanetTVプログラムディレクター)、伊達浩太朗(映画プロデューサー)、伊達智子(弁護士)、藤岡朝子(山形国際ドキュメンタリー映画祭東京事務局ディレクター)、森元修一(映画監督)、監事=白石草(OurPlanetTV代表)の8名。

活動内容は、

(1)独立映画関連プロジェクトに対する寄付を募る=クラウドファンディングサイトの運営・管理。『MotionGallary』と共同で寄付を募るサイトを運営・管理。

(2)新しい寄付税制の活用=寄付税制の改正により、認定NPO法人に対する寄付者への大幅な税額控除が認められることになり、新しい制度を映画への寄付文化拡大の突破口として活かすため、できるだけ早い時期に認定NPO法人化できるよう活動していく。

(3)シンポジウム、イベントの企画・開催=独立映画とそれを取り巻く環境について考えるシンポジウムやイベント、作り手と映画支援者をダイレクトにつなぐ企画マーケットを定期的に開催。

(4)独立映画の製作、上映、配給、振興に役立つ情報提供=各種助成金や上映スペース・上映団体情報、海外セールス・映画祭情報などを随時提供する。

(5)映画業界実態調査・政策提言=映画業界の実態を取材・調査し、レポートとしてまとめ、映画の多様性を創出するための政策提言を行う。

※その他、今後意見を聞きながら、活動の幅を広げていく。

http://eiganabe.net/

 

【執筆者プロフィール】

村松健太郎 ムラマツ・ケンタロウ

1979年、横浜出身。02年ニューシネマワークショップ(NCW)にて映画ビジネスを学び、同年末よりチネチッタに入社(アルバイト)。翌春より番組編成部門のアシスタント。06年秋退職。07年初頭にTOHOシネマズ㈱に中途採用。同年6月より本社勤務。11年春病気療養のため退職。12年日本アカデミー協会民間会員・第4回沖縄国際映画祭民間審査員。現在、NCW配給部にて同制作部作品の配給・宣伝に携わる一方で批評・レポート等を執筆。