魅力に富む、錚々たるミュージシャンが名を連ねるドキュメンタリー。
山に抱かれ、坂から海が見渡せる尾道の、CDショップオーナーとは?
まずは、好ましいミュージシャンが名を連ねるドキュメンタリーということに惹かれた。EGO-WRAPPIN’、二階堂和美、モアリズム、オーサカ=モノレール、畠山美由紀、アン・サリー、小池龍平、ハンバート ハンバート、Chocolat & Akito、高鈴らが出演。さらに、UAやmama!milkのほか、詩人のアーサー・ビナードや映画監督の鎌仲ひとみも取材に協力している。音楽は、あの青柳拓次が担当。このような名前が連なると、わかる人には「心地よい作品を生み出したり、『エコ系』の方や社会をよくしようと活動しているような方」が関係しているんだな、ということがわかるかもしれない。音楽や文化とは本来、人をいやし、勇気づけるものであるといえるのだろうけれど。
そして尾道、だ。尾道といえば、筆者も旅をしたことがあるが、前に海があり、背に山があって、島がある。見どころは多いが、街は大きくない。また、社会運動やオルタナティブ活動に携わる方なら、何らかの形で名前を聞くこともあるだろう。自然や文化に触れる旅によし、人と触れ合う場としてもよし。そんな地域だ。
そんな尾道で、先述のようなミュージシャンと交流するCDショップの店長。いったいどんな方なのだろうと、興味津々で観始めた。
被災者や移住者の支援を継続する不思議なおじさん。
尾道でノブエさんが営むCDショップの名は「れいこう堂」。ミュージシャンや関係者たちは、これを「駄菓子屋」「CD屋」「レコード屋さん」「音楽寺子屋」「尾道珍名所」「セレクトショップ」と表現する。ノブエさんについても、「相当変わったおじさんが営利目的でなくやってる」「単なる普通のおじさん」「ヤバイ人」「要注意人物」などと口々にいう。ミュージシャンのなかには、ノブエさんからさまざまな音楽を教えてもらった人もいる。
ノブエさんは、「向島洋らんセンター」で、音楽イベントを開催。音楽を愛する人どうしをつないでいる。回を重ねるごとに盛り上がり、柵の設置が提案されたことがあった。ノブエさんは、でも柵を設置したくなかったので、「花を置けば踏まんから、花を置けば大丈夫だ」。
ノブエさんは東日本大震災の被災者や移住者の支援活動もしており、特に、当時の郡山市と福島市について「子どもたちは生活しているし、当然、親もそうですけど、普通に運動場で遊べない。その状態がずっと続いているはずなんです。そういう人たちを受け入れることが、今回の原発震災に関しては、いちばんの支援なんじゃないかな」と語る。そして、往復の交通費をカンパで集め、思いっきり楽しんでもらおうと、イベント定期的に催す。関東から移住した母子のうちの有志は、「長江のおうち」という古民家を活用したコミュニティスペースも運営している。ノブエさんは、広島でおこなわれる四国の伊方原発反対デモなどにも参加。筆者は、『ルポ チェルノブイリ 28年目の子どもたち~ウクライナの取り組みに学ぶ』(白石草著:岩波ブックレット)を読んだ。この作品のなかで福島の子ども支援のプロジェクトに携わる方もおっしゃっているが、「子どもがちゃんと遊ぶ普通の生活ができなくなると、病気にかかりやすくなる」というとおりのことが書かれていた。
「カブで現れる月光仮面。ありがとうといおうとおもったらもういない」。
ある女性は、ノブエさんを「どこかからやってきて、解決したら、いつの間にかおらん。そんな感じ」と表する。でも、実は、ノブエさんの生い立ちや、労働現場での体験は、平坦なものではなかった……。
ノブエさんは、口数が多くなく、ちょっとドジで、ゆるい空気感を漂わせている。子どもと触れ合ったり、子どもに野菜の作り方や水のくみ方を教える際などにも、目線が高くない。子どもは「ノブエしゃん、ノブエしゃん」と親しみを込めて連呼する。ノブエさんの魂が子どもと共鳴している様子が伝わってくる。
特に、二階堂和美さんの、「野菜を育てたい、デモに行きたい、というあこがれのすべてを実現しているノブエさん。自腹をきってミュージシャンを呼んでいるというのは、ミュージシャンが彼に甘えてるんじゃないか」という言葉には、ハッとした。そして、つぶれそうなれいこう堂を、今度はミュージシャンたちが救う。
人は、葛藤しながらも、自らや家族の人生を切り拓いていこうとする。そして、誰かの役に立ちたいというおもいで、ささやかな行動を積み重ねていく。その輪が、どんどん広がっていく。生命は助け合うことで得をするというようなことが書かれているクロポトキンの『相互扶助論』、「世界がぜんたい幸福にならないうちは個人の幸福はあり得ない」と述べる賢治の『農民芸術概論綱要』。これらを彷彿とさせる。そんな人がもっているはずの魂の美しさのようなものを、ノブエさんと、ノブエさんにかかわる人々から感じる。そして、この作品を観る人の多くは、「今」「ここ」でできることについて、自然と考えさせられるかもしれないとおもう。
贅沢をいえば、もっとノブエさんの声が聴きたい。ミュージシャンたちの音楽を堪能したい。
監督&ノブエさんインタビュー掲載!
【Interview】「いのちを肯定する」というメッセージを届けたい〜『スーパーローカルヒーロー』主演ノブエさん&田中トシノリ監督
【映画情報】
『スーパーローカルヒーロー』
(2014年/91分/16:9/カラー/日本)
出演:EGO-WRAPPIN’/二階堂和美/モアリズム/オーサカ=モノレール/畠山美由紀/アン・サリー/小池龍平/ハンバート ハンバート/Chocolat & Akito/高鈴 など
取材協力:UA/中川敬/mama!milk/アーサー・ビナード(詩人)/鎌仲ひとみ(映画監督)など
音楽:青柳拓 アートディレクター:山下リサ スチール:亀山ののこ
監督・撮影・編集:田中トシノリ
配給協力:シネマ尾道
製作・宣伝・配給:映画「れいこう堂」製作委員会
2014©映画「れいこう堂」製作委員会
新宿・K’sシネマで上映中(〜4/3)
4/4〜10 名古屋シネマテーク
4/18〜24 福岡・中洲大洋映画劇場
【執筆者プロフィール】
小林蓮実(こばやし・はすみ)
1972年千葉県生まれ。ライター、エディター。現在、フリーランスのための「インディユニオン」執行委員長で、組合員には映像やWeb制作者も多数。友人にも映画関係者が多く、個人的には、60〜70年代の邦画や、ドキュメンタリーを好む。近年、『週刊金曜日』『労働情報』や業界誌などに映画評や監督インタビューも執筆。独自の視点で作品を深掘りすることを試みている。労働運動にとどまらず、広く社会運動、オルタナティブの活動にも参加している。