流行語大賞にノミネートもされた「ヘイトスピーチ」。社会問題に疎い若者でも、新大久保辺りで行われているぐらいは知っているだろう。しかしどれだけの人が、ヘイトスピーチの実態を理解しているだろうか。
2013年2月、ヘイトスピーチを行う差別主義デモに立ち向かう、「レイシストをしばき隊」(通称:しばき隊)が現れた。それを知ったわたなべりんたろう監督は、団体に所属はしないもののカウンターとして参加するようになる。そして多種多様な人たちがカウンターとして、差別主義デモに「NO!」と声をあげていることに気がついた。例えば、社会的正義から立ち上がった者、LBGT、サッカーの右傾化を心配したサッカーファン、K-POP好きの女子高生、在日の方などだ。
しかし残念ながら、このカウンターの存在をきちんと報じているメディアはない。おかげで、インターネットの動画サイトに投稿された映像だけを見て、「どっちもどっち」と意見する人もいた。そこで現実を伝えるために、ドキュメンタリー映画である『レイシスト・カウンター』が生まれた。
映画では、差別主義デモに立ち向かう20人にインタビューをする。特に印象に残ったのは、K-POP好きの女子高生・おもちさんの言葉だ。カウンターとして活動する彼女に対し、友人は何と言っているのか? という質問に対し、「友だちは、『関わらないけれど応援はするよ』と言っている。問題が起きたときに、良いも悪いもいわない」
まさに筆者のことだった。筆者の周りには、差別主義デモに参加しないものの韓国や朝鮮を嫌っている友人もいる。一方、韓国に留学したり、在日朝鮮人の支援をしたりしている友人もいる。肝心の自分は意見を持たずに、どちらに対してもいい顔をしていた。
映画を見て、そんな自分を反省する気持ちになった。また社会問題に対しても無知であることが明確になった。見終わったあと、映画のシーンが脳内をグルグルと回ることに……。そこで今回、わたなべりんたろう監督に話を伺い、映画をみた感想を打ち明けることにした。
——映画を見るまで、ヘイトスピーチについて詳しく理解をしていませんでした。またカウンターという存在も知りませんでした。
わたなべ 「ヘイトスピーチ」という言葉だけが一人歩きをしていて、ちゃんと理解していない人が多い。ヘイトスピーチとは、本人の意思では変えることのできない属性、例えば国籍やLGBT(レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー)などで差別する言葉です。そしてマジョリティに対してマイノリティが言う言葉がヘイトスピーチです。悪口と誤解している人もいますが差別煽情です。だから例えば、安倍首相の悪口を言ったとしてもそれはヘイトスピーチにはなりません。首相という職にある公人に対して国民が言っているのですから。主に、ヘイトスピーチを行うのは「在特会」という団体です。「在日特権を許さない市民の会」の略ですが、在日外国人に特権なんて無いのに虚偽を根拠にして人種差別を煽っているのです。「埋めてやる」「殺してやる」「レイプしてもいい」といった酷いな言葉が飛び交っているので、カウンターは大声を出して対抗して、その言葉が聞こえないようかき消しています。在特会側からは、「朝鮮や韓国で反日デモをやっているから、こういうことをやって何が悪いんだ」という意見があります。でもそれは差別の連鎖、ひいては暴力の連鎖だし、ナチスのユダヤ人差別がホロコーストにまで至り、ルワンダの民族大虐殺や関東大震災時の流言飛語が在日朝鮮人の虐殺を招いたのと繋がっていきます。私は、在日の方を支援しているわけではありません。そうではなくて日本の国内で起きている許せない恥ずべきことだからやっているのです。電車の中でひどいことが起きても見て見ぬふりをするじゃないですか。あき缶が転がっていても、誰かが捨てるだろうと仮面をかぶっている。そういうのが一番よくない。
——「レイシストをしばき隊」というネーミングがちょっと怖いと思いました。よく知らない人からしたら、「どっちもどっち」の意見になってしまうのもわかる気がします。
わたなべ まあ、「しばき隊」というネーミングはジョークですよね。基本的に睨んだりヘイトに対抗して声を出すだけで実際に手を出してシバいたりはしませんから。デモを見ればわかるので現場に来て見ていただけたらと思います。日時は、在特会のホームページのカレンダーを見ればわかります。
——私のように無知な若者こそ見るべき映画だと感じました。大学の社会学部の授業で見ても良さそうです。
わたなべ 若い人に見てもらいたいです。ちなみに、いくつかの大学では上映の打診が来ています。根本をたどると、教育の問題です。自分の頭で考えるようにしないと。「会社が悪い、上司が悪い、首相が悪い」と言っているのは、何にも考えていないのと一緒です。問題があったときに、批判だけする人が多いですが、そうではなくて行動を起こすことが大切です。思っていることなんて他人にはみえないから、行動に起こさないと意味がない。だから若者に対して、「やればいいじゃん!」という思いも映画に込めています。
——最後にneoneo web読者に一言お願いします。
わたなべ とにかく『レイシスト・カウンター』を見てください。そして排外主義の人種差別デモの現場に来て自分の目で見てください。ネットのまとめ記事だけを読んで誤解しないよう、足を使って現実をみたほうがいいですよ。やはり何かをやっている人は足を使っていますよね。
差別主義デモは、多くの人にとって今まで見て見ぬふりをしてきた社会問題だろう。レイシスト・カウンターの視点から考えるちょっと重いテーマの映画ではあるが、これを機に、自分なりに向き合ってみてはいかがだろうか。
【映画情報】
『レイシスト・カウンター』
(2015年/81分)
出演:野間易道(元「レイシストしばき隊」、現C.R.A.C)/木野トシキ(プラカ隊、東京大行進運営)/おもち(K-POP好きの女子高生)/高橋直輝(元「男組」)/山口祐二郎(元「男組」)/久保憲司(フォトグラファー)/ヨンホ(在日コリアン)/oscar(憂国我道会、現C.R.A.C)/泥憲和(関西カウンター始祖)/渡辺雅之(教育者)/清義明(オン・ザ・コーナー代表取締役)安田浩一(ジャーナリスト)/手塚空(差別反対東京アクション)/BabyB(関西カウンター、LIFE代表)/ITOKEN(関西カウンター)/李信恵(在日コリアン2.5世)/kanabun(関西カウンター)/有田芳生(参議院議員)/師岡康子(弁護士)/辛淑玉(「のりこえねっと」共同代表)
監督:わたなべりんたろう
編集協力:上原商店
4/4〜10 渋谷アップリンク 一週間限定公開
※時間は下記をご参照ください
http://www.uplink.co.jp/schedule
【プロフィール】
名久井梨香(なくい・りか)
1989年東京都出身、吉祥寺在住。東洋大学社会学部卒業。新卒で大手広告会社の営業職に就職するも、フリーターのバンドマンと入籍し退職。以後、フリーライターとして活動する。WEBを中心に、女性向け情報や体験レポなどを執筆。学生時代、TSUTAYAでのアルバイトをきっかけに映画に興味を持ち出す。吉祥寺バウスシアターの閉館時にはボランティアスタッフを務めた。