(デザイン:渕野 恵太)
梅雨の時期、九州からneoneo読者のみなさまにお届けするささやかなプレゼントといえばこの企画。 『ゆふいん文化・記録映画祭』の季節が今年もやってきた。
ゆふいんならではの発掘作、過去作の再評価、話題の劇場公開作、他地域では目に出来ない地方のテレビ・ドキュメンタリー、『松川賞』受賞作の発表に加え、新しい試みの『映画職人講座』と、今年は更に幅広くも奥深いラインナップとなった。それぞれの映画が映し出すのは、遠くにいる他人の話ではない。それはゆふいんという土地に関わることであり、観る人それぞれに関わることでもある。
傘と財布をしっかり握り、夜の懇親会まで続く興奮を味わいに、会場の湯布院公民館にぜひお越しください。
1日目【前夜祭】 6月26日(金)~開幕作『フタバから遠く離れて 第二部』(2014年、舩橋淳監督)
今年度は全体の流れの中で軸となる長編が4本あるが、その1本がこの開幕作。言うなれば、俊足巧打堅守に加えホームランも打てる万能の先頭打者のような位置づけだ。
この映画は、震災と原発事故の後で人々がどう傷つけられ引き裂かれていくのか、土地を奪われるとはどういうことなのかを、映像の積み重ねにより説得力を持って映し出して行く。2時間ずっと静かに進行するのに、思わず「ええー」「うーん」と声が出そうなシーンが続き、眠くなるどころか最後まで目を離せない。
唯一の弱点は、これを観た後に懇親会で楽しく騒ぐのは気が引けそうだ…という点のみか。しかし2日目、3日目へと映画は切れ目無く続いて行く。明日からの戦いに備えて、懇親会ではゆふいんの味を存分に楽しんで頂きたい。
2日目 6月27日(土)~過去と現在のクロスオーバー
2日目は「おすすめはどれですか?」と尋ねられたら「全てです」とお答えするしかないほど、朝から夜まで怒涛の攻めが続く。
まずは10時スタート、とちぎあきらさん(東京国立近代美術館フィルムセンター)による『記録映画の保存と活用を考える vol.3』。
今年のラインナップを見た方からは「戦後70年に直接関連する作品はないの?」という声があがるかもしれないが、心配ご無用。当プログラムで1945年、終戦前後に撮影された貴重な記録映像作品を取り上げ、とちぎさんがその分析を行う予定だ。
12時10分からはコンペティション『松川賞』受賞作、『狛犬の棲む里』(2014年、桂俊太郎監督)を上映。残念なことに桂監督は亡くなられたが、瑞々しい好奇心と探究心の結実を見ることができる。映画祭のモットー「まっすぐな驚き」にぴったりで、観た後は近くの狛犬に会いに行きたくなる、心を動かしてくれる一本だ。
13時15分からの「ドキュメンタリー映画 職人講座」は初の試み。『ゆきゆきて、神軍』(1987年、原一男監督)など、多くのドキュメンタリーや劇映画の編集を手掛けた鍋島惇さんをゲストに迎え、映画編集についてじっくり考える時間だ。鍋島さんの編集作品をご覧になった上での参加を推奨したい。
そして14時50分からは『パルチザン前史』(1969年、土本典昭監督)、17時20分からは成田空港建設反対運動(三里塚闘争)の過去と現在をクロスオーバーさせる『三里塚に生きる』(2014年、大津幸四郎、代島治彦監督)の、昨年他界した大津幸四郎さんが関わった2作を連続上映する。
「三里塚はもう観たよー」という方も多いとは思うが、予備校での大演説シーンに度肝を抜かれる『パルチザン前史』との組み合わせ、更には三里塚闘争の現場にいた鎌田慧さん(本作品では鎌田氏も参加した講演会の場面も少し出てくる)の上映後トークも加わり、どんなシナジーが生まれるのか。ひとつのクライマックスとなるだろう。
終映後は、ゲスト、観客、町民、観光客、スタッフが入り混じっての懇親会。翌日も続く映画との戦いに備え、お腹と心を満たして頂きたい。ただし、早い者勝ちのお得メニューも出るかもしれないので、油断は禁物。お酒がダメな方は、原料の水のおいしさが光る「ゆふいんサイダー」をぜひご賞味あれ。
3日目 6月28日(日)~あきらめない
遂に最終日。後で訪れる祭りの後の寂しさを予感する間もなく、この日も絶えずフィルムたちは攻めて来る。
10時からは栃木・足尾銅山鉱毒事件の深みを追って行く『鉱毒悲歌』(1983、2014)。企画・撮影開始から完成まで約40年の時を費やした、まるで田中正造の遺志が宿っているかのような執念を感じる映画だ。自主制作の粗さはあるが、北海道にある「栃木」にまで出向き、足尾鉱毒渦がいかに現代の諸問題とリンクしているかをまざまざと見せてくれる。諦めずに完成させ、世に出した関係者の努力に敬意を表したい。
12時20分からのプログラムでは、テレビドキュメンタリーを2本上映。最初はNHK富山放送局で作られた『イタイイタイ病~現代への警告~』(2015年)。「四大公害病」のひとつ、イタイイタイ病の発生→裁判・認定→和解というプロセスの内幕を当事者の新証言と過去映像の組み合わせで再照射し、一種の「不都合な真実」を浮かび上がらせた作品だ。
そしてCSなどでも度々放送されている名作、是枝裕和監督による『しかし…福祉切り捨ての時代に』(1991年)。『フタバから遠く離れて』から始まる流れは、ここでひとつの着地点を迎えるのかもしれない。
15時10分からは、雰囲気がガラリと変わって『だれも知らない建築のはなし』(2015年、石山友美監督)。日本からは磯崎新、安藤忠雄、伊東豊雄などが出てくるが、有名建築家をほめそやす映画と思ったら大間違い。これはもしやコメディー?と思わせるような編集の技、出演者の個性、芸術や映画の世界にも通じる、建築と都市社会の関係性を考えさせる内容がとても楽しい。湯布院にも縁深い建築家・坂茂氏の上映後トークで、どんな意地悪な質問をしようか考えながら観るのもまた一興だろう。
そしていよいよ大トリ。17時50分からは『あっちゃん』(2015年、ナリオ監督)が舞台、もとい画面に飛び出す。「あっちゃん」は怒髪天やTHE BLUE HEARTSなどと近い時期に結成、昨年30周年を迎えたパンクバンド、ニューロティカのボーカル。なぜ歳を取ってもロックを続けるのか?なぜバンドをあきらめないのか?昼は菓子屋の小市民オヤジ、夜はピエロ姿でロックする彼にギャップ萌え(?)間違いなしの、ゆるさと執念が同居した閉幕作だ。
最後の懇親会、『あっちゃん』を観た後で酒を呑めばパンクスピリットが燃え上がるかもしれないが、会場近くの川へのダイブはgo to heaven確実なので、それだけはお控えくださるようよろしくお願い申し上げます。
第18回 ゆふいん文化・記録映画祭
日程 2015年6月26日(金)―28日(日)
会場 湯布院公民館、乙丸公民館劇場(大分県湯布盆地)
公式サイト http://movie.geocities.jp/nocyufuin/home.html
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プロフィール
大塚 大輔 おおつか・だいすけ
1980年生まれ、大分県大分市在住。ゆふいん文化・記録映画祭へのスタッフ参加は今回が3回目。他にも福岡インディペンデント映画祭など複数の映画祭で、韓国語通訳・字幕翻訳、企画立案、作品審査などを担当。召集がかかれば、裏方からトークMCまで、雑多な形で映画祭や自主上映会のお手伝いをしている。昨年からは別府市役所で、海外交流のための外国語専門スタッフとしても働いている。