【Review】ニューヨークという悪夢『ホームレス ニューヨークと寝た男』text くりた

誰もが一度は想像したことがあるだろう。
「もしかしたら自分には何か特別な才能があるのではないか?」
「そしていつか誰かが自分という存在を認めてくれるのではないか?」
または、「ここではない何処か特別な地へ赴けば、何かスペシャルな出来事が起こり、自分でもまだ気づかぬ才能が開花するのではないか?」という類のことを。
 
ニューヨークという都市はその幻想が消え失せるまで、束の間の猶予を与えてくれる魔法の国だ。
誰もがその土地に居るだけで、自分自身がどこか特別な存在になれているかのような、世界に認められたかのような充足感で満ち足りる。
それはニューヨークという街に囚われてしまった人々が見る、甘美な悪夢。
 
彼もまた囚われていた人間の1人だったのかも知れない。
 
マーク・レイという男はルックスが良い。
職業はストリートスナップのフォトグラファーで、副業は映画のエキストラ出演。
元モデルということもあって背が高く、人好きのする笑顔がチャーミングなナイスガイだ。
ニューヨークの街並みを颯爽と歩く彼の姿を見ていったい誰がホームレスだと思うだろう?
むしろ「家がない」と公言したところで観る者は、それすらも自らが選んだ道であり、自由を愛するが故の選択だったのだと勝手な解釈をしてしまうことだろう。
実際、本作の監督であるトーマス・ヴィルテンゾーンもマーク・レイからその話を聞いた時は「ジョークだと思った」と語っていた。
高級そうなスーツと革靴を身につけてグレーヘアをスマートに整えた彼の姿は「洗練された紳士」そのもので、癪にさわるほどキマっている。
そんな紳士に「ホームレスだ」とカミングアウトされてもタチの悪いジョークとしか思えないだろう。
 
しかし本作でのマークの暮らしぶりから推測するに、収入は良くて中流階級、もしかしたら想像よりもずっと下の可能性もある。
マークはルックスや人柄は良いかもしれないが、普通の感覚を持った平均的な人間であった。
仕事に関してもストリートスナップのフォトグラファーとはいえ写真の腕前は平均的で、副業の映画出演さえも台詞があればラッキーというレベル。
何か特筆すべき美点があるとすれば、それこそ身なりを整えることを怠らなかった点に尽きる。
それがマーク・レイの生きる術であり、揺れ動く彼の精神を支える重要なファクターとなっているのだ。
数年にわたって「洗練された紳士」を演じながらの都会でのアウトドア生活に疲れた彼の心は、常に揺れ動き続けていた。忍び込んだアパートの屋上に寝転がる時、親兄弟が待つ実家に向かう電車に揺られている時、「一体どこで道を間違えてしまったのだろう?」。
それでも朝になればアイロンをかけたシャツとピカピカの靴を履き、完璧な身だしなみで街へ出る。
 
彼のような人間がネクストステージへ這い上がろうとあがき続ける一方でマンハッタンの地価は高騰を続け、現在ではワンルーム(アメリカではStudioと呼ばれるタイプの部屋)の賃貸相場が日本円にして約20万円とも言われている。
そんな土地では貧困層はもちろん、中流層でも生活がままならないことは想像に難くない。
実際、ニューヨーク市のホームレス数は2016年10月のデータにおいて過去最多の6万人とも言われている。
これでは夢があるのかないのか、全くもってわからない。
それでも人はまだ見ぬ自分の才能を信じてニューヨークを目指し、悪夢に苛まれながらあがき続ける。
「平凡な人生の予感」に気づいてしまう、その日まで。


【映画情報】
『ホームレス ニューヨークと寝た男』

(2014/83分/オーストリア・アメリカ合作)

監督:トーマス・ヴィルテンゾーン
キャスト:マーク・レイ
製作:ボルフガング・ラムル、カロル・マルテスコ=フェンスター、トーマス・ヴィルテンゾーン
撮影:トーマス・ヴィルテンゾーン
配給:ミモザフィルムズ

1/28(土)〜ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次ロードショー!

【公式サイト】http://homme-less.jp/

【Facebook】https://www.facebook.com/HommeLess.jp/

写真はすべて©2014 Schatzi Productions/Filmhaus Films. All rights reserved


【執筆者プロフィール】

くりた
WEBデザイナー兼、雑食映画ライター。最近はドニー・イェンを中心にアジア映画を観ています。【変な映画が観たい】というブログをやっています。
Twitterアカウント:@nnnnotfound