【自作を語る】岩手県大槌町の風景を記録した映画『ちかくてとおい』 text 大久保愉伊 

13年12月、姪が産まれました。震災により大きな喪失を感じていた私にとって、彼女が生まれたことは、震災後最も嬉しい出来事の一つでした。
小さな手足をばたつかせたり、ぐっすり眠る姪の姿。
そんな姪の姿を見ながら、故郷大槌で生きる人々の言葉を思い出していました。漁師さん、市民農園を運営する方、海を豊かにするために山を手入れする林業の方。私が12年にこの方々にインタビューをした際、みな口を合わせたかのように、「子供達のためになにかできないか」と話をしてくれました。
当時、私は頭では理解していたつもりでしたが、姪が生まれたことにより、この言葉が実感に変わりました。


かつて町があった場所は、土に覆われ、地層の一部になる。その地層にあった風景を、新しい町に立つ彼女に伝えることはできないだろうか?
自分自身のために撮りためてきた大槌の風景を、彼女に渡すことはできないだろうか?
そのような個人的な想いが『ちかくてとおい』を作るきっかけになりました。
理解させるのではなく、感じ取ってもらうものを。彼女の足元にある風景を想像出来る地図のようなものを。その趣旨に賛同してくれたスタッフに支えられながら本作を作りました。
この映画に出てくる風景は、決して強度のあるものではない、脆弱な風景の記録であると自覚しています。けれどそれでも伝え残したい、町の記録、町の記憶があります。
大槌のことを知らない方々にも、何か一つでも感じ取ってもらえたら、そしてこれからできるであろう風景と「今」とを照らしながら想像していただけましたら幸いです。

大久保愉伊(監督)


【映画情報】

『ちかくてとおい』
(2015/53分/日本)

監督・撮影・テキスト・編集・ナレーション:大久保愉伊
構成:高橋知由  音楽:大久保正人
撮影補:西川尚志、高橋知由、小森はるか
MA・音楽収録:吉田俊光
助成:GBFund
製作・宣伝・配給:Revolving-Lantern

下北沢トリウッドにて、4月29日(土・祝)より公開

2017年4月29日(土・祝)~5/19(金)

※火曜定休
〒155-0032  東京都世田谷区代沢5-32-5-2F  
TEL 03-3414-0433

【スケジュール・料金】
4/29(土祝)~5/5(金祝):11:30
5/ 6(土)~12(金):土日13:00/16:00 平日 15:00/19:30
5/13(土)~19(金):土日14:30/17:30 平日 15:00

当日:一般 1,200円/学生・シニア:1,000円
前売:1,000円

☆舞台挨拶あり!
4/29(土) 11:30の回上映後
大久保愉伊(監督)

☆トークイベントも!
5/8(月)19:30の回上映後
安田菜津紀さん(フォトジャーナリスト)×大久保愉伊監督
5/10(水) 19:30の回上映後
佐藤慧さん(フォトジャーナリスト)×大久保愉伊監督
5/12(金) 19:30の回上映後
木村建哉さん(映画研究者/成城大学准教授)×大久保愉伊監督

※該当回をご覧の方がご参加頂けます。
※ゲストは予告なく変更になる場合がございますので予めご了承下さい。

トリウッド公式サイト→http://tollywood.jp
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【監督プロフィール】

監督 大久保 愉伊(おおくぼ・ゆい)
1986年生まれ。岩手県大槌町出身。成城大学文芸学部芸術学科に入学後、映画研究部に入部し自主映画を制作。東日本大震災の被災地である、故郷大槌町を記録した 『槌音』(11) は、山形国際ドキュメンタリー映画祭やキューバ新人監督映画祭などで 上映され、日本映画復興会議奨励賞を受賞。全国で劇場公開される(併映『大津波のあとに』)。その後も継続的に故郷を記録している。