【Interview】必要なのは〈empathy〉の力です――『トリとロキタ』 ダルデンヌ兄弟×山口由人

左から、ジャン゠ピエール・ダルデンヌ、山口由人さん、リュック・ダルデンヌ

新作『トリとロキタ』の公開を控え、6年ぶりに来日したジャン゠ピエール&リュック・ダルデンヌ(ダルデンヌ兄弟)。一般社団法人Sustainable Gameを設立し、現在も個人の活動として入国管理局に収容されているビザが取れない学生たちのドキュメンタリーを制作するなど、精力的に活動されている高校3年生(取材時点)・山口由人さんとの鼎談が実現した。「移民」――ひいては、自分たちのすぐそばにいる、弱い立場に置かれた人たちとどのように向き合うか。兄弟と山口さんの考える「向き合い方」をめぐって、鼎談は熱を帯びた。
(構成=若林良、構成協力=津留崎麻子、井河澤智子)

山口:山口由人と申します。いま高校生で(取材時点)、18歳です。入国管理局に収容されている方や、ビザが取れない高校生のドキュメンタリーを撮っています。後者の場合、彼らの両親は共に国外出身で、日本で生まれたけれども、ビザや日本国籍を取ることができていないという現状があります。

ですので、『トリとロキタ』を拝見したとき、主人公であるトリとロキタの状況が僕の取材した方たちと重なるところがたくさんあって、考えさせられました。たとえば、僕の友だちの話をしますと、保険に入れず、けがをしてもそれを親に隠して生活している子や、埼玉県より外に出られないので、同級生が県外で遊ぶ時も自分は残ることを余儀なくされる子がいます。そのように、周りと違う状況に置かれた人は、日本では見て見ぬふりをされてしまうことも多い。ヨーロッパでも日本でも、同じように苦しんでいる移民がいる現状を少しでも多くの人に伝えたいと思っています。

おふたりはどういう想いで『トリとロキタ』を撮られたのか、また、なぜドキュメンタリーではなくフィクションという形で撮られたのか、教えていただけますか。

リュック:まず、私たちの映画ではこれまでも「移民」の方は登場人物として多く登場していました。しかし、ストレートに彼らの苦境を伝えるという意味では、本作は私たちの映画の中でも、もっとも「怒り」に満ちた作品だと思います。では、なぜこの映画を撮ったのか。新聞で若い移民たちがヨーロッパにやってきては、消息がその後わからなくなっているという記事を読んだことがきっかけです。私たちの国では18歳が成人年齢とされており、18歳でビザがもらえないと強制送還されてしまうので、17歳になったくらいから、そういう若者たちが闇社会に入ってしまう。その国に居続けるためには、偽造ビザやお金が必要になるので、彼らは非合法の組織にとって、絶好の食い物になるのです。そしてどんどん、その悪循環の中に飲み込まれていき、最終的には殺されたり、女性であれば売春婦になったりもする。ですから、それを告発するために、映画を撮ろうと思いました。

とはいえ、「告発」のためだけではなく、フィクションだからこそ描ける人間の強さ、もしくは救いを表したいとも感じていました。移民のように弱い立場に置かれた人であっても、自分が信頼できる、友情が築ける「誰か」がいたら、生き延びることもできる。今回の映画では、ふたりが組織から追われた際に、ロキタはトリを助けるために、トリと反対側の方向に走っていって、最後まで彼との友情を貫こうとしていました。彼らの絆は最後まで変わらないもので、映画としてはそこを描くこともまた必然であると思いました。

そこからつなげますと、いまお話になられた日本にいる国籍のない方も、山口さんのような友だちができれば、おそらくそれが大きな支えになって、日本で生きていくという希望を持てると思います。

『トリとロキタ』©LES FILMS DU FLEUVE – ARCHIPEL 35 – SAVAGE FILM – FRANCE 2 CINÉMA – VOO et Be tv – PROXIMUS – RTBF(Télévision belge)

山口:僕自身がドキュメンタリーを撮ろうと思ったのは、先ほどの話と少し重なりますが、偶然ビザを持てない移民の子と友だちになったことです。交流を深めるうちに、「私はお母さんを愛しているけれども、私はこのお母さんから本当は生まれたくなかった」と、すごく辛そうに話しているのを聞いたんです。僕と同世代の子が、こんな苦境に耐えなければいけないことに怒りを感じましたし、それを隠そうとする社会に強い問題意識も覚えました。

ジャン゠ピエール:学校に通うくらいの年齢の子は、勉学は続けることはできるのでしょうか。

山口:高校までは、たとえばNPOなどからの金銭的な支援があれば、通うことができる人は結構います。一方で大学に進学するとなると、ビザが基本的に取れません。職業訓練校のようなところで、特殊なビザを取って、なんとか日本にい続けて……という人もいますが、多くの方はそれもできない状況に置かれています。

彼らの状況を伝えなければという思いは強いのですが、ただ、難しい面もあります。僕が彼らにカメラを向けると、彼らは今の状況に対する怒りや憤りがあるがゆえに、自分の状況についてたくさん語ってくれるんですけど、一方で僕がその映像を外に出すと、「怒ってる外国人がいる」と少なからぬ日本人に拡散されて、支援や共感が得にくくなってしまってしまうんです。そういう時、僕は彼らとどのように向き合い、カメラを回すべきかという葛藤を覚えるのですが、どのような向き合い方が正しいのか、ご意見をいただければと思います。

ジャン゠ピエール:山口さんが彼らに対して共感を覚えているのであれば、彼らと山口さんの間で信頼関係を築いて、落ち着いてカメラに向かって話をしてもらうように説得するという方法もあると思います。しかし、不正義を訴えるわけですから、彼らの怒りは正当なものです。ですから、その「怒り」を記録することも、どこかで必要になると思います。

山口:確かに、その怒りに感応することも、大切であると思います。僕が必要だと思っているのは、英語でいうと〈empathy〉(=共感)のスキルを身に着けるということです。これは訓練をしないと、なかなか伸ばすことはできません。一方で、それを鍛える機会は日本にはあまりない。誰か遠い存在の人たちとどのように向き合うべきか、あるいはどのように彼らを理解するのか。そうしたことを多くの人が考える機会に、『トリとロキタ』がなって欲しいと思っています。

リュック:私たちも、多くの日本の方に『トリとロキタ』を見てもらいたいと思っています。この映画の中の光となっているのは、彼らふたりの――トリとロキタの間の友情です。彼らは、決して脅威となるような存在ではありませんし、人を傷つけようとする意図もありません。彼らが望んでいるのは、亡命してきた国で普通に生活をするということだけ。ロキタの願いは「家事ヘルパーになりたい」で、トリの願いは「学校に行き続けたい」。本当にそれだけなんです。にもかかわらず、彼らのささやかな望みすら叶わない現状がある。そうしたことを観客の方に理解してもらって、ふたりに対して脅威ではなく友情を感じてもらいたいと思っています。

私から山口さんに質問があるのですが、なぜ日本人は移民問題に対して疎い、というか関心がないのでしょうか。それは、政治や環境が関わっているのでしょうか。

山口:そうですね、日本の政治や社会状況も関係はあると思いますが、個人的に思うのは、日本には孤独な人が多い気がしています。孤独でなくなるにはふたつの重要な要素があって、一つは「誰かから興味を持たれる」こと、もう一つは「自分とは何者かを知る」ことだと思います。日本人は前者はあっても、「自分とは何者か」を考えずにいる人が多い気がしています。『トリとロキタ』では、ふたりともお互いのことを強く思っていて、「なぜ自分がそこにいるのか」「自分は何者か」についてもはっきりと知っていると感じましたが、多くの日本人は確固とした自分の軸を持たず、人に流されてしまうという人が多い。だからこそ移民をはじめ、自分とは異なった立場の人たちについて知った時に、どのように向き合えばいいかがわからない人が多いのかなと考えています。

『トリとロキタ』を見て、監督が「自分とは何か」を真摯に考えていると僕は感じたのですが、長い間、あまり社会から関心を寄せられていない人たちにカメラを向け続けることができたのはなぜなのか、最後にお聞きできますか。

ジャン゠ピエール:私たちは、弱い立場に置かれた人たちを映画の中心に置いていました。そして、ドキュメンタリーでは、正義を求めて闘っている人たちの姿を描いてきました。

なぜそうしたか、と聞かれても、「そうしたかったから」としか言えないのですが、私たちの映画を見ることによって、観客の方々が、自分とは異なった立場にある人たちに対して、少しでも関心を持ってもらえたらいいな、という期待はしています。

リュック : それには、政治的な関心というより、むしろ道徳的な関心が根底にあったように思います。こうした、今世界に――いえ、世界というより、私たちの身近で起こっている不正義を見て憤りを感じていて、それを受け入れてはいけないと思っていました。

恵まれた立場にいる人がいるいっぽうで、搾取をされる人がいたり、学業を続けられない子どもたちがいます。私が子どもの頃に、とても頭がいい同級生がいました。ただ、彼は家庭が貧しかったために学業を続けることができず、早い段階で働くことを余儀なくされてしまった。私は、そういうことを受け入れ難いと感じていましたし、憤りを感じていました。

先ほどの質問で、山口さんは、日本人は移民の問題にあまり関心がないとおっしゃっていましたけれども、山口さんはなぜ18歳という若さでありながら、そういう関心をお持ちなんでしょうか。

山口:ひとつには、もともとドイツにいた小学校5年生の時に、シリアの情勢が悪化して、亡命してきた難民の方を間近に見ることが多くなったことですね。彼らが自分と同じ人間であるにもかかわらず、自分とは比べられないほど、内側に苦しみを抱えていることをその時に知って、「もっと〈empathy〉のスキルをもって、社会で生きていかなければならない」と思ったんです。加えて、僕自身はクリスチャンでもあるので、「自分自身が使命を持って、誰かのために何かをする」ことにモチベーションがある――いえ、むしろそれが当たり前だという価値観を持つようになったことが、大きいのではないかと思います。

ジャン゠ピエール&リュック:あなたの将来に期待しています。ありがとうございました。

『トリとロキタ』©LES FILMS DU FLEUVE – ARCHIPEL 35 – SAVAGE FILM – FRANCE 2 CINÉMA – VOO et Be tv – PROXIMUS – RTBF(Télévision belge)

【映画情報】

『トリとロキタ』
(2022年/ベルギー゠フランス/カラー/89分)

監督・脚本:ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ
出演:パブロ・シルズ、ジョエリー・ムブンドゥ、アウバン・ウカイ、ティヒメン・フーファールツ、シャルロット・デ・ブライネ、ナデージュ・エドラオゴ、マルク・ジンガほか
配給:ビターズ・エンド  

公式サイト:https://bitters.co.jp/tori_lokita/

ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館、渋谷シネクイントほか全国順次公開中!

【取材者プロフィール】

山口 由人(やまぐち・ゆうじん)
2004年6月30日生まれ。一般社団法人Sustainable Gameファウンダー。立命館アジア太平洋大学サステナビリティ観光学部1回生。幼少期をドイツで過ごす。帰国後、社会問題の当事者の状況を理解する前に解決策を生み出す事が重要視される傾向に違和感を覚え「課題発見DAY」というイベントを企画。中学3年、一般社団法人Sustainable Gameを設立。数々の企業や自治体と未成年の共創プロジェクトを生み出し、現在は未成年の社会問題解決から共創までを包括的に支援するプラットフォームを実装中。ソーシャルグッドなリアリティ番組『SPINZ』総合プロデューサー。個人では国際会議への登壇や人権問題に関する映画制作を行うなど幅広く活動する。