【info】11/3〜 『三池 終わらない炭鉱の物語』アンコール上映@東京/横浜/大阪/広島

『三池 終わらない炭坑(やま)の物語』から7年
掘り続けた坑道は福島の原発につながっていた 

『三池』より ©2005 オフィス熊谷

なぜ今三池の映画なのか。

その問いを抱いたまま映画館に足を運べば、何が映画で表現されているのか、それぞれが発見できる。日本最大の炭鉱であった三池で何があったのか、そして、日本がいかにして経済成長したのか。

あまりにも大きい題材の三池。そして、いろんな媒体に発表された三池。町が背負っている歴史があまりにも大きすぎる。三池を描いたテレビ番組はたくさんある。しかし、どこかの時代に焦点を当て、そこから三池炭鉱の全体を感じさせる。しかし、この作品のすごいところは、その歴史を含めて全体像に真っ向から挑戦している。なんと言ってもこの映像作品を大牟田市が企画・製作している点だ。

何がどうすごいのか、行政が映画を作った。それだけでも非常に画期的なことだ。行政が作る映画とは、なにか啓蒙的なイメージが先行しがちだ。しかし、この映画を見れば、わかる。映画を通じて、町の歴史に正面から向き合おうとしている。正々堂々と映画がある。  三池炭鉱に関わったあらゆる人の言葉を拾い集めている。あらゆる人の炭鉱町で暮らしていた時代の外的偶然と、人の営みの内的必然を、そのまま一人ひとりの言葉で見せる作品だ。

見ている間、何度も涙があふれ、悔しいほどいい作品だった。

松林要樹(映画監督)
 

激動の時代を生き抜いた人たちの証言

「炭鉱(やま)はまだ生きています」 スクリーンが暗転し、館内に明かりが灯ってもしばらく、立ち上がることができなかった。映画館の座席に茫然と座り込んでいた。

かつて三池炭鉱で栄えた町、大牟田市の出身である。だから我が町を撮ったドキュメンタリー映画が上映されると知って、飛んで行った。単館上映で、しかもモーニングショーのみ。朝が苦手な性分だが、頑張って早起きして行った。

行ってみて驚いた。こんな地味なノンフィクション映画。しかも朝っぱらだけの上映である。なのに映画館の前には行列ができていた。炭鉱町の昔をしのぶ、私のようなオッサンばかりではない。若いカップルの姿もいくつも見られた。何で、また……? だが映画を一度見てみれば、その答えは自ずと明らかだった。

三池炭鉱はかつて、日本の石炭の四分の一を掘り出していた、我が国最大の炭鉱だった。私の子供の頃は既に、石炭産業斜陽化の波はいかんともし難かったが、それでも昔はどれだけ栄えていたか、周りの大人達から聞かされていた。  ただ、そんな華やかな歴史ばかりではない。戦前には囚人労働あり、戦中には中国人や朝鮮人、更には欧米人の戦争捕虜までつぎ込んだ、強制労働。戦後は「総資本対総労働」と呼ばれた三池争議や、戦後最悪の鉱山事故である炭塵爆発事故など、三池炭鉱を語る上では耳をふさぎたくなるような話も枚挙に暇がない。あんなものは「負の遺産」だとして、早く忘れてしまおうという地元の人間もいるのも、分からないではない。

だがそこに人がいて、必死で生きてきた町の記録である。なのにこのまま放っておいては、いつの間にか忘れ去られてしまう。そんな危機意識から、大牟田市石炭産業科学館のスタッフが、時代の証言を残そうと企画を立てた。幸い賛同してくれる熊谷監督のような人も現れ、進めていくうちに最終的にはこうして、一般上映にまでこぎ着けることができた。だが当初は、予算を取るところから大変な苦労があったそうである。  ここに完成したフィルムを見て、最初に思うのはまず、よくここまで証言を集めたな、そして皆さん、よくぞここまで語ってくれたなぁ、ということである。楽しい話ばかりではない。思い出したくもないことも、いくらもあった筈なのに。でも皆さん、生き生きと往時を振り返る。辛いことも淡々と、時にはふっ切れたように語る。その表情が何より印象的なのだ。激動の時代を生き抜いてきた、その強さがスクリーンからひしひしと伝わってくるのだ。

人が生きるとはどういうことか。その問いかけと、答えの一端がこの映画にはある。だからこそ世代や出身に関係なく、多くの観客が映画館に詰めかけたのだ。あの若いカップル達の姿が何よりその証左だし、雑誌『シネ・フロント』で「2006年映画ベスト5」に選ばれるなど、数々の受賞実績もそれを裏づけていよう。

一人でも多くの人に堪能していただき、明日を考える活力になってくれれば、地元出身の人間としてこんなに嬉しいことはない。

西村健(作家・小説「地の底のヤマ」で吉川英治文学新人賞を受賞)
※『週刊金曜日』2008.7.11(No,710号)より転載

『三池』より ©2005 オフィス熊谷

【作品情報】

『三池 終わらない炭鉱の物語』

2005年/日本/103分/カラー
製作:オフィス熊谷
監督:熊谷博子
撮影:大津幸四郎
協力:三池炭鉱に生きた人々
企画:大牟田市、大牟田市石炭産業科学館

2006年度 日本ジャーナリスト会議特別賞
2006年度 日本映画復興賞奨励賞

【上映情報】

東京 ポレポレ東中野:2012年11月3日(土)~11月9日(金)
上映時間:12:30~/15:10~/18:00~
※連日12:30〜の上映後、トークイベント開催あり 詳細は公式サイト

横浜 シネマジャック&ベティ:2012年11月17日(土)~11月23日(金)
上映時間:11:50〜/17:25〜  
※但し、11/23(金)は17:25の回休映
※11/17(土)18(日)11:50〜の上映後、トークイベント開催あり

大阪 シアターセブン:2012年11月24日(土)~11月30日(金)
上映時間:14:10~
※11/24(土)25(日)の上映終了後、トークイベント開催あり

広島 横川シネマ:2012年12月1日(土)~12月7日(金)
上映時間:10:10~ 

『三池』アンコール上映サイト:http://www.cine.co.jp/miike2012.html

予告編(再編集版):http://www.youtube.com/watch?v=rsVxwWTFxEo