【リレー連載】列島通信★名古屋発/「第17回アートフィルム・フェスティバル」の特集 「フランス・ドキュメンタリー・セレクション2012」について text 越後谷卓司

森弘治『Case Study』(2012年、愛知芸術文化センター・オリジナル映像作品第21弾)

現在、12月4日(火)~16日(日)〈*10日(月)は休館〉に開催する「第17回アートフィルム・フェスティバル」の準備を進めていて、追い込みの時期に入っている。今回のプログラムでは、メインの一つに、アリアンス・フランセーズ愛知フランス協会の協力と作品提供により実現した「フランス・ドキュメンタリー・セレクション2012」がある。


アリアンス・フランセーズの「アートフィルム・フェスティバル」へ協力は、2009年の「第14回」に始まった。これは、11月がフランスではドキュメンタリーに親しむ月とされており、名古屋でもドキュメンタリーの特集を行いたい、という提案があったことによる。「アートフィルム・フェスティバル」は、例年11月末から12月初めにかけて開催されていることから、「フェスティバル」の中でフランスのドキュメンタリー特集を組む、という形での対応を取ったのである。

初回はドキュメンタリーの歴史において独自の作家性を刻んだ、アラン・レネ、ジャン・ルーシュ、クリス・マルケル3名の作品を上映した。レネの『ゲルニカ』(1950)や『夜と霧』(1955)、ルーシュの『僕は黒人』(1958)のように歴史的名作と言っていい作品から、政治的ニュアンスの濃いマルケルの『空気の底は赤い』(1977-93)等を含む連作「シックスティーズ」を一挙上映するなど、充実したラインナップだった。

その後、単にアリアンス側のプログラムを受け入れるだけではなく、愛知側からも作品選出のテーマ設定を行うなど、相互の関わりを深めてきた。今回は「アート・ドキュメンタリー」や「実験映画」をキーワードに作品選定を行ったのだが、その結果、ダイレクト・シネマと呼ばれる手法を独自のスタイルで極めたフレデリック・ワイズマンが、パリ・オペラ座バレエを捉えた『パリ・オペラ座のすべて』(2009)や、現代フランス映画で最も注目される監督の一人オリビエ・アサイヤスが、コンテンポラリー・ダンスの代表的な振付家の一人、アンジュラン・プレルジョカージュのダンス創作の秘密に迫る『エルドラド-プレルジョカージュ』(2008)、シネマテーク・フランセーズの創設者にして、ジャン=リュック・ゴダールやフランソワ・トリフォーら、ヌーベルヴァーグの作家に多大な影響を与えたアンリ・ラングロワの人物像を関係者の証言等によって浮き彫りにする『アンリ・ラングロワ~ファントム・オブ・シネマテーク~』(2004)、アメリカ実験映画への史的アプローチを試みる『フリー・ラディカルズ - 実験映画の歴史』(2010)、インダストリアル・ミュージックの創始者スロッピング・グロッスル、サイキックTVの創始者ジェネシス・ブライヤー・P・オリッジと、そのパートナーであるレディ・ジェイを追ったマリー・ロジエ『ジェネシスとレディ・ジェイのバラッド』(2011)など、近年の注目すべき作品を集中的に上映する機会を作ることができた。

アンスティチュ・フランセが所蔵するDVDを、フランスから直接、送ってもらい上映するため、日本語字幕はなく、英語字幕版での上映になるという難点はあるのだが、実験的な志向の意欲的なドキュメンタリーを、まとまった形でプログラミングできる意義はやはり大きい。中にはブリュノ・デュモン『フランドル』(2005)の製作過程を追ったセバスチャン・オルス『フランドルの人』(2006)や、エリック・ロメール『夏物語』(1996)を題材としたジャン=アンドレ・フィエスキ『「夏物語」ができるまで』(2005)など、製作現場の貴重な記録もあり、フランス語原語のみである ※1 のだが、映画ファンであればきっと興味を持たれるのではないかと考え、思い切ってプログラムに入れた作品もある(フィエスキは映画作家・評論家で、2009年のプログラムでは、ジャン・ルーシュのドキュメンタリー『モッソ、モッソ-ジャン・ルーシュ』(1997)を上映している)。

当センターにおける映画のプログラミングは、開館時の1990年代には、公立文化施設向けにノン・シアトリカルの作品をパッケージ化したものを受け入れる一方、独自の特集も組んでゆくといった形で、今思うと仕事を進めてゆく上でも、比較的ゆとりがあったが、現在ではこうした地方巡回用プログラムはほとんどなく、ほぼ全てを独自に作成してゆかざるを得ない状況である。そのため上映を検討している作品には、個別に配給会社や、直接作家とやりとりし、交渉してゆかねばならならず、その労力はかつての比ではない。こうした状況の中で、フランス作品のみならず、フランスが評価する他国の作品も積極的に提供しているフランスの姿勢には、大変助けられている。今回の「フランス・ドキュメンタリー・セレクション2012」は、2009年より継続してきた双方の協力関係が、ひとつの豊かな実りとなって形になったものといえるかもしれない。

※1  その後、フランスより到着したDVDをチェックした際、『フランドルの人』と『「夏物語」ができるまで』は、英語字幕付きで上映できることが判明しました。

 
【上映情報】

『第17回 アートフィルム・フェスティバル』

会 期: 2012年12月4日(火)~16日(日) ※12月10日(月)は休館
会 場:愛知芸術文化センター12階 アートスペースA
料 金:入場無料
問合せ:愛知芸術文化センター・愛知県文化情報センター
     Tel. 052-971-5511(内線532) 【受付時間:平日9:00-17:30】
プログラム:
    特集1:フランス・ドキュメンタリー・セレクション2012
    特集2:松本俊夫 「蟷螂の斧」三部作一挙上映+初期ビデオ・アート探求
    特集3 愛知芸術文化センター・オリジナル映像作品アンコール上映 

    ※詳細は公式サイトをご参照下さい
    http://www.aac.pref.aichi.jp/bunjyo/jishyu/2012/12aff/index.html

【執筆者プロフィール】

越後谷卓司(えちごや・たかし) 愛知県文化情報センター主任学芸員
1964年東京生まれ。1991年の開館準備時より、愛知芸術文化センターの文化情報センターで、映像事業に携わる。愛知芸術文化センターは92年に開館し、今年開館20周年を迎えました。本文では触れられませんでしたが、プロデュースを担当しているオリジナル映像作品は、最新作となるシリーズ第21弾の、森弘治『Case Study』(2012年)が、「第17回アートフィルム・フェスティバル」会期最終日の12月16日(日)に初公開されます。