【Interview】 今村ひろゆき 「あたらしい間借りのかたち―まちのシェアへ」


すぐそばを隅田川の流れる浅草・江戸通り沿いに一軒の古めかしい建物がある。まちづくり会社ドラマチックの代表・今村ひろゆきさんの運営する「LwP asakusa」というスペースだ。今村さんはここをひとつの拠点として、あたらしい「まちづくり」をさまざまな方法で提案している。そのひとつに「MaGaRi」というユニークな不動産サイトがある。MaGaRiとはすなわち「間借り」。ビルのふとした空間や、バーの昼間の時間帯など、使われていない空間と時間を別のひとに「間借り」してもらおうという発想で、2010年からスタートしている。見ているだけでもとにかくワクワクしてくるので、ぜひサイトを訪ねてみていただきたい(!) あたらしいアイデアを次々とかたちにしている今村ひろゆきさんにお話しを聞いてきた。

(聞き手・構成=萩野亮 撮影・取材協力=ササキユーイチ)


 
――「MaGaRi」を始められた経緯は。

ぼくらはもともと新しい家を建てる仕事をしていたんですよ。それで仕事がら、不動産にいっぱい空きがあるのは知っていたんです。でもぼくらがここ(LwP asakusa)の場所を見つけるのにとても苦労したということがあって、アーティストの方なんかも場所を見つけるのが大変なんだろうなと思って。空きはあるのに見つからない。これを何とかうまくマッチングできないか、と考えたのがいまから2年くらい前です。

――ここの空間もすごくステキですよね。

ここは昔からのサンダル屋さんだったんですよ。ここらへん一帯が履き物問屋の通りで。8年前までやられていたみたいなんですけど、ぼくらはそれを知らないんです。最初は床に穴が空いていたりしたんですけど、天井も高いし、いい空間になるだろうなと思って。この棚も当時からのものなんですよ。最初は2階にぼくらが住んでいて、一階でカフェやバーをやったり、イベントをやったりしていました。いまは近くに引っ越して、2階はシェアオフィスにしています。いまも1階はときどきバーとかやろうと思っています。

――ここは浅草ですけれど、いま東京の「右半分」がおもしろくなってきている気がしています。

そうですね。東京の「左半分」というか、西側は、もう使い方や価値が決まっちゃってると思うんですよ。家賃も高いし、飲食なら回転数を求めるなどしっかり商売をしないといけない。そういうところで、こっちは家賃も安いですし、いろんな使い方ができると思うんです。そういうなかで、アーティストの人たちもいまこっち側でいろんなことをやっていますね。

――ご自身ではMaGaRiをどのように位置付けられていますか。

うーん、「ライフワーク」ですかね。たんにアートプロジェクトというのでもないし、たんに不動産というのでもない。そのあいだで続いてゆくようなもの、「ライフワーク」ですね。

――貸主は応募された方々なのでしょうか。

どっちもありますね。こっちからぜひ間借りさせてくださいってお願いしたのもありますし、向こうからMaGaRiに使ってくださいっていってもらえることもあります。あとは知り合いを通じて紹介してもらったものとか。

――基本的には人づてなんですね。

ネットもありますよ。MaGaRiのホームページ宛にメールを頂いてものすごく面白い物件が見つかることもあります。


――貸主のかたがたは、アートスペースや映画会社など、クリエイティブの方々が多いですね。これはコラボレーションのようなものを期待して?

そうですね。ぼくらはたんに物件を紹介するのではなくて、やっぱり人と人とをつなげたいんです。そこで何かしらおもしろいことが起こってほしい。そうなると、そういう化学反応が生まれる可能性を高めるために、面白いアイデアを持っている広義な意味でのクリエイティブの人たちが貸主になりますね。

――そこがおもしろいところですね。何が起きるか分からない、というところが「ドキュメンタリー」だなと思います。いままで予測を越えるようなMaGaRiはあったのでしょうか。

間借りしている人がそこの人(貸主)と意気投合しちゃって、そこの役員になった、とかはありましたね。あとは、よくある話かもしれませんが、仕事が見つかったとか。あとは、三人の人に間貸ししている人がいるんですが、自分がいないときに自由に使ってくれているのが「うれしい」とか。価値づけはできない部分で、「うれしい」というのがあるんです。

――「逆不動産」の「タレント」というシステムもありますが、この発想はどこから?

この人にいい場所があればもっと活躍できるのに、ということがあるんですよ。いまは貸す側が一方的に不動産情報を出していますが、それをひっくり返してみようと。ぼくらも「この人はおもしろい」という人を紹介していますし、貸す側もぼくらのことを信頼してくれているので、けっこうアクセスはあるんですよ。

――最近は「シェアオフィス」や「シェアハウス」がどんどん当たり前になってきています。何かデジタルではないつながりかたが出てきているという気がしています。

ぼくらの上の世代の40代や50代の人たちは、ひとり暮らしをすることが目標だったんだと思うんですよ。もしくはマイホームやマイカー。けれどぼくたちの世代は、そういうのがない。ただ、シェアハウスにしてもまだまだ家のなかの話だと思うんです。ぼくらはそれを町にまで広げていきたいと思っているんです。それがぼくらの考えている「まちづくり」であり、まちのシェアみたいなものです。

――最後に、そのほかの活動ふくめ、これからの展望をお聞かせください。

MaGaRiとここのほかに、中延に「インストールの途中だビル」というのがあります。ここにはアーティストや映画監督やいろんな方が間借りされています。ぼくらはかたちではなくて、その中身を作っていきたいと思っているんです。だから「インストールの途中だ」。あと、やりたいと思っているのは、不動産情報と町のカルチャー情報をいっしょに扱った媒体ですね。これが意外にないんです。カルチャーからその町に興味をもってもらう。こうしたことをやっていきたいですね。

(取材日:2012/4/20 LwP asakusaにて)


●LwP asakusa サイト http://lwp-a.jugem.jp/
●MaGaRi サイト http://ma-ga-ri.com/
追加情報 2012年5月9日に朝日アートスクエアにて「隅田川ジャンクション」というイベントを開催。詳細はこちら