【Interview】女優・渡辺真起子が語る東京フィルメックス2013

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現在、東京・有楽町で第14回東京フィルメックスが開催されている。
ドキュメンタリーを含む良質のアジア映画がたくさん観られる、晩秋の東京の恒例行事だ。今回、コンペティション部門の審査員のひとりを務めるのは、女優の渡辺真起子さん。今や日本のインディペンデント映画を支える代表的な女優として、欠かせない存在だ。
実は、観客として彼女がこの映画祭に通っており、毎年楽しみにしている、という情報は、ブログなどを通じて知られていて、審査員を務められると聞いて、個人的には、満を持して真打ち登場!くらいの感覚で受け止められたのであった。
今回は審査員ということで、取材の時点でコンペティションの作品はこれから観る、という段階だったのだが、彼女のお話からは、この映画祭に対する熱い思いと意気込みが十分すぎるほど伝わってきて、約束の時間があっという間に過ぎていった。
と同時に、せっかくの機会なので、女優として人間として、渡辺さんがどのように映画をとらえているかというお話にも、ほんの少しだけ触れさせていただいた。
(取材・構成 佐藤寛朗/neoneo編集室)

フィルメックスは私にとって とても大事な映画祭

——渡辺さんはここ数年、観客としてフィルメックスに通われていることをご自身のブログやツイッターなどで公言されていて、この映画祭を毎年楽しみにしておられるという印象があります。

渡辺 毎年毎年、熱心に通っている方と比べると、くまなく観ていくタイプではないんですけどね。仕事と被って、行けないことも多いですけども、観たい作家の作品が多くある、という意味では、私にとってとても大事な映画祭ですね。

——渡辺さんがフィルメックスに興味を持たれた直接のきっかけはなんですか?

渡辺 その前に、映画祭という場の面白さに出会った経験が、20代半ばの頃にあったんですよ。

その頃はまだ、映画祭の意味や具体を全く分かってはいなかったのですが、情報誌やいろいろなものを見て1つ1つの上映を探すより、映画祭に行けば、いち早く新しい作家に出会えるのではないか、と思ったことがあったんです。それで、自分の参加した作品が無いのに、ある国際映画祭に行ったことがありました。

いわゆるシネフィルや、コアな映画ファンのように、何かを追いかけることから始まったわけではないのですが、芸術を専攻したわけでも映画学校に行ったわけでもない、仲間のいない私にとって、俳優の現場ではなくて、映画ファンとして新しい仲間と出会えるかもしれない、という期待を持って行ったのですね。

そこではじめて、誰かが選んだ作品を観る楽しさ、というのを体験しました。

日本の作品は、数はそんなに多くはありませんでしたが、映画を作った人たちが、お客さんも含めていろんな人たちと出会い、話をしている。なるほど、映画を作ることにはこういう面白さもあるんだ、というのを知り、とても新鮮だった事を覚えています。

そこで、今フィルメックスでプログラミング・ディレクターを務められている市山尚三さんとも出会いました。ああ、市山さんは映画祭を作る人なんだ、いろいろなところに行って、作品や映画人をみつけてくる人なんだと思って「私、ボランティアスタッフでいいから働きたいんです!」といきなり言って、戸惑わせてしまった記憶がありますよ(笑)。

——フィルメックスは2000年から始まっていますが、それ以来、飛び飛びではあっても、観たい作家や作品を観るために、渡辺さんも足を運ばれていた、というわけですね。

渡辺
 そうですね。フィルメックスが選ぶ人たちを観にいく、というか。もちろん現実には、多くの方々が関わっている事を知るんですけど、ざっくり言えば、そうですね。

——これまでフィルメックスで上映された作家の中で、とりわけ注目されていた監督はいますか?

渡辺 ツァイ・ミンリャン『河』という作品が好きで、いつか会いたいと思っていました。実はそれが、先週台北で、ツァイ・ミンリャンに生まれてはじめて会ったんですよ!

私が出演している『チチを撮りに』(2012監督:中野量太)が「金馬国際映画祭」に招待され、そのご縁でお会いすることができました。こんどのフィルメックスでも上映される『ピクニック』で引退する、って言っていたからとても残念でなりません。

——私は昨年、釜山映画祭ではじめて渡辺さんとお会いしました。あの時は女優として招待されていたと思いますが、端でみていて、何より映画祭自体を楽しんでおられる方だな、という印象がありました。

渡辺 それはミーハーとして、ってこと(笑)?

——いやいや(苦笑)、とてもご熱心だ、という意味です。

渡辺 皆さんほどではないと思います。

映画好きとしては、あの映画を撮ったのはこの人なんだ、と確認するために行くところはありますね。そこでああやっぱり!と思ったり。あらかじめ抱いたイメージとの落差は、余り感じないです。好きな映画作家の作品はなめるように観ているし、インタビューも、なめるように読んでいますから。姿もインターネットで見ているので、あ、あの時のシャツを着ている!みたいな(笑)。

でもね、俳優として映画祭に招待された時の意識は、やはり大きく違います。

自分の参加した作品がある時は、まず自分たちの作品をよりたくさんの人に知ってもらいたい、という大きな目的がありますよね。より多くの人に作品を届けたい監督の意に添いたい、ということを考えています。参加した作品を見てもらって、感想を頂けたら嬉しいとは思いますが、映画自体は監督が作ったものですからね。
SONY DSC              特別招待作品『ピクニック』(監督:ツァイ・ミンリャン)

審査について

——今回のフィルメックスでは、審査員という立場で関わられています。はじめての経験ですか?

渡辺 2回目です。1回目は2009年のゆうばりファンタスティック映画祭です。その時は、大変な仕事だと思いました。審査はするよりされる方が楽、と言ったら変だけど、俳優である自分は、審査をされる立場の方が、リアリティがあるからだと思いますね。

どの作品もみるべきところはあるように思えますし、映画的な出来不出来はあるのかもしれませんが、私は自分が観た作品は、どれも何かしら面白いと思ってしまう方なので。選ぶ、という作業はすごく苦痛でした。審査をするというのは、俳優という普段の仕事とは、全く異なるエネルギーが必要でした。

——好きで観にいくというのとは違い、選ばなくてはならないのが審査員の仕事だったりしますもんね。

渡辺 勝負が全てで1番を選ばなくてはならない、となると、私にとっては負担なのですね。理由があるから選ぶのですが、それは勝ち負けではないから、と自分には言い聞かせるのですが、結果はそう受けとめられてしまうこともあるわけで、つい考えてしまいます。それで夕張が終わった時は、もう二度とやらない!と言っていたのですが、このたびは光栄なことにお話を頂いて、フィルメックスであれば、個性的な審査員の方々と並んでいろんなお話ができるでしょうし、映画を感じる、ということを自分の中でさらに学び楽しむ方法を見直せるいい機会かなと思いまして、引き受けさせていただきました。

【次ページに続く】