【Interview】女優・渡辺真起子が語る東京フィルメックス2013

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今回のラインナップと 若手監督との仕事

——今回のラインナップを聞いて、どんな印象をお持ちになりましたか?

渡辺 正直に言えば、観なきゃ分からない、というところですが、作品の多様性ということで言えば、思った以上にカラフルな印象があります。

——これまでは、ワン・ビン(中国、1967—『無言歌』『三姉妹』など)アピチャッポン・ウィーラセタクン(タイ、1970–『トロピカル・マラディー』『ブンミおじさんの森』など)アジアの生きのいい作家をたくさん発掘してきた印象が私にはあります。

渡辺 アピチャッポンの印象はすごく強いよね。フィルメックスの作家という…

——渡辺さんも、数年前のフィルメックスでアピチャッポンが来日した時に、「トークだけでもいいから聞かせて欲しい」といって会場に駆けつけた、というお話をお聞きしたことがあります。

渡辺 そう、その日しか空いていなかったんですよ。で、その時、作品は観られなかったけど、Q&Aだけでも聞いて、作品は劇場公開の時にあらためて拝見しようと思って、行きました。

アジアの映画で、好きな作家は多いですが、全ての国の映画を見ることはできないので、今回のフィルメックスではそこは素直に、ひとつずつ出会っていこうと思っています。マレーシアやシンガポールの作品も気になるし、もともと好きな作品が多い台湾・香港の映画や、タイやフィリピンの映画だってある。単純に本数が撮られていない国もたくさんあるので、どの国にどのような作品があるのかということは、常に意識して観るようにしています。

——社会を見据えた作品が多い印象を持ちましたが、そのことについてはいかがですか

渡辺 映画を撮るということは、その国の社会を見ることと等しいのではないでしょうか。どの作家も、そこからは逃れられないような気がします。ファンタジーを作るにしても、商業的な作品を作るにしても、何にしても、その人が生きている現在は、自ずと反映されてしまうのかなと思います。逆に観客からすれば、だからこそ様々な国の作品を観るのが面白いのではないでしょうか?

——今回はフィルメックスの育成人材事業である「タレントキャンパス」の卒業生が作った作品が3本(『ILO ILO』(シンガポール 監督:アンソニー・チェン)『カラオケ・ガール』(タイ、アメリカ 監督:ウィッサラー・ウィチットワータカーン)『トランジット』(フィリピン、監督:ハンナ・エスピア))も上映されるそうです。

渡辺 次世代を育てていく事は、とても大切なことだと思います。

fc05mainBコンペティション作品『ILO ILO』(監督:アンソニー・チェン)

——日本の状況に置きかえて考えると、近年、若手監督の作品に多く参加されている渡辺さんが出演していても、おかしくないようなラインナップですね。

渡辺 近年に関しては、若手の監督と特にやりたいと意識して取り組んだわけではなくて、震災があってからの1、2年、たまたまそういうことが続いたんです。

震災というのは、私にとっても大きな出来事で、その年にきたお仕事は全部断らないでやろう、と決めたんです。あのようなことがあって、それでもなお映画を撮りたい人がいて、私にできることがあるのなら全部やりたい、という思いがありました。昨年のフィルメックスで上映された『おだやかな日常』の内田伸輝監督だったり、『Playback』の三宅唱監督だったり、あるいは『ドキュメンタリー映画 100万回生きたねこ』の小谷忠典監督もそうですが、そのような流れの中で出会って、出演したのです。

その年には、東京ビジュアルアーツの卒業制作の学生たちとも仕事をしたのだけれども、スタッフには自分の意志ではなくて進路を変えざるを得ない人もいっぱいいたし、私自身も震災のあと、自分に何ができるんだろうと、考えこんでしまった時期があったんです。

映画映画映画……って、それまで俳優であることに執着して生きてきたのだけれども、もっと根源的なことを考えざるを得なくなって、震災のあと、映画館にも行けないし、音楽すら聴けなくなってしまった時期、というのがありました。あきらめかけたその時の自分にとって、唯一、映画と関わる方法だったのは、作りたい人がいてくれる、ということだったのですね。だから、若手と積極的に関わりたかった、ということよりも、ここで映画を作っていきたい監督たちの強い意志に励まされた、という理由がいちばん大きいです。

女優として、ひとりの映画ファンとして

——審査の話に戻りますが、女優というか、役者の視点で見てしまう、ということは無いのでしょうか?

渡辺 ない。まずいんじゃないかなと思うぐらいに無いです(笑)。役者さんに魅了されることは多々ありますが、私だったらこう演じるだろうとか、そういうことは全く考えません。だって既にそこに選ばれて演じている役者さんがいるんだから。私がそこにいることなんてことは、あてはめて観ないのですね。なぜこの人がそのように演じたのかとか、なぜ監督はこの俳優を選んだのか、ということは考えますけど。

——俳優は身体を使う職業なので、見方が身体に染みついていたり、無意識に自分を投影して観てしまったりするようなことがあるのかな、と思ったのですが。

渡辺 それはあるけれど、そのことと、自分だったらどうするか、という視点とは別ですね。俳優として観る前に、まずは観客として観ますよ。そうじゃないと、その作品を見失っちゃいそうだから。自分が気になる役ばかりをみてしまいそうで。

——役柄、というのはやはり気になるんですか?

渡辺 気にしようと思ったらいくらでも気にできるけど、そうすると、その作品を知るためには2回も3回も観ることになる。私の場合は、まず作品を自分なりに理解するのに、ものすごい時間がかかるんです。まずはそこを工夫して、そのあとで、分解して観ていくのかな。

自分が俳優ばかりを追いかけて観てしまう時は、恐らくそれだけの理由があるのだと思います。その俳優が映画を壊している場合もあるかもしれないし。逆に映画を引っ張っている場合もあるかもしれない。だからやっぱり引いて見てしまうというか、俳優中心には観てはいないです。ただこの俳優さんが頑張ったことが映画を支えている、という感想を持つことはあります。夕張のときは、そういうスペシャルメンションをひとつ出しました。

——今回のコンペティションには『祭の馬』(監督:松林要樹)があります。渡辺さんはドキュメンタリー映画を見る時に、何か特別に意識するようなことはありますか?

渡辺 無いですね。やはりフレームを持つわけで、それは誰かの視線や身体を通してエッジされている、と基本的には思っています。そういう意味では、あまりフィクションとドキュメンタリーを分けて観てはいないです。これはドキュメンタリーですよ、と提示されても、ではその「ドキュメンタリーである」ということを、その作家はどう捉えているのか。そういうことを考えますね。

——「ドキュメンタリー」という言葉が一人歩きしてしまっている部分もありますね。

渡辺 今「ドキュメンタリー」という言葉が、手法としてしか語られない気がすることがあります。何を語りたいかではなくて、「ドキュメンタリー的作り方」という、そこだけに特化しているのは残念だと思いますね。

——渡辺さんが出演された作品には、先ほどお話に出た『おだやかな日常』(2012 監督:内田伸輝)や『M/OTHER』(1999 監督:諏訪敦彦)のように、ドキュメンタリー性というか、即興的な演技が求められたりする機会が多かったような気がします。生身というか、即興性を映画の中で扱うことに対して、渡辺さんはどのようにお考えですか?

渡辺 その生々しさがなぜ必要だったのか。「ドキュメンタリー性」に特化するのではなくて、1時間半なり2時間という尺の中で、語りたいことがあるが故の即興、でないと意味が無いよね。ただ強い表現がしたくて乱暴なことを起こしていたりするのであれば、それだけではつまらない。強さを表現するのに、驚きやインパクトだけに頼るみたいなことは、少し違うと思います。

——即興性には、リアクションのみに賭ける、ということも含まれますからね。

渡辺 含まれるし、その意味を勘違いをする人も中にはいるでしょう。今までみたことのないものを作ろうとする時に、とりあえず石を放ってみよう。それが誰の頭に当たっても、誰に迷惑を被ろうと構わないんだ、という考え方は、私は好きではありません。

MU_post_TT_N_olコンペティション作品『祭の馬』(監督:松林要樹)

——今年はコンペティションのほか、リティ・パニュ(1964—カンボジア)の『MISSING PICTURE』や、ジャ・ジャンクー(1970–中国)の『罪の手ざわり』、モフセン・マフマルバフ(1957−イラン)の『微笑み絶やさず』といった、これまでフィルメックスで紹介されてきた監督たちの特別招待作品もありますね。

渡辺 今年は全部の上映作品が観られるんですよ!スケジュールはどうしますか?と言われるのだけど、観れるものは全部みたいんだよね(笑)。すごく考えられたプログラムだと思うし、嬉しいですよね。私は観たものに関して話がしたいわけですよ。誰かと共有したいです。

——そうなると、渡辺さんにとって、とても濃密な一週間になりそうですね。

渡辺 それ、なんのプレッシャーなのよ(笑)!

もちろん、とても楽しみにしていますよ。どういうふうに観ようかなって、もうずうっと考えています。大変だとは思いますが、作品との出会いに一週間専念できるというのは、本当に貴重な機会です。体調を万全に整えて、心して楽しみたいなと思っています。
作品写真提供:東京フィルメックス事務局


【プロフィール】

渡辺 真起子(わたなべ まきこ)
1968年東京生まれ。1986年よりモデルを始め、TVCM、雑誌、ファッションショーなど幅広く活動する。1988年、『バカヤロー!私、怒ってます』(監督:中島哲也)で映画初出演。以来、映画を主軸に、舞台、TVドラマなどに出演、俳優として幅広く活躍する。近年は日本のインディーズ作品への出演も多く2012−13年は『ヒミズ』(監督:園子温)『ドキュメンタリー映画 100万回生きたねこ』(監督:小谷忠典)『タリウム少女の毒殺日記』(監督:土屋豊)『ほとりの朔子』(監督:深田晃司)などに出演。『チチを撮りに』(監督:中野量太)では、第55回アジア太平洋映画祭 最優秀助演女優賞を受賞した。

【開催概要】  

第14回東京フィルメックス / TOKYO FILMeX 2013

期間:
2013年11月23日(土) ~ 12月1日(日)

会場 有楽町朝日ホール(有楽町マリオン)(メイン会場:11/23(土)~12/1(日))
    TOHOシネマズ 日劇(レイトショー会場:11/23(土)~11/30(土))
         (セミナー会場)marunouchi cafe SEEK有楽町朝日スクエア
         (共催企画Talent Campus Tokyo 2013)有楽町朝日スクエア
   (11/25(月)~11/30(土))
        (連動企画 中村登監督生誕100年記念特集上映)
   ヒューマントラストシネマ有楽町

全 26 作品

当日券:一般1800円
学生・サポーター会員:1300円(要・学生証、会員証の提示)
公式サイト:http://www.filmex.net/

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