【リレー連載】列島通信★沖縄発/地域共同体と音楽のすてきな映画たち、そして現実 text 真喜屋 力

『歌えマチグヮー』のイベント @桜坂劇場

戦前、県立女学校(ひめゆり学徒隊の学校)の跡地に、戦後に作られた栄町市場は、 小さな店舗がひしめき合い、迷路のような街を形成している。御多分にもれず、10年くらい前には寂れてしまい再開発の話もあった時代とずれた商店街。それが現在は空き店舗が一軒もないという状況にまで奇跡的な復活を成し遂げた。ドキュメンタリー映画『歌えマチグヮー』は、その復活の起爆剤となった、街ぐるみのCD制作の舞台裏、市場の人間模様を魅力的に描き出す。

中心になるのは市場で働く婆ちゃん三人の《栄町市場おばぁラッパーズ》。市場には ミュージシャンが経営する飲み屋もあり、彼らの指導のもと、普通の商店のお姐さんたちの奮闘が映画を牽引していく。

音楽はアマチュア過ぎず、プロ過ぎない、微妙な案配で成立しているのが、栄町サウンドの良いところ。単なる素人の話題作りを超えた仕上がり。実際CDは売れたし。映画には映っていないが、CD発売のイベントは僕がいたころの桜坂劇場でおこなわれ、 300人のホールが満員御礼で盛り上がった。

じゃあCD制作が街興しに万能かと言えばそうではない。映画を観れば、もともとこの街にあった人間の結びつきの強さが根っこにあり、CD制作は一つのきっかけだったことが強く印象づけられる。音楽的側面を支えた、栄町の飲み屋《生活の柄》の店主“もりと”は、ミュージシャンでもあるが、彼がこの市場に店を構える理由は、やはりこの市場と、そこで生きる人間が好きになれたからだ。そうやって繋がっていった関係が、映画のラストの完成披露ライブでのグルーブ感に繋がり、感動的なラストを向かえる。地域共同体の、付け焼き刃ではない理想的な姿を見るようで清々しい。ちなみに、この商店街の現在の自治会長は、本土からきた若手の店主だそうで、そういう 閉塞感とは無縁の信頼関係は、沖縄県内でもそうないのではないだろうか。

『歌えマチグヮー』のイベント @桜坂劇場

また、同じく地域共同体と歌の関係を描いた『スケッチ・オブ・ミャーク』は、宮古島の古老達が歌う祈りの歌を追ったドキュメンタリー。すでにあちこちの映画祭でも上映されていて、ようやくの劇場公開だが、やはり大ヒット中。

沖縄にはこんなすばらしいところが残っているという感想を抱く人も多いかも知れないが、むしろ沖縄でもこういう場所がなくなってきているというのが、制作者側の意図ではないだろうか。沖縄の人にとってこういう作品は、誇りであると同時に、郷愁に近い感慨を起させる。

オスプレイ配備や、米軍人による暴行事件などが起こっているいる。けして呑気に歌 など唄っている場合ではないのかも知れない。ドキュメンタリー映画『ラブ沖縄@辺 野古@高江』(藤本幸久監督/2012)のような作品は、やはり問題意識の強い人々の見る作品で、誰でも見にきてくれる作品ではないのが現実である。僕らは沖縄県民は、「米軍基地を沖縄に押 し付けている」と日本政府に叫びながらも、さらに孫請けのように北部に基地を押し付け、かってにあきらめのような感覚で安心しているのではないか…と、後ろめたさを背負うこともある。

どちらの映画がより高尚で、社会的に意味があるのかと比べるのは馬鹿馬鹿しい。僕らの暮らしている島は単純ではないのだ。その複雑さを、ありのままさらけ出すかのように、桜坂劇場は次々とラインナップに載せている。今の僕にできるのは、そういったことの全てを、世に広める手伝いをすることだと思っている。それゆえにこの 複雑な現実に戸惑うことも増えた。劇場と言う確かなスタンスを持っていたときよりも、複雑なものを抱えてしまったのは確かだ。

満員の桜坂劇場

【作品情報】

『歌えマチグヮー』
2012年/日本/HDV/89分/ドキュメンタリー
監督・撮影・編集:新田義貴
出演:あばぁラッパーズ、もりと、栄町市場の皆さま・お客様
宣伝:スリーピン
製作・配給:ユーラシアビジョン 

公式サイト: http://utae-machigwa.com/

『スケッチ・オブ・ミャーク』
2011年/日本/104分/カラー
監督 :大西功一
出演 :久保田麻琴+長崎トヨ/高良マツ/村山キヨ/盛島宏/友利サダ/本村キミ/ハーニーズ佐良浜

公式サイト: http://sketchesofmyahk.com/
 

【執筆者プロフィール】

真喜屋力(まきや・つとむ)

沖縄県生まれ。1992年に『パイナップルツアーズ』で映画監督としてデビュー。その 後、東京のBOX東中野の創立に携わったのち、フリーの監督となる。2005年、沖縄で桜坂劇場のプログラムディレクターに就任。2012年に劇場を辞め、現在フリー、沖縄在住。