本日からneoneo編集室のメンバーは、山形国際ドキュメンタリー映画祭2013の会場の様子を日々、レポートでお伝えしていきます。山形映画祭という場の空気はもちろん、最新の情報を極力反映させてお届けする「ヤマガタもぎたてレポート」。引き続きお楽しみ下さい。
(neoneo編集室 佐藤寛朗)
開会式とオープニングレセプション 岩崎孝正
私は「neoneo web」に寄稿していながら、実は今回、山形国際ドキュメンタリー映画祭初参戦である。寄稿者でありながら、まるで違法労働者のような後ろめたさを感じていた。今回は、それをしっかり清算しようと思う。開催期間である一週間ヤマガタに滞在して、「山形国際ドキュメンタリー映画祭2013」の魅力をたっぷりとお伝えしたい。
会場へ入るなり、私は映画祭独自の熱気にたじろいだ。周囲は、映画監督の面々、批評家、映画祭関係者、プレスが勢揃いしている。今まで小さな映画祭やシンポジウムに参加してきたものの、上映総数が200本以上の大々的な催しに参加することはなかった。私の胸は高鳴り、宙を歩いているようであった。
さて、椅子へ腰かけると、いよいよ会場が暗転した。開会式の後は、「山形市広報ニュースNO.4」と、「重要文化財根本中堂――解体修理工事の記録」の上映である。貴重なフィルムが今年市役所の地下倉庫から発見されたという。十数年前まで、本編の前に上映されてきたいわゆる「ニュース映画」の上映である。
しかし、幕<スクリーン>があがり(!)中にいたのは、山形交響楽団というオーケストラの奏者たちであった。映画祭にもかかわらず、オーケストラとは驚きだった。そうこうするうちに演奏がはじまり、私は、圧倒された。
今年が13回目の山形国際ドキュメンタリー映画祭は、四半世紀の歴史を持つ。祭にはサプライズが必要だ。私は、演奏に感動した。
実は、私が知らなかっただけで 前日の山形新聞にはその予定が掲載されている(http://www.yamagata-np.jp/news/201310/09/kj_2013100900192.php)。山形市民が一丸となって映画祭を催している感がある。市川昭男・山形市長は開会式で、「今後も引き続きの支援を継続する事を確約いたします」と言い切り、喝采を浴びていた。
ゲストの紹介をはさみ、仙山線のある山形の風景をとらえた「山形市広報ニュースNO.4」と、土地の者たちの信心深さを物語る「重要文化財根本中堂――解体修理工事の記録」が上映され、開会式は幕を閉じた。
その後、20時15分からオープニングレセプション。 私は映画監督、映像作家、キャメラマン、批評家、配給関係者にかこまれた。さまざまな数多くの出会いは、どのようにドキュメンタリー映画の見方を変えてくれるのか。明日からの上映に期待をしている。
岩崎孝正(いわさき・たかまさ)
<spanstyle=”font-size: 14px;”>1985年福島県生まれ。フリーライター。現在相馬市在住。せんだいメディアテークの「わすれン!」に参加しています。
気分は映画祭モード 佐藤寛朗
開会式より少し遅れて山形に着いた。
新幹線の中で観たUstream中継は、福島の先、在来線区間に入るまで順調に受信する事ができた。交響楽団の演奏に耳を傾けていると、流れてきた曲は何と「おしん」のテーマソング。いくら映画化(10月12日より東映系で全国公開)されるとはいえ、今更「おしん」はないだろう、と一瞬思ったが、世界68ヶ国で放送されたことの“国際的価値”は山形にとって大きいのだろう。それよりも、小学校低学年だった自分がこの曲を聞いた記憶が瞬時に甦ったことにびっくりした。国民的インプットの賜物なのか、自分が歳を取っただけなのか。
オープニングレセプションでは、監督やゲスト、映画祭のスタッフなど、さまざまな人々と挨拶をする。ふだん東京でも会う人もいれば、2年に一度、山形でしか会わない人もいる。千々に入り乱れ、やあやあと顔を合わせるこの儀式を経ると、気分はがぜん映画祭モードへと突入する。台湾の映画研究者・張昌彦さんなど、10年前、メルマガ時代の「neoneo」に記事を書いた(*1)時に出会った人たちと、元気な姿で再会できるのが嬉しい。
事務局に頂いたプレスキットを眺めると、ゲストや監督の滞在期間が一覧になっている。監督たちにとっても山形は貴重な機会なのだろう、自作の上映日以外にも長く滞在し、映画を観る監督が多いようだ。原一男にヤン・ヨンヒ、想田和弘、松江哲明…名前を挙げればきりがないが、さほど規模の大きくない山形の街で、みな会場間を歩いて行きつ戻りつをするから、自ずと観客と監督が出会う機会は多くなる。読者のみなさんも、ぜひ声をかけてみてはいかがだろうか。
パーティーが終わり、メイン会場の隣りのビルに顔を出す。ミスター・ドーナツのあるこの建物はスタッフの前線基地になっていて、期間中、日々配られる機関誌「デイリー・ニュース」の編集室もそこにある。編集長の桝谷秀一さんは、今回も若いスタッフを動かしながら飄々と仕事に没頭していた。細かい変化はあるものの、基本的にデイリー・ニュースは第一回目からこのスタイル。地元スタッフを中心としたボランティア部隊だ。
同じビルの下の飲み屋に立ち寄ってみると、「ヤマガタ・ラフカット」の参加者たちが集まって事前討議をしている。同じ場、になぜか『ナオキ』の佐藤直樹さんがいた。2009年の映画祭で、地元・山形で日本の格差社会の悲哀を描き話題となった作品の主人公だ。挨拶は交わした記憶はあるが、(というよりナオキさんは、映画で山形の、ちょっとした有名人になってしまった)お話しするのは始めてだ。
今も時給700円台の郵便局で働き続けるナオキさんは、『ナオキ』の監督、ショーン・マカリスターが今回、新作『気乗りのしない革命家』(それぞれの「アラブの春」プログラム)を携えて山形に来るので、再会できるのがとても嬉しいと言っていた。革命の話が出たところで、その後はなぜか火炎瓶の作り方の話で盛り上がる。ナオキさんも、映画祭期間中は市民会館で会場係のボランティアとして活躍するそうだ。
外の空気と地元の空気が渾然一体となって、この山形という地にドキュメンタリー映画祭がしっかりと根付いている。今年もまた、その祝祭が始まった。
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