沖縄県には3つのミニシアターがある。有名なのは《桜坂劇場》だが、日本最南端の映画館《シネマパニック宮古島》と、由緒ある首里の城下町で、60年間営業を続ける沖縄最古の映画館の《首里劇場》だ。今回はちょっと小ネタ的だが、沖縄の映画館の状況をレポートしてみようと思う。
実は今《日本最南端の映画館》ことシネマパニック宮古島が、危機に直面している。理由はデジタル化にともなう設備投資の問題。もちろんそんなことは今や日常茶飯事で、驚くことでもない状況が日本中に吹き荒れている。でもだからこそ埋もれてしまわないように書いておく。
2005年に既存の映画館の跡地を利用してスタートしたのがシネマパニック宮古島。石垣島にあった万世館が消えてしまったあとは最南端の映画館となった。離島であればあるほど映画館の意味は大きい。映画館には外の文化が運ばれて来る。本来なら非常に刺激的な場所のはず。沖縄本島より30年以上遅れて民放地上波放送が始まったう宮古島では、映画は長く娯楽メインストリームにいたと思うのだが、テレビがない分、レンタルビデオの普及も早く、そう言う意味では映画館から観客が遠のいていくスピードも速かったのかも知れない。
そんな宮古島でがんばるシネマパニック宮古島は、2013年の暮れより、インターネットも使って募金活動をおこなっている。3月末日までに1000万円の資金調達を目標としているが、なかなか厳しい話である。1000万集まらねば廃業!と割り切れれば簡単な話だが、意外とそうも行かないような気がするのだ。集まった金額を元手に借金をするのかも知れない。続けてくれるなら一安心だが、そのために館主個人が背負わねばならない負担を考えると心が痛くなる。だいたいデジタル化っていうのは、本来ならば制作、配給、上映のすべてのランニングコストを落とすという意味ではすばらしい変化のはずなのだ。作品と観客とお金がまっとうに回っていくシステムが活性化する方法を探していくのも僕ら映画関係で生きている人間の仕事なのかと考えさせられている。
そんな宮古島とは対極にあるのが首里劇場だ。成人映画の専門館だが、オーナー館主が独自に作品を選ぶと言う意味では立派な単館系ミニシアター。沖縄最古の映画館だけあって、見た目も特徴的。入口と映写室の辺りこそコンクリート建築だが、ホール部分は木造。成人映画の喘ぎ声が近所の住宅街に漏れ聞こえている。しっかりとした舞台があって、スクリーン裏には、今は倉庫となった楽屋まである。かつては旅芸人が自炊したカマドなどの設備が歴史を感じさせる。古い新聞の切り抜きを見ると、地元新聞社主催の古典芸能の新人大会などが催されたことも記されているから、建築当時はまさに娯楽の殿堂として活躍していたに違いない。沖縄県の文化財に指定されてもおかしくないと、個人的には思うけれど、さすがに成人映画専門ではそれもない。立地も細い路地を入っていった住宅街のど真ん中ということもあり、沖縄の人でも実物を見たことがない人はけっこう多い。そう言う意味ではカルトな人気に支えられた映画館だ。松江哲明監督の『あんにょん由美香』のラストに登場するのもこの映画館だし、ピンク映画の荒木太郎監督は『浮雲-空に咲く愛の地図-』『人妻がうずく夜に 身悶え淫水』でロケ地として、外観内観ともに、そのフォトジェニックな姿をスクリーンにも焼き付けています。
僕自身も10年ちょっと前に『UNDERCOVER JAPAN』(平野勝之、カンパニー松尾、真喜屋力監督)というオムニバス・ドキュメンタリー作品の中で、この劇場を取材したことがある。あの頃は館主の金城さんと、耳の遠い映写技師の爺さんが二人だけで切り盛りしていた。まさに地方の滅びゆく映画館の筆頭にいるような映画館だった。にも関わらず、10年経過した今、首里劇場は営業を続けている。不思議なことになんとなく元気で、アグレッシブに若返った感じすらする。
成人映画に固定客がいるとはいえ、それほど多いはずもない。にもかかわらず、成人映画館としては珍しく公式サイト(http://www.shurigekijou.com/)を運営している。10年ほど前まで、沖縄の新聞は成人映画の広告にタイトルを掲載することを不可とした。それに対抗するための公式サイトだ。常連のお客は近所の爺さんだったりするので、タイトルを気にしているとは思えないし、インターネットとかチェックしないと思うのだが、館主の金城さんが言うには、やはりこれは重要なことなのだそうだ。すくなくとも先週と違う作品がやっていると言うのは判るから。僕はそんなことを言う館主の金城さんが好きなのだ。もう還暦すぎたかな?って歳なのだがやる気は満ちあふれている。ピンク映画専門館であっても、首里と言う街、そして三代目館主としての誇りみたいなものを持って経営をしている姿が、なんとなくカッコいい。シャイでぶっきらぼうだが、意外と気配りの人と言う性格も捨てがたい。
そんな金城さんと、首里劇場のたたずまいに惚れた人は大勢いる。地元の映画サークル突貫小僧(現NPO法人シネマラボ突貫小僧)のメンバーが、仮設トイレまで持ち込んで(女子トイレが使用できないので)一般映画の上映をおこなったり、ライブイベントをしたことをきっかけにして、少しずつかわり始めてきた感じもある。この時は女優の洞口依子さんも駆けつけてくれた。
さらに先日、地元の街興しNPOが首里劇場でイベントを行った。地元の古い写真を、地元の人や通りすがりの観光客とスライドショーで観つつ、街の古老を集めてトークショーを行ったのだ。地元のイベントに使用されることは、ある意味劇場にとって誇らしいことだと思う。またこの日、首里劇場を訪れた首里の人々に取って、築60余年の首里劇場と言う建築物は誇らしく感じられたのではないだろうか。
そして実は今年の2月9日には県外の音楽集団『渋さ知らズ』が首里劇場でライブを行う。大人数のバンドだけに首里劇場が壊れそうだ。と思ったら、ライブのために補強工事を行っているらしい。どうやら首里劇場の耐用年数が少し伸びたようだ。
沖縄のもう一つのミニシアター、以前僕が勤めていた桜坂劇場については、わりと有名なので詳細は端折っておく。とりあえず一昨年にデジタル化を済ませて、日々新しい試みにチャレンジしていることには変わりない。大所帯なためにランニングコストもかかるので、いつも苦しいことには変わりがないが、とにかくがんばって本日も営業中です。
と、3つの映画館を紹介したわけですが、実はもう一つおもしろい動きが昨年の暮れにありました。桜坂劇場の近くにあるライブハウスG-shelterで映画の上映が行われたのです。キャパは30席くらいの小さなライブハウスですが、そこでSPOTTED PRODUCTIONの『MOOSIC LAB2013』(http://www.moosic-lab.com/)の上映会が2日間にわたって行われた。僕は2日間とも足を運んだんですが、両日とも満員。もう立派なミニシアター予備軍でした。首里劇場がもともと芝居小屋兼映画館であったように、桜坂劇場が映画館にライブを持ち込んだように(建物自体は珊瑚座という芝居小屋がスタートでした)、G-shelterはライブハウスからミニシアター化してしまうかも知れません。大勢の観客は見込めないけど、確実にファンのいるインディーズやカルトなドキュメンタリーなどには意外とハマるのではないかと期待せずにはいられません。
と、駆け足で紹介してきました、沖縄の映画事情。パラパラとした内容になってしまいました。来年はまた変わっているかも知れません。僕も見守りつつ、良い方向に向かうようなアクションを続けていければ良いなと、頭を悩ませる日々を送っています。
首里劇場
【劇場公式HPなど】
桜坂劇場:http://www.sakura-zaka.com
シネマパニック宮古島・シネマプロジェクター導入プロジェクト:
http://zumi-miyako.com/cp/index.html
首里劇場:http://www.shurigekijou.com
ライブハウスG-shelter:https://sites.google.com/site/googshelter/
【執筆者プロフィール】
真喜屋力(まきや・つとむ)
沖縄県生まれ。1992年に『パイナップルツアーズ』で映画監督としてデビュー。その 後、東京のBOX東中野の創立に携わったのち、フリーの監督となる。2005年、沖縄で桜坂劇場のプログラムディレクターに就任。現在フリー。沖縄在住。