———それでは、今回の映画祭についてお聞きします。今年のテーマは「埋もれた真実を掘り起こせ」ということですが、作品選定は、中山さんがおこなっておられるのですか?
中山 候補は私のほうで出して、メンバーに見てもらったりしながら、プラスアルファでこんなのはどう、という意見が出たりして、最終的には話し合いで決めています。
———例年“社会派”といわれるドキュメンタリー映画の多いプログラムになっていますよね。そこは強い思いで、選ばれているのですか。
中山 もう少し、見やすい作品を選んだ方がいいんじゃない?とは、メンバーからも言われます。今回は音楽ドキュメンタリーなんかも入れて、柔らかい作品も選んでいるんですけどね。客層を広げるという意味では、普段配給する作品とは違ったテイストのものをやっても良い、とは思うのですが、自分が選ぶと、なかなかそういうものにはならなかったりしますね。
———でも結果として『アイウェイウェイは謝らない』と『フラッシュバックメモリーズ』と『もったいない!』と『ショージとタカオ』が並ぶというのは、neoneo的にみたらすごい、バラエティに富んだ上映会だと思いますよ。
中山 いろいろなお客さんに楽しんでもらえるように、というのは、今回はけっこう意識しましたね。
———今回の特徴とか、おすすめの作品とかは、ありますか?
中山 若干、こじつけ的ではありますが、新作の中で分類できそうなものとして、ミニテーマを3つ作りました。例えばゴミの問題(「我々は何を捨ててきたのかー世界をゴミから考える」)は、スタッフの間でも関心が高かったし、身近な問題だと思います。2本とも海外の話ではありますが、海外のことを身近な話題としてとらえられたらいいな、と思いますね。
音楽ドキュメンタリー(「スクリーンを震わす原始のリズム―音楽映画の競演」)も、いろいろ作品があるなかで、今回選んだのは2本とも生きる上での音楽の意味というか、音楽と人生や社会の接点がある、という作品です。『フラッシュバックメモリーズ』は本当は3Dでやりたかったんですけど、会場の関係ですみませんが、2Dでの上映になります。
———新作、ということでいえば、金聖雄監督の『SAYAMA 見えない手錠をはずすまで』は劇場公開されていましたっけ?
中山 いえ、未公開です。でも自主上映は広がっていますよね。いろんな映画祭で上映されていますし、話題の作品です。
———3つ目のテーマを冤罪事件(「それでも彼らはやっていない―冤罪映画の今」)でくくるというところに、中山さんの本領が発揮されている気がします。やはり、社会的テーマの強い作品にはこだわりがあるのですか。
中山 意識としては、そうですね。本当は東海テレビの『約束』(2012 監督:齋藤潤一)も入れたかったのですが…。社会的な作品に関心があるのは確かです。一方で、ドキュメンタリーは小難しいというイメージがあって、あまりそういうふうには思われたくないのですけどね。いざ観てみたら、作品としてもそれなりに観られるし、かつ社会的な要素も含んでいる、そういう映画を見せたいと思っています。
———日曜日にはシンポジウム(テーマ:「埋もれたテーマを掘り起こせ」)も、開催されますね。
中山 まあ、それは私自身がドキュメンタリーの関係者にいろいろと聞いてみたい、という動機があるんですけどね。前回は「優れたドキュメンタリーを観る会」(毎年4月に下高井戸シネマで開催)の飯田光代さんや「メイシネマ祭」(毎年5月に小岩で開催)の藤崎和喜さんなど、関東近郊でずっと映画祭を続けられている方をお呼びして、お知恵を頂戴したい、というのがありました。今回も、監督やプロデューサー側からみたら、どういうふうに映画を作ってきているのかを知りたくて。これはドキュメンタリーに関わる人なら関心のある問題だと思うので、テーマにそって、話をしていきたいと思っています。
———この映画祭では、先日、朝日新聞でいわゆる「やらせ」問題が報じられ、製作サイドから上映を中止する意向が伝えられた『ガレキとラジオ』を上映することを、比較的早い段階で表明しました。そのように判断された経緯を教えてください。
中山 まず、騒動が起きる前に上映を決めた経緯として、作品選考の後半の段階で製作サイドから持ち込みがあったんです。本作のエグゼクティブプロデューサーが浦安在住、ということもあって、彼が地元でできるところを探すなかで、我々の存在を知り、紹介を受けました。
震災関連の作品はひとつはやろうと思っていたし、ラジオということでいえば、浦安でもインターネットラジオを市民活動的に行っている団体があって、浦安とのつながりもある作品、ということで、特別枠として上映を決めました。
チラシを作り、配り始めたあとに例の問題が出てきて、スタッフの間でも、すぐにどうしようかという話になりました。先方は上映中止にする、というスタンスを次の日には出していたので、スタッフを集め、対応を話し合いました。大半は上映した方がいいという意見で、私自身もやった方が良いと思い、無料での上映を決定しました。その経緯はホームページにも掲載しています。
作品には、「やらせ」といわれる演出があったと言わざるを得ませんが、南三陸市で、ラジオを有志が立ち上げて活動をしている、というのは紛れもない事実だし、そもそも「やらせ」というのは何なのか、というのを考える機会にしたかったのです。もちろん映画に出演した女性が、後になって観る人に申し訳ないという気持ちが出てきたということには、配慮をする必要はあるでしょう。しかし記事を読む限りでは、撮影の段階では了解を取ったようですし、それ以上細かい事実関係を知らない我々は邪推をするしかないのですが、このことは「ドキュメンタリーとは何か」を考えうる、と良い機会になると思います。シンポジウムもあるので、テーマを広げて話し合うこともできるし、あとは、一律中止にするという風潮に対してどうか、という思いもありました。
ブログで怒りを表明した役所広司さんも、もちろん「やらせ」の事実を知らずに仕事を受けた、という側面はあるにせよ、責任を負っている当事者のひとり、という考え方もできますよね。上映をする以上は、我々も当然責任を持つべきだと思ったので、無料上映、ということにしました。その後、先方からも「上映料は取らない」という連絡は頂きましたが、会場費などもかかる中で、収入が入らないリスクを負う。そのような姿勢は持つべきだと思いました。
その後、記者会見やホームページで我々の考えを表明したこともあって、問題の記事を書いた記者から私も取材を受けたのですが、(3月21日、朝日新聞に掲載)、それで少し問い合わせがくるかなと思ったら、全然こないですね。あれだけ騒がれた割には、あまり関心がないのかなと思うと、それはそれで、少し悲しくもありますよね。
もちろん、問題が発覚したからということで、話題の為にやるわけではありません。我々も考えを持って上映をしますが、「ドキュメンタリーの演出」や「被災地で映画を撮ること」について、少しでも考えていただけたら良いな、と思っています。
———いま「リスク」という言葉がでましたが、そういう意味で映画祭というのは、赤字になるリスクも大きい仕事だと思うのですが、それでも「うらやすドキュメンタリー映画祭」は3年間続いています。中山さんにとっては、何が一番、続けるモチベーションになるのですか?
中山 映画祭だけでなく、配給の仕事もそうですが、そういう仕事が有意義だと思えるし、楽しいです。お客さんがこなかった時は敗北感というか、映画に申し訳ない感じが強くあるし、逆にお客さんが入れば、思いが伝わったという喜びもある。ひとつひとつ実感するのが自分の性に合っているというか、今、とてもやりがいを持って仕事ができているんですね。もちろん家族がいて、ある程度生計が立てられないと続けられない、というのもあるし、いろんな意味でハードルはあるんですけど。
———続けていく、ということに関していえば、奥様の理解も大きいのかな、と思ったりしました。
中山 いやあ、相方はシビアですよ。前の仕事をやめる時も、相方の両親は想定していなかったので、きちんと説明をしろと言われましたし。今、小さな子供がいるので、子育てや家事のことでよく喧嘩をしたりします。フリーランスでこうした映画の仕事をやっていると、土日もなくなっちゃうじゃないですか。自営業なので、時間があれば仕事や映画祭・上映会のことに割いてしまうので、家庭と仕事の両立に思いのほか苦労しています。
———それでも仕事が楽しいと言えるのは、ドキュメンタリーに関わっているから、なのですか?
中山 そうですね。それが一番あると思います。ドキュメンタリー映画に関する仕事をはじめた時、いままで自分が育ってきて、一番関心のある部分とつながった感じがしたんです。作品を作ってみたい思いも無くはないですが、今は人に見せる、という仕事を通じてドキュメンタリーに関わることが、とても充実している、と言えるのです。
———そうですか…なんだか最後に、勇気をもらえる話をいただいた気がします。
中山 相方には、子供の生活費や養育費が払えなくなったら転職を考えろ、と言われているんですけどね(苦笑)。相方が望む経済状況にするには、相当、頑張らなくちゃいけない。でも、そういうのをいい意味で刺激にして頑張るしかないですね。相方には迷惑をかけない。それで、どこまで続けられるか、というところですね。
【映画祭情報】
第 3 回うらやすドキュメンタリー映画祭
【期間】 2014 年 3 月 28 日(金)~30 日(日)
【会場】 浦安市民プラザ Wave101 中ホール(80 席)、小ホール(60 席)
京葉線「新浦安駅」下車徒歩2分
プログラム詳細 はこちらから
【News】埋もれた真実を掘り起こせ!3/28-30 第3回うらやすドキュメンタリー映画祭
公式サイト(浦安ドキュメンタリーオフィス)http://urayasu-doc.com/festival2014/
【プロフィール】
中山和郎(なかやま・かずお)
1970年生まれ。2006年より「浦安ドキュメンタリーオフィス」代表として、本映画祭のほか、様々なドキュメンタリーの配給・宣伝を手がける。主な配給作品に『BASURA』(2009 監督:四ノ宮浩)『田中さんはラジオ体操をしない』(2011 監督:マリー・デロフスキー)『飯舘村 放射能と帰村』(2013 監督:土井敏邦)『60万回のトライ』(2014 監督:パク・サユ、パク・トンサ)など。