『ファルージャ』より © 2013 有限会社ホームルーム 一般社団法人全日本テレビ番組製作社連盟
ちゃんと人の目を見て、発見していきたい
——全体の構成、ハコは伊藤さんが組んだのですか?
伊藤 そうですね。プロデューサーや編集の伊藤誠さんと、イラク戦争があっての人質事件だということを改めて確認した上で、まず自分で考えて、それをもとに相談しながら編集しました。
完成した時には、基本的には最初の構成要素とそれほど変わっていないつもりでした。でも今思うと、高遠さんや今井さんの人柄をより見せること、「私」の語りを増やすこと、あと私が表現を恐れていたところがあったのですがそれをシャープにするための工夫、など色々な人からアドバイスを貰いました。
——表現を恐れていたところ。具体的にはどんな点でしょう。
伊藤 例えば、「自己責任」について触れることがその1つです。
結果として一番、高遠さんや今井さんが自分の生きる責任ということに向き合っていることは撮影しながらひしひしと感じましたが、私の中に政治家やマスコミが使ったフレーズに簡単に乗っかりたくないという思いや、「自己責任論」を思わぬ形で再燃させてしまうのではないかという恐れがありました。
いろんな人と話してアドバイスを貰ったおかげで、今のこの形としての映画を作ることができたと思います。
——冒頭に伊藤さんが「私」として登場し、狂言回しの役目を果たしますが、そうなると構成のセオリーとしては結尾にも再び「私」が登場するかナレーションがあるか、は必要だったのではと感じました。同時に、そんなにしっかり揃えたら小さくまとまってしまったかなとも思う。どっちがよかったか、すぐに判断つきかねるところです。
伊藤 あの映画を最後まで作ることが、私の現在形の答えだと思っていました。うまく言葉で「これこれこういうことが問題だった」とか「自分はこれからこういう方向へ向けて生きていく」とまとめられる段階にはないし、そういうことを言うのがこの映画を作る目的ではないとも思ったし。
私もいろいろ迷っているけど、探っていきたい、考えていきたいと思える段階にようやく立てた感じなんです。言葉にできない、けれどこうして映像に表現した、というのが私なりの結論です。
——自分にはヴィジュアリストとしての資質が足りないと言いつつ、よくよく考えた構成は、やはり伊藤さんの持ち味といえますね。
伊藤 「頭で考え過ぎ」とよく言われるんですけど……。
——伊藤さんは今回、ADから劇場公開映画デビューという異色のステップを踏みました。この業界にいれば、いずれ遠くないうちに番組の演出をどんどん任されることになるでしょう。一方で、思い切ってノンフィクション作家やルポライターになる、という選択肢もあると思いますよ?
伊藤 うーん……。正直、自分の中には書くほうへの憧れがあるにはあります。ありますけど、本当に自分には頭の中でゴチャゴチャ考え過ぎるきらいがあるので、そこを改善するためにも、ちゃんと人と会って、その人の目を見て、表情や仕草をひとつひとつ発見できるようになりたい。だからやはり、今は映像の世界でやっていきたいなと思っているんです。
——少し意地の悪い質問でしたが、なぜ映像の仕事を選んだのかよく分かるお話です。ありがとうございました。
最後にもう少しお付き合いください。自己責任という言葉について。もともとは人に恃まず自分を律するための、良い意味で使われていた言葉のはずなんです。それがあの騒動から、責任転嫁が混じる冷たい響きの言葉に変ってしまった。なぜそうなったのだろう? 伊藤さんはどう思いますか。
伊藤 今、ここに自分が存在してこういう環境にいることは凄い偶然の結果なんだ、と思っているんですね。多くの人は、それを実感することなく生きているかもしれませんけど。
あの時の自己責任という言葉を使った批判は、国に迷惑をかけたかどうかの範囲だけで責任が問われましたね。でも、もう少し大きく捉えれば、遠い国の戦争で人が殺されようとしていることに対して自分はどう思うのか、その責任を考えざるを得なくなるだろうし、自分がイラクに生まれていたかもしれない、とも思うだろうし。
私という存在はどうにでもあり得た。こういう想像力は足りなくなっているのかな、とは感じています。
だからといって、想像できない人を批判も出来ないんですね。
私は、今の自分がいいと思っているわけではありませんけど、いい人達に恵まれて、いい環境で生きてこられたほうだと思っています。かえって偉そうに聞こえるかもしれないけど、ヘイトスピーチには共感できずに済むし、バッシングは自分はやりたくないなと言える。それが、実はとても恵まれていることなんだと思うんです。もしもしんどい状況で暮らしていて頼る人もいなくて、辛くて辛くてどうしようもなかったら、自分も何をしていたか分からない。どうしてもそう考えてしまいますね。
——確かに、本当に他人事などない。誰にも困難は待っている。だからこそ、ひとりひとり強く生きていかなきゃなんだ。これが僕等の世代までは確かに通用した、ちゃんとした大人像なのですが。
伊藤 でも、その強く生きていこうとする自分だって、いろんな環境に左右されているものですよね。
——うーん……。あのう、やはり伊藤さん、物書きにも向いていると思います(笑)。
『ファルージャ イラク戦争日本人人質事件…そして』
(2013/日本/カラー/HD/95分)
ATP若手映画プロジェクト第一回支援作品
監督:伊藤めぐみ
プロデューサー:広瀬涼二
撮影:伊藤寛 大月啓介 大原勢司
編集:伊藤誠
音楽:吉田ゐさお
音効:早船麻季
制作・配給:有限会社ホームルーム
宣伝:カプリコンフィルム
公式サイト:http://fallujah-movie.com/
1月25日より渋谷アップリンク、2月8日より名古屋シネマスコーレにてロードショー