【特集】発表!わが一押しのドキュメンタリー2013

わが一押し2013今年のアンケートの回答には、邦画の劇場公開作が多かった。ロングヒットや話題作に恵まれこともあるが、その根拠としてわりと身近な、日常生活の隣にある問題を扱った作品が多く、見る側が「自分の立ち位置」を問うようなドキュメンタリー映画の触れ方が多くなされたのかもしれない。反面、ドキュメンタリーは、「映像表現」として多彩な事実を反映することもできる。つねに世のリアルに向き合う作家たちに畏敬の念を抱きつつ、より多様(テーマ、スタイル、国々)なドキュメンタリーに出会えることを2014年も期待したい。ご寄稿いただいたみなさま、ありがとうございました。(neoneo編集室 佐藤寛朗)

【お名前(ご職業)】【作品名】【理由(200字を目安)】の順に掲載しています。
(順不同、到着順)


飯田基晴(映画監督)
作品名:壊された5つのカメラ パレスチナ・ビリンの叫び』(監督:イマード・ブルナート、ガイ・ダビディ)

危険にさらされながら、怯むことなくイスラエル軍の暴力と仲間の非暴力の闘いを撮り続けた勇気と信念に心動かされました。そして単なる闘いの記録ではなく、怒りを抑え「映画」として妥協なく構成・編集することもまた、多くの忍耐を要する、もうひとつの闘いだったはずです。この映画が作られたことに、敬意とともに希望を感じました。大倉山ドキュメンタリー映画祭にて2月23日(日)に上映します。http:// o-kurayama.jugem.jp/


清水浩之(短篇映画研究会)

作品名:
■映画
『妖精―SPRITE―』(しまだゆきやす・大西健児)

『立候補』(藤岡利充)
『ベイビー大丈夫かっ BEATCHILD1987』(佐藤輝)
『東電テレビ会議 49時間の記録』(平野隆章)
『アントニオ・カルロス・ジョビン』(ネルソン・ペレイラ・ドス・サントス)
『タリウム少女の毒殺日記』(土屋豊)
『犬と猫と人間と2 動物たちの大震災』(宍戸大裕)
『わすれない ふくしま』(四ノ宮浩)
『約束 名張毒ぶどう酒事件 死刑囚の生涯』(齋藤潤一)
『いのちの林檎』(藤澤勇夫)

しまださんの実家の押入れから未発表フィルムを発掘し、「しまだワールド」の集大成を作り上げてしまった大西さんに殊勲賞を。大島渚の後継者として「社会派アイドル映画」を作り続けてほしい土屋豊監督。

■テレビ
『母と息子 3000日の介護記録』(NHK/相田洋・坊恵一・駒井幹士)
『人生のディナーを召し上がれ』(NHK/面谷由加)
『ハナエゆれる ある家族のゆくえ』(フジテレビ/辻智彦・李玉美)
『泣き笑い 俺たちと先生の就職活動』(NHK大阪/益子侑・田嶋寛子)
『アラオを尋ねて』(NHK/新延明)
『旅のチカラ 街は毎日が銃撃戦~角田光代 サラエボ』(NHK/中村裕)
『静かな声』(長崎放送/岩本彩)
『ノリウッドムービーができるまで。』(WOWOW/大月啓介)
『ファミリーヒストリー ハワイに渡った祖父の軌跡~又吉直樹』(NHK/伊勢朋矢)
『探偵!ナイトスクープ 23年間会話のない夫婦』(朝日放送/金津巧)

自宅介護の現場にまで、手作りの“秘密兵器”を次々と繰り出してくる相田さん。筋金入りのテレビマン魂に泣き笑いしました。

■恒例の「短篇映画研究会」個人的ベストテン
『おおあなむちの冒険』(木村荘十二)

『煙突屋ペロー(復元版)』(田中喜次)
『青年の虹』(今泉善珠)
『冬の日・ごごのこと』(杉原せつ)
『イシダイしまごろう』(小野豪)
『730日の青春』(堀内甲)
『涙なんか飛んでいけ』(磯見忠彦)
『唐津』(落合朝彦)
『海に築く製鉄所』(伊勢長之助)
『くらしを描く』(青山通春)

 

青木ポンチ(自由業)
作品名:『立候補』(監督:藤岡利充)

マック赤坂主演ということで、選挙に乗っかったおふざけムービーと軽く見ていたら…思いのほかグッとくる。選挙は確かにお祭りですが、それに出馬する(出馬し続ける)ことがいかに一筋縄でないか。B29のごとき「維新の会」に、竹槍ゲリラ戦で立ち向かうマックの姿に、じんわり涙。

戸田桂太(自由業)
作品名:『ある精肉店のはなし』(監督:纐纈あや)

牛を育て、手作業で屠畜して食肉加工する家族の暮らしに正面から向き合ったこの映画の姿勢を評価したい。まず、家族が飼育していた700キロもある牛を引いて住宅街を歩いて近所の公営屠畜場まで行き、アッという間に屠るまでの冒頭の数分間がすばらしい。屠畜から精肉にするまでの作業の見事さ、手際のよさを通じて、いのちとは何かを考えさせられる。同時に被差別の歴史のなかで培われてきた「豊かさ」に思い至る。

真鍋俊永(会社員)
作品名:『標的の村』(監督:三上智恵)

丹念な取材の部分も素晴らしいが、やはり普天間の封鎖シーンは圧巻である。沖縄県民である沖縄県警の警察官と住民が向き合ってのやりとり。それを伝える記者たちのリポートイなどから伝わってくるものは、分断され、翻弄される市民の姿です。名護市の東と西、沖縄の北と南、沖縄と本土…、警察官と市民の対立でいくつもの分断と対立を浮かび上がらせたのが素晴らしい。

林まゆみ(病院事務員)
作品名:『約束 名張毒ぶどう酒事件 ある死刑囚の生涯』(監督:斉藤潤一)

圧倒的な存在感に打ちのめされた。去年一番、知ってほしい作品のひとつ。ドキュメンタリーは作り手の匙加減により印象が大きく変わるものだが、ここにはどう撮ろうと揺るぎない事実と揺るがせに出来ない事態があり、司法によって人生を狂わされた人の慟哭が伝わらざるを得ない。この作品に関わった俳優たちの熱意と真意を汲み取り掬い上げる必要を感じる。

清原 睦(編集者)
作品名:『ひろしま 石内都・遺されたものたち』(監督:リンダ・ホーグランド)

リンダ・ホーグランド監督は、写真家・石内都の広島の原爆犠牲者の遺品を撮るという行為に、戦争とは何かを伝えていくうえで、きわめて人々の想像力を喚起する力を見出していく。また、カナダの先住民と広島に落とされた原爆に思ってもいなかったつながりがあったことが語られる。二人の女性表現者が静かに力強く訴える作品。

堀由美子(フリーター)
作品名:『忘れられた皇軍』(監督:大島渚)

つい最近みたのですが、それまで見ることが出来なかった悔いより逆に今見ることが出来てよかったと思えました。
”あの”閉塞感は現代に通ずるようであり、真逆の熱量のようにも感じ得ました。
負のようでいて負でもない、
不幸のようでいて不幸でもない、
不思議な感覚に捕らわれました。
”人間”は”人間”であるというだけで希望を感じる生き物なので、この作品が虚飾なく”人間”を炙り出していたからなのかもしれません。

桝谷秀一(山形国際ドキュメンタリー映画祭理事)
作品名:『わたしたちに許された特別な時間の終わり』(監督:太田信吾)

YIDFF2013の中でも、好き嫌いが大きく分かれ、賛否両論必至であるところが、作家と観客が一堂に会するヤマガタにふさわしく、まさに一押し作品というところ。
YIDFF2013からは他に『ある精肉店のはなし』纐纈あや、『屠場を巡る恋文』久保田智咲、『中国・日本 わたしの国』ちと瀬千比呂、にも注目あれ!

岡村智剛(大学院生)
作品名:『立候補』(監督:藤岡利充)

一人の男の生き様と、それを支えるスポットライトの当たらぬ者達の姿に涙した。それがドキュメンタリーにおける演出だとわかっていても、作品の雰囲気に取り込まれた。カメラというスポットライトを当てて初めて、彼らという陰なる主役が克明に描き出された。それを物語的に描こうとしている自由な作風が良い。反権力、反体制といった姿勢が取りづらい現代社会の中で、はっきりと選挙制度について批判的に描いている点も良い。

佐々木瑠郁(映画宣伝)
作品名:標的の村(監督:三上智恵)

オスプレイ問題・沖縄の歴史・現在にとどまらず、沖縄という土地に生きる人々、そして沖縄という地が歩み生きてきた実態、誇り高き魂のようなものまでスクリーンに映し出されていた。
自分には故郷や、大切なものを想って口にする唄などない。涙を流しながら、声高らかに唄う人々の姿に心打たれた。やり場のない思いに私も涙が止まらなかった。

本間順子(ライター、翻訳)
作品名:『空低く 大地高し』(監督:ノンタワット・ナムベンジャポン)

タイとカンボジアの国境問題であり、タイの国内政治の問題でありながら、実は日本も隣国と国境の問題を抱えており、またタイのように検閲はないにしても、秘密保護法と表現の自由はこれからの日本の課題である。どうやって当事者の平和を求める声を広く双方の国民に伝えることができるのか、どう世論を動かすのか、ノンタワット監督はその一例を私たちに見せてくれた。監督と同世代として、山形でお会いできて非常に嬉しかったし、勇気をもらった。

本田孝義(映画監督)
作品名:『天に栄える村』(監督:原村政樹)

1980年代、小川紳介監督は「今の農民には科学が足りない」と語ったが、本作に登場する福島県天栄村の農民たちは、福島第一原発の事故によって降り注いだ放射能と闘うため、図らずも農民であり科学者であることを余儀なくされた。その奮闘の様がひしひしと伝わってくる映像に感銘を受けた。また、原村監督は、原発事故前にも天栄村で取材をしていたことから、原発事故の前後を見ることが出来たのは貴重だと思う。じっくりと対象に向き合うというドキュメンタリー映画の初心についても考えさせられた。

鈴木規子(アルバイト)
作品名:『忘れられた皇軍』(監督:大島渚)

大島渚監督が亡くなられた直後の昨年1月末、偶然らしいのだが『忘れられた皇軍』の上映があるというので、生まれて初めて東大に行った。
観始めて直ぐに、以前にも観ていたことに気付く。後半の「目のない目からも涙はこぼれる」というナレーションは、ずっと頭の中に残っていた言葉だった。タイトルはまるっきり忘れていたのに。約10年病気で右目を失明した頃だったこともあり、号泣したのを思い出した。
何度観ても衝撃を受ける。ストレートなナレーションが胸に突き刺さる。
つい先頃テレビで再放送されていたが、こういった過去の名作テレビドキュメンタリーは追悼じゃなくてもどんどん再放送して欲しい!

東野真美(編集者)
作品名:『三姉妹~雲南の子』(監督:王兵)

ジャガイモをかじる雲南の貧しい農家の少女の姿はなんとも言えず素晴らしい。発展から取り残された辺境の生活などというありふれた言葉などを超えるような存在感がある。そして背景に登場する少女の親戚のうちに置かれたテレビ映像の醜悪さはどうだろう。少女にとって家畜の世話よりも勉強がしたい、そういう豊かさは必要なのだけれども、でも人間の求めるべき生き方はテレビのある生活だけではない、そういうことをとても端的に教えてくれる映画になっている。

S・H(編集者)
作品名:『わたしたちに許された特別な時間の終わり』(監督:太田信吾)

山形でタイトルを目にした時(小説と同名云々は措いて)湿っぽくて苦手と、忌避感を覚えた。だが結果的に、映画祭で観た20数本中、最も息を呑み、圧倒される作品となった。カタルシスを感じるにせよ、居心地の悪さを感じるにせよ、社会に出ること、自らに由って立つ(自由)ことの苦闘を経験した人に、彼らの苦闘は強く迫り、響いでくるのではないか。再編集されての劇場公開版とオリジナル、二つの映画がこの世に残ることを歓びたい。

関恵理子(会社員)
作品名:『選挙2』(監督:想田和弘)

前回の、「選挙」はエンターテイメント。「選挙2」ももちろんエンターテイメントなのだが、笑ってばかりはいられない。どうなっちゃうの日本?観た後、行動が変わる映画。

吉田孝行(『neoneo』03号の編集を担当)
作品名:『ステンプル・パス』(監督:ジェームス・ベニング)

昨年のイメージフォーラムフェスティバルで拝見。人影のない深い森の谷間を捉えた同じ構図の固定ショットが延々と続く。1ショットが約30分、春、秋、冬、夏という順番に並べられた、わずか4つの四季のショットで構成された作品。画面の右隅にはベニング自身が建てたという一棟の小屋。爆弾テロリストのテッド・カジンスキーが潜伏していた山小屋のレプリカだという。その小屋の中でカジンスキーの残した日記を朗読するベニングのナレーションが時折インサートされる。微かに動く上空の雲、風に揺れる森の木々、降り注ぐ雨や粉雪、小屋の煙突から排出される煙など、生命を持たないものの自生性を凝視した風景映画であると同時に、人物が一人も登場しない小屋が主役の建築映画でもある。

森かおる(編集者)
作品名:『カメラになった男 写真家 中平卓馬(監督:小原真史)

中平卓馬は編集者、写真家、評論家として活動した後1977年に記憶と言語能力に障害を負ったが、今も日々写真を撮り続けている。沖縄の民宿でカメラに向かうシーン、自らの記憶と現実の違いに言葉を失う中平の真っ黒な眼は何も見ておらず、だがその眼からは体に溜め込まれた断片が垣間見えるようで、震えた。あるトークイベントで監督の小原氏が「映画になったのは撮影したうちの1%くらい」と発言していた。残り99%を含めた再編集版の公開を切望します。

萩野亮(映画批評/neoneo編集室)
『いのちを楽しむ~容子とがんの2年間』(監督:松原明・佐々木有美)


正直に告白すれば、よくある「闘病もの」の一本だろうと、なかば見限っていた。乳がんで余命2年を告げられた渡辺容子さんは、抗がん剤などの積極的治療を拒み、残された時間を気ままに生きようとした。緩慢におとずれる死を、あまりにもしなやかに受けいれるその意志とは裏腹に、彼女の身体は、その数億の細胞は、必死に必死に病いを生き延びようとする、その相克には、人間であることの凛々しさと悲しさがはちきれんばかりにつめこまれている。容子さんのそれでもなおゆたかなこの晩年に、スクリーンを通して立ち会えたことは望まぬしあわせといってよかった。

金子遊(映画監督・批評家/neoneo編集室)
『湖畔の2年間』監督:ベン・リヴァース)

恵比寿映像祭で見たベン・リヴァースの初長編。昨年は国内8ミリフィルムの現像が終了し、フィルム媒体について再考する機会となった。本作は山奥に住む老人が雪の中を歩き、木を倒し、貧しそうな生活をする様を寡黙に見つめる作品。白黒の16ミリフィルムを自家現像し、ブローアップされた粒子の荒れた映像の美しさ。もう「ドキュメンタリー」などと言う必要はないのかもしれない。フィルムに光と影が映えている、それだけで充分であろう。 

佐藤寛朗(neoneo編集室)
作品名:『ファルージャ イラク戦争日本人人質事件…そして』(監督:伊藤めぐみ)

年末に見た「引っかかる映画」。28歳の新人監督がイラクに赴き、10年経ったイラクと人質事件の当事者たちの現況を追う。淡々と、レポートを重ねるような構成だが、さりげなく提示される事実の“重み”が他人事としての消化を許さないのは、監督が自分の目線を持ち、きちんと自問自答しているからだろう。当事者の人物ドキュメントに終わらせず、総体を問いとして見るものに投げるのが良かった。