——作品は、どのように選ばれているのですが?
飯田 最近は試写状もいろいろな会社からいただくんですが、実際に選ぶのは、身近にいる人の悩みですね。あと自分も周りの人も、子育てしながらとか、生活をしながらの悩みとか、ですよね。「うちのおばあちゃんがボケちゃって…」と涙を流しますからね、みんな大変だから。そういう主婦同士の会話からがいちばん多いです。「ああ、今だ、絶対この作品をやらなきゃ。そして作品をみたら、この人は変わる!」それがいちばんですね。映像的にどうとか、そういうプロの視点はないです。実生活そのままですね。
今年でいえば、『さなぎ』。地域で悩んでいるお母さんが何人もいるんです。後援をいただいている団体のふたつが、勉強をする楽しさや、本を読む楽しさを教える学習塾で、そこに通う何人かが学校に行けなくて、子どももお母さんも、どうしていいか悩んでいる。そういう方たちにお会いしたら、絶対に観てもらいたいと思って。それで「『さなぎ』観た?」と聞いたら、作品自体を知らなくてね(苦笑)。じゃあ今度やりますよ、といったら、とても喜んで、興味を持ってくださいました。
あとは、福祉の問題や、今の若い人たちが抱える問題に対する意識もありますね。昨年は『遭難フリーター』(2007 監督:岩淵弘樹)なんかもやりました。就職氷河期に卒業した私の娘の話なんかを聞いていると、「もうちょっと雇用体制をなんとかしてよー」って言いたくなっちゃうから。
——今年のテーマは「もうひとつの家族」ということですが、これにはどのような思いがあるのですか。
飯田 「もうひとつの家族」というのは、運動体としての捉え方もありますけど、私なんかもふつうに母親としてやってきて、絶対に反抗期というのはあるんですよね。もうそれは手に負えないほど激しい時期もあるし…でも、私、きっとね、親離れ子離れしても、どこか「もうひとつの家族」のお世話になって、それは友達でもいいし、どこかのご家族でもいいし。自分の子供たちも、そのような人たちに育ててもらっているんだなあ、という気持ちが、私にはあるんですね。
——その意味では、この上映会も「もうひとつの家族」というか、いろんなつながりに支えられていらっしゃいますよね。
飯田 本当にお陰さまで、いろんな団体に応援していただいています。お蕎麦屋さんとか学習塾とか、福祉系の団体とか、地域の女性同士でコミュニティを作ろうという方とか。世田谷区以外からも来ています。あとは、近所に日本大学の文理学部があって、学生さんのバックアップも大きいですね
『まひるのほし』の頃ですかね。息子と行った療育キャンプで、ボランティアで働いていた日大文理の学生さんに出会って。「ドキュメンタリー好き?」って聞いたら「そういうことをやっている人がいっぱいいますよ」と言って。「そういう人に連絡とって、うちに遊びにいらっしゃい」と伝えたら、ほんとうに学生さんたちが遊びにきたんです。『銀幕亭』という、映画鑑賞サークルの人たちで、ほんとうに熱心に協力してくれました。その中心メンバーが卒業して、先細りになってやばいかな…と思っていたら、今度は学校にいかずにロケ現場に行くような元気な学生がダダッと来て「この会のお手伝いをさせてください、ぜひ、お願いします」って頭を下げる。映画研究会という、映画を作るサークルの学生さんでした。彼らもまた卒業して、先細りになっていくかな…と思っていると、今度は社会福祉学科の学生がやってきて、もう4年ぐらい手伝ってくださったりしています。
でもその根底にあるのは、3年目かな、普段はこういう会にこないような、ダンディーなスーツを着た方がやってきて、「この会を応援するにはどうしたら良いでしょうか」と声をかけてくださった。それが今、文理学部の学部次長をなさっている紅野謙介先生です。今でも前夜祭には必ず参加してくださったりする、陰の応援団長です。はじめの頃、熱烈に応援してくれた3人の学生も、紅野先生のゼミの生徒でした。やっぱり、学生さんの力は大きいですね。今でも毎年、顔を出してくれる子たちもいます。下高井戸は赤ちょうちんが多いから、昔は上映後に飲みにいったりしていたんですけど、今は私もお酒飲むと、次の日がダメでね(笑)。
——15年というのは、自主上映会にはあまり例のない長さだと思いますが、これだけ長く続けてこられた理由をお聞かせください。
飯田 正直、しんどいからやめちゃいたい、と思ったことは、何度かあったんですけどね。やめられなかったこととして、来ていただけると分かるんですが、この会には、いわゆる一般の上映会だけではないんですね。息子たちのことをバックアップしている福祉作業所とか、福祉園とか、福祉の人たちの憩いの場でもあるんです。朝、日中活動で観に来るんです。だから朝の部では、彼らが楽しめる作品を毎年必ず1本、選んでいるんですね。今年で言えば『空想劇場・若竹ミュージカル』です。昨年は『歌えマチグヮー』(2012 監督:新田義貴)。上映したら、とても楽しんでくれました。
それと、彼らが作ったクッキーとか手芸品を映画館で売っているんです。売り上げは彼らの作業所に還元されるんですが、それが彼らのお給料になるんです。また作業所ではない重度の施設の方たちにとっては、一般の社会から1年に1度のお小遣いをもらえる、貴重な機会なんです。そういうクッキーや作品は、だいたいは福祉園同士のお祭りや、福祉間の中でのやりとりなんで、決まった人が決まったものを買っていくようなものなんですが、ここでやることによって、娯楽の場ではじめて品物を見て、さわって、買っていただける。それは施設の指導員さんにとって、ものすごく励みになっているんですね。だから、それを考えちゃうと、苦しくてもやめられなかったんです。
数年前は「今年でこれは最後だから、もう観れなくなるから来て」っていうのを常套句にしていた時期もあったんですけど、それでも続いているから「ほらみなさい、やっぱり今年もやるのね」と思って、みなさん来てくださるんです。「やらないと言っても信じないから」とか言って。
最初の頃に手伝ってくださったPTAのお母さんたちが、ご両親の介護だったり、御主人の転勤だったりして、どんどん手伝えなくなってしまった時に、私ひとりではどうしても動けないところがあって、映画館に相談したこともありました。でもここ数年は、映画館の若い女の子たちが「私たちもできることはやります」と言ってくれて、今まで私たちだけでやっていたことを引き受けて、いろいろ手伝って下さるんです。映画館も「何があってもやりなよ」と応援してくださる。そういう輪ができるのも、やはり曲がりなりにも継続してきたからですかね。やったりやらなかったりの波があったら気まぐれになるけど、同じ時期に、同じ人たちと力を合わせてやってきた。それが大きいのかなと思っています。
【上映情報】
『優れたドキュメンタリーを観る会』vol.30 もうひとつの家族
【期間】2014年4月18日(金)~2014年4月26日(土)
【場所】下高井戸シネマ(京王線下高井戸駅下車 徒歩2分)
〒156-0043 東京都世田谷区松原3-27-26 電話03-3328-1008
【料金】当日:一般 1300円/大学・専門学校 1100円
小・中・高・シニア・障がい者・火曜みなさま 1000円/会員 900円
※『シバ 縄文犬のゆめ』のみ、一般 1800円/大学・専門学校 1500円
各作品の情報・上映時間はこちらから。
『Japan Docs』動画インタビュー→https://www.youtube.com/watch?v=2_VuT6XFTUA
【プロフィール】
飯田光代(いいだ・てるよ)
東京都世田谷区経堂生まれ。主婦。3児の母。1999年『優れたドキュメンタリーを観る会』を立ち上げ、代表として下高井戸シネマの春の上映を中心に、これまで30回あまりのドキュメンタリー上映会を企画する。趣味はフラメンコを踊ること。