|海外の視線から気づかされること
――タイトルからも伺えるのですけれど、世界に対する発信ということを明確に意識されていると思うのですね。近年は和食が世界的に注目されています。
手島 個人的には、築地に行って日本食の豊かさを再発見させてもらったところがあるんですね。もっと広く言ってしまうと、食が人生を豊かにするっていうことであったり。「旬」というものを庶民でも楽しんで生活をしてきたということが、きっと海外から見た「和食の文化」として享受されていると思うんです。それが実際、いまなくなってきている。このまま日本の食文化が変わっていくのはすごくもったいない。ですから、海外の人たちにも日本の食文化を知ってもらいたいってこともありますが、その海外からの目と舌を通して、わたしたちがもう一度気づき直すこと。日本人としてこんなに素晴らしいものを持っていたんだねということを気づき直すきっかけになったらいいなって思います。
遠藤 やっぱり僕らって、魚のことも築地のこともインターネットとかテレビとかで少なからず知ってるつもりになっちゃっている。本当においしい魚や、そういうものを知らないまま育っていく可能性もある。海外からの視点や評価で気づける部分があるんじゃないのかなと。ハーバードの教授なんですけど、『Tsukiji』っていう本を書いた方がいらっしゃるんですよ。
手島 15年間、築地に通ってリサーチをして書き上げた。原題は、『Tsukiji: The Fish Market at the Center of the World』です。
遠藤 テオドール・べスターさんっていう方なんですけど、このあいだ来日されるタイミングがあって。一緒に築地を歩いたり、ちょっとインタビューを撮らさせて頂いたんです。専門は、人類学者です。ベスター教授が言ったことですごく印象的なことがあったんです。「アメリカの文化については僕はいまいちわかんない」って。「築地のことはこれだけ語れるけど」。どうしてかっていうと「僕はアメリカ人だから」。自分たちの国の文化って少なからずわからないことって、見落としがちになっていることってあると思うんですよ。そういうものを海外からの視線や評価で気づける。
――海外に向けてアピールしていくうえで、小型のカメラではなく、きちんとしたカメラで綺麗な映像を残したいんだと聞きました。撮影は角田真一さんがクレジットされていますね。
遠藤 メインは角田さんです。ただ、1年間という長期なんで、何人か入っています。もちろん、僕もカメラを回す局面は多々あるわけですね。最近の主流だと思うんですけど、5Dみたいなセンサーサイズの大きいカメラで撮っていくってことは最初にイメージしましたね。
――いま、撮影の真っ最中ですよね。
遠藤 真っ最中。明日も撮影です。築地のなかで撮影のルールが多々あるんですけど、そのなかでひとつ明確にあることが、三脚を使用してはいけないということなんですよ。狭いところなので、三脚を立てた瞬間に交通の流れが止まってしまう。基本的には手で持って。それに準じる特機を使ったりとか。そういうふうにして撮影は進めていきますね。
|築地・銀座エリア全体で盛り上げてゆく
――今回の作品はクラウドファンディングを利用されていることも注目されています。歌舞伎にまつわるリターン(出資者へのプレゼント)が松竹さんらしいですね。
手島 映画で取り上げるテーマから、クラウドファンディングが合うのではと考えました。制作時から賛同してくれる方と一緒に公開まで盛り上げていき、大きなムーブメントにしていきたい。町をつくっていくみたいに映画を展開していくことができたらいいなとは思いますね[募集は9/1(月)23:00まで]。
もちろん歌舞伎座も銀座にありますし、銀座・築地という場所でいろんなことをやってきたっていうことがあるので、まずは地域を盛り上げていきたい。映画会社にできることは何なのかなっていうことを考えるなかで、多くの人と一体になってプロジェクトを盛り上げたいっていうのは会社としてはあります。
あとはたとえば、魚河岸が江戸時代から歌舞伎文化の一端を支えていたとか、知らない方も多いと思うんですね。そういう関係性を知るきっかけになってもらえたら、より楽しんでもらえると思うんです。築地が単なる市場ではなく、地域の文化の一端としてあるんだと。
遠藤 銀座・築地という土地の培ってきたものというなかでは、この映画が松竹さんの映画であるというのは、非常にいい環境ですよね。ひとりの仲卸の人を撮りたいんではなくて、「築地」というダイナミックな土地を描きたいって思ったときに、より広域なところでの撮影の許可であったりが必要になったときに、一緒にやっていくぞっておっしゃってくれたのが松竹さんだった。僕ら3人も、いままで一緒に仕事をしたことはなかったんですね。このプロジェクトを初めて、お互い「ああそういえば」みたいな(笑)新たな展開もあります。
手島 (笑)。
――すばらしいコラボレーションですね(笑)。
手島 考えれば考えるほど、やっぱり松竹が旗を振ってやるべきなんじゃないかっていうところにたどりついて。たまたま自分の会社が松竹だったっていう。わたしもたまたま松竹に勤めてなかったら、築地市場のなかにまで足を踏み入れていこうという発想にもならなかったと思う。そういった意味では、土地の縁というか、そこに偶然集まった縁っていうのはすごく感じますね。いろんなお話をいろんな方にお聞きする度に、ありがたい縁にも繋がれていくというか。
遠藤 仲卸の方たちもやはり、松竹という会社にゆかりを感じている方って結構多いんですよ。歌舞伎を見に行ったりとかする方も少なからずいると思います。
手島 歌舞伎の演目のひとつ、『助六由縁江戸桜』と魚河岸は強いつながりがあるのですが、歌舞伎座が新しくなって『助六』が上演されたときに、魚河岸の方と話していると、「今日は誰々さんが歌舞伎座行ってるよ。『助六』見に」っていう話をよく聞きました(笑)。
|「築地」が過去になる前に
手島 撮影の許諾をいただくために、仲卸の組合(東京魚市場卸共同組合)にお話を持っていったんですけれども。そこから、最終的に協力しましょうっていう最後の言葉を頂くのに、半年ぐらいはかかりました。ただ、こういうことをやりたいんだという映画の主旨に関しては、是非やってほしいっていう賛同の声をいただいて。すごく今はいいかたちで、撮影に行くと「あ、映画だね」って(笑)。「あ、松竹さん」って言ってもらえるようにはなりましたね。
――これまで築地市場への今回のような長期取材が叶わなかったのは、やはりそういう組合側との折衝に難しさがあったのでしょうか。
手島 明確にハードルとしてあったのは、築地市場は東京都が管轄をしていて、まず東京都のルールのなかに長期の取材への許可がなかったんです。なぜかというと、やっぱり仲卸の方々含めみなさんの業務が滞るっていうことに一番問題があって。
遠藤 いろんな取材のオファーは無数にあると思うんですよ。内容に応じて、報道は比較的入りやすいと思うんですけど、とはいえテオドール教授も15年間かけて本にしているわけで。築地の写真集を出している方もいます。NHKを筆頭に、テレビもそれなりの期間で入っていると思うんですよ。もしかして、移転をテーマにして入っている番組もすでにあるかも知れません。ただ、映画としてははじめてになりますね。
――このタイミングで組合側も応じられたのは、移転がある程度もう確定して、市場の映像を残しておきたいという気持ちが先方にもあったということなのでしょうか。
手島 やっぱり記録として残しておいてほしいという声もよく聞きます。今しか撮れないものですから。
遠藤 この映画は移転前に公開したいと思っているんです。豊洲に移転したあとに公開すると、築地は過去のものとなってしまう。それをいま、僕らがまだ「築地」という共有財産を持っているなかで、こういう築地市場で働く人たちが、豊洲移転を迎えるのだという見せ方をしたほうが、この映画で伝えたいことがクリアになる。
いま魚が捕れなくなっているとか、魚を食べなくなっているとか、いろんなことを言われていますが、20年後にはもっと私たちの食文化を取り巻く環境はひどい状態になっているかも知れない。昔みたいに家族でご飯を食べるっていうことがそもそもなくなってきたり、外食主流になっていたり、家で料理や食事をしないなかで、いまの子どもたちが大人になったときに、「日本の食文化はどうあるべきなのか」ということも、この映画を通して考えてほしい要素のひとつです。
僕たちの食文化の未来を感じられるようにしていきたい。僕たちが選び、つくる未来ですから。(了)
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|作品情報
『Tsukiji Wonderland (仮題)』
撮影時期 :2014 年撮影開始~2015 年 3 月撮影終了予定
公開時期 :2016 年公開予定(日本)
製作・配給 :松竹株式会社 メディア事業部
協力 :東京魚市場卸協同組合
企画 :手島麻依子(松竹株式会社)/奥田一葉(3 番テーブル)
企画・監督 :遠藤尚太郎
制作 :株式会社パイプライン
映画撮影日誌公式ブログ: tsukijiwonderland.tumblr.com
公式 Facebook : www.facebook.com/tsukijiwonderland
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|クラウドファンディング実施中! いよいよ9/1(月)まで!
プロジェクト名:「世界一と呼ばれる築地市場と日本の食の文化を映画に残す」
https://readyfor.jp/projects/tsukiji_wonderland
期間:2014 年 6 月 2 日(月)~ 2014 年 9 月 1 日(月)
内容:支援は一口 3,000 円、10,000 円、30,000 円、50,000 円、100,000 円、200,000 円、300,000 円、500,000円、1,000,000 円より選択可能。
リターン:READYFOR? の仕組みは、既存の寄付とは異なり、支援額に応じて支援者はリターンを受け取ることができる。本プロジェクトでは、企画の意義を体感し参加いただけるよう、築地市場や日本の食文化をより知ることができるものなど、様々なリターンが用意されている。
10,000 円 オリジナル手ぬぐい(十二世市川團十郎丈が魚河岸とゆかりの深い演目「助六」を演じた際、東卸へ贈呈した隈取りを使用したデザイン)、映画 DVD・Blu-ray エンドロールへの名前掲載
30,000 円 完成披露試写会への招待
100,000 円 昭和 49 年撮影 築地市場航空写真ポスター
200,000 円 築地市場勉強会への招待
500,000 円 映画本編エンドロールへの名前掲載
1,000,000 円 プライベート上映会開催権(監督ティーチイン付き)など
クラウドファンディングに関するお問合せ
オーマ株式会社 READYFOR 事務局
MAIL: press_readyfor@ohma-inc.com URL: https://readyfor.jp/
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|プロフィール
手島麻依子[企画]
松竹株式会社映像本部 メディア事業部所属。食へのあふれる情熱の発露を求め、共同ユニット「3番テーブル」で2011 年プライベートで食イベントやケータリングなどを開始。3年ほど前から築地市場へ通い始め、そこに宿る魚食文化を支える技術や歴史の集積と、働く人々の情熱に魅せられ、本企画を発案。
遠藤尚太郎[企画・監督]
自主制作作品『偶然のつづき』(02)が第 27 回ぴあフィルムフェスティバル観客賞受賞。俳優小栗旬が初映画に挑む姿を追ったドキュメンタリー番組(CX)、DVD ほか、ミュージックビデオや広告、映画、ドキュメンタリーなど幅広く手掛ける。
企画の手島、奥田の活動をきっかけに、築地に足を踏み入れる。以後、築地で働く人との交流を介し、その文化的価値をフィルムにおさめることを提案、今回監督をつとめる。