【Interview】10/9-19開催。要注目!新生・台湾国際ドキュメンタリー映画祭 林木材氏(プログラム・ディレクター)インタビュー text 藤田修平

   台北駅から近い場所にある事務局

——中国大陸のインディペンデント映画のセクションが充実していますね。

WL 中国のインディペンデントのドキュメンタリー作家はとても厳しい状況におかれています。資金もなく、上映も認められていない。そんななかで、優れた映画を生み出しています。だから彼らの映画がここでは自由に上映されることを大切にしたい。また、今年はシンガポールで上映が禁止された” TO SINGAPORE, WITH LOVE”〔シンガポールへ、愛を込めて〕(監督: TAN PIN PIN, 2013)〔シンガポールでの弾圧を逃れて政治亡命し、他国で暮らす人たちの物語を扱っている〕も上映します。私たちは作り手が自由に発言すること、表現することを支持します。それができる場であることが映画祭の意義であり、役割であると再認識しています。

——台湾のドキュメンタリー映画の状況について教えてください。最近はひまわり学生運動と反核運動が盛り上がりましたが、これまでも労働者の運動が続いていて、多くのドキュメンタリー映画が様々な「運動」と一緒になって作られているように感じるのですが、いかがでしょうか。

WL 多くの監督たちがこれまでと同じように、政治や社会の問題を取り上げていることは確かです。ただ、「問題」に扱ったからといって、それが古いことにはなりませんね。何を見つめ、いかなる映像言語を用いて、何を感じたかを表現することが重要でしょう。政治や社会運動を扱った映画には、これまでと同じ古いスタイルで、私たちが既に知っていることを「証明」しようとするものも多くありますが、若い世代の監督達は自分が何を見て、どのように感じ、その結果、社会をどのように違うように見ることができたかを描こうとしています。例を出しましょう。今回のひまわり学生運動はこの事務所から近い大通りが舞台となりました。多くの人たちであふれかえっていて私も初日、その中にいたのです。そして、45日後にその集会は解散したのですが、その翌朝、単車でこの事務所まで来る時、そこを通りかかると誰もいませんでした。ふと、あの熱気はなんだったのか、あたかも何もなかったかのようで、人々の関心もすっと消えてしまったようにも感じて、不思議な気分になりました。優れたドキュメンタリーとはこうした個人的な体験を通して、様々な発見をするのではないでしょうか。台湾の若い人たちのドキュメンタリーにはこうした傾向がはっきりと出ていると思います。

——アジア・ヴィジョン(コンペティション)の上映作品を選ぶ過程で、様々な国の映画を観られたと思いますが、何か感じられたことはありますか。

WL このコンペティションはアジアを対象としています。応募が多かったのは中国、日本、韓国ですが、タイやフィリピンからもかなりの作品が送られてきました。私たちはイランやトルコ、ロシアまで対象としています。こうした地域の映画を観た時に感じること、それはそれぞれの地域に特有の物語の語り方があって、欧米のドキュメンタリーが確立した物語の語り方とは異質だということでした。それで、その土地や文化と結びついた物語の語り口を持っている作品を選びました。それを受け止めることは、観客にとっても簡単なことではなく、一つの挑戦になるかもしれません。

——今回、観客と作り手の交流の場所として、台北市各地にDOC CAFÉが用意されています。また、野外上映も行われます。これらは台北市民も巻き込もうとして考えられたのですか。

WL ドキュメンタリーにそれほど関心のない人たちにも映画祭に参加してもらうことは将来的な課題として考えています。しかし、今回はドキュメンタリーに関心を持つ人だけを想定して、プログラムやイベントを考えました。変に興味を持ってもらおうとして、わかりやすい映画、商業的な映画を選ぶことになって、映画祭のレベルを落とす事態を恐れました。野外上映についてはこれまでも行われてきましたので、それを続けました。ただ、映画に関連して様々な仕掛けを用意しています。10月11日(土)夜10時からアラン・ベルリナーの『ワイド・アウイク』という不眠に関する映画を上映しますが、遅い上映時間なので、眠気を覚ましてもらうためにコーヒーを振る舞います。これもベルリナーの映画ですが、『スウィーテスト・サウンド』(12日〔日〕の夜7時半から上映)では名前に同じ漢字を持った人を同伴すれば、その人は無料で鑑賞できます。この映画はアラン・ベルリナーと同じ名前の人たちを世界中から集めて食事をする内容なのです。ユーモアに溢れた映画に対して、我々もその流儀に従ってみました。

——さて、林木材さんは若い世代に属します。かつてドキュメンタリーといえば、年配の文化人が主催するような印象がありましたが、事務局内を見ても、若い人ばかりで、活気に溢れています。近年、若い人はフィクションよりもドキュメンタリーに興味を持っているように思うのですが、それはなぜだと思いますか?そもそも木材さんはどうして、ドキュメンタリーに関心を持たれたのですか

WL 私が二十歳前後の頃、これから何をしていけばいいのか、人生についていろいろと考えたわけですが、その答えを映画に求めて、ハリウッド映画やヨーロッパ映画も含めて、様々な映画を観ました。そして、多くの本を読んで映画史を学びました。その時に欠けていたものがあったのです。それがドキュメンタリーでした。たまたま『月の子供たち』(呉乙峰監督 1990年)のDVDを見かけてそれを購入して、自宅で観たのですが、その時に涙を流してしまいました。ああ、このような映画があるのだと打ちのめされたのです。肌や髪の毛が白い、先天性白皮症の人たちに関する映画で、彼らが社会でどう生きているのか、どのように周りの人たちから見られているのかを描いています。恥ずかしいことに私も同じような目で彼らを見ていたのです。ドキュメンタリーには世界を違ったように見せる力、自らを反省させる力があります。フィクションと違うのは、監督と撮影対象者、そして現実との関わり方が直接的で、それが変化していく様子がはっきりとわかることです。フィクションの場合、俳優はシナリオを読んで、監督の指示を受けて演じるわけですが、そこにはドキュメンタリーにあるような監督と世界、監督と撮影対象者の関係がありません。私はこのドキュメンタリーに出会って、フィクションにはない関係に引かれたのです。そして、インディペンデントのドキュメンタリー映画に関わり、それを支えていきたいと考えるようになりました。

今回、はじめて映画祭のディレクターを務めました。他の映画祭の関係者に助言を求めたのですが、若い世代だからこそ新しい映画祭を作ることができるはずだと励まされました。まだ残っているかもしれない、ドキュメンタリーは真面目で退屈だ、といった偏見を取り除いて、ドキュメンタリーの持つ力、多様性を知ってもらいたいと考えています。

[caption id="" align="aligncenter" width="480"] 「記録×記憶」部門を主に担当したプログラマーの呉凡さん(右)と

【プロフィール】

林木材(Wood Lin)

1981年生まれ。国立台南芸術大学修士課程卒。著書に『景框之外―台灣紀錄片群像―』(遠流出版)がある。2005年からドキュメンタリー映画の上映活動を始め、定期上映会「新生一号出口」(2008-2012)や核電影2013(NO NUKES Film Festival)映画祭などで知られる。台北市ドキュメンタリー従業者職業労働組合の常任理事を務め、機関誌「紀工報」の編集長。2014年から台湾国際ドキュメンタリー映画祭のプログラム・ディレクターに就任。

第9回 台湾国際ドキュメンタリー映画祭

この映画祭のプログラムは新作を集めた3つのコンペティション(世界、アジア、台湾)とそれ以外の部門に分けられる。後者は世界の映画祭の話題作を集めた「パノラマ」、実験的な短編を集めた「ストレンジャー・ザン・ドキュメンタリー」、中国のインディペンデント映画特集、1951年から1965年までに国民党政権下で制作された記録映画(主に農業と家庭の衛生学)特集、3人の監督を中心とした特集上映などから成る。また、台湾の写真家・鄧南光が日本の植民地時代に台湾の家族を撮影した8ミリ映像も初公開される。上映本数は約135本である。映画上映以外に10日から19日まで連日、ドキュメンタリーに関するシンポジウムやトークショーがあり、10日にはクラウドファンディングで資金を調達し、台北市ドキュメンタリー従業者職業労働組合が制作したひまわり学生運動に関する映画の上映と討論が行われる。会場は主に光點華山電影館台北新光影城国家電影中心

【開催時期】2014年10月9日(木)−19日(日)台北市
【公式サイト】http://www.tidf.org.tw/