【リレー連載】列島通信★広島発 10/5オープン!「横川シネマ」リニューアルにあたって text 溝口徹(支配人)

「横川シネマ」改装後の館内

横川シネマは「洋邦問わず、知名度には乏しくとも見どころの多いインディペンデント作品を中心に、レアな映画の愉しみを発掘する雑食性ミニシアター」を基本コンセプトに、1999年11月27日より広島市西区横川町で営業している映画館です。

支配人を務める僕は、地元大学在学中の映画館バイトが縁で1993年秋に就職した広島ステーションシネマにて、95年頃から同館の通常営業後を活用する形で自主上映レイトショーを始め、98年の閉館まで運営。1年後に、その発展形として成人映画館だった横川シネマを新たなコンセプトでリニューアルさせてもらう事になります。29歳の時でした。

当時の横川は、今と同様にJR・バス・路面電車によって広島市の中心部と郊外を繋ぐ交通の要として人の往来は多いものの、「ややうらぶれた夜の歓楽街」というイメージが強く、どちらかといえば素通りする町。さらに、成人映画館になって20年以上経っていた横川シネマも、そうしたイメージの一端を担いつつ、劇場前の細い路地は子どもや女性がほぼ歩かないやさぐれた風情で、ひっそりと(だからこそ生き延び得た…とも思うのですが)営業していました。

「自分の映画館が持てる!」という高揚より、こうしたイメージとどう付き合って劇場を認知していただくか…という不安。とはいえ、僕のような信用も実績も資金もない人間が潜り込めたのも、そうした日陰の場所だったからに違いなく、逆に、そうしたイメージを風情として開き直る方が面白い!という態度がベストだと考えて、「横川シネマ」という名称を維持したままで再出発に踏み切りました。…まぁ、苦戦するのですが。

広島が多くの地方の映画街と少し異なるのは、地場のスクリーンが複数残っていたこと。その映画街に目を向ければ、僕も十代の頃(30年前!)から通って影響を受けたミニシアターの老舗「サロンシネマ」を始め現在は5つの劇場を運営されている序破急、広島市映像文化ライブラリー、4つのシネマコンプレックス、3軒の成人映画館。ひとつの商圏に数多くのスクリーンが現存する広島市だからこそ、(編成上の選択肢が限られる不便と裏腹に)マイナー感を強調して個性を打ち出す逆張りができたのだと思います。

広島ではここでしか観られず、時代を反映した個性的で面白い作品を…結果、ドキュメンタリー映画とまだ無名の若い作家のインディペンデント映画が横川シネマの編成の主軸となっていきました。

昭和40年代初頭に「小ぶりな」つもりで作られ、名画座から成人映画館に移行しながら生き延びてきた横川シネマは、今の僕の目には充分に「大きな」空間で、そこには可能性を感じさせる図太さがありました。

そして、2000年代半ばから、この時代遅れの映画館の広さに目をつけた同世代の友人たちが、ライブ会場として活用し始めた事で、劇場に新しいイメージが付与されます。今でこそカフェなどイレギュラーな場所でのライブは広島でも多いですが、当時そうした企画は珍しく、また補助席を含めれば150席以上の人が着席でライブを楽しめる空間は他に無いため、それまでマッチする会場がなく素通りしていた、ミュージシャンのライブ企画が持ち込まれるようになりました。ここでしか観られない映画を上映するように、ここでしか実現しないライブに加担する、そんな感覚でした。

この時期、ライブを通して横川シネマを知る人も多く、しかし、その繋がりが肝心の映画に直結してくれない事に僕は少々腐りながら、その会場費収入で息を継ぐ…という日々。ただ、この時期から顕著になるボーダレスな編成が、劇場の存在感を際立たせ、今回の改装の布石になったのかも…という気がします。また、歌手の二階堂和美さんや漫画家の西島大介さんら、ジャンルの外側から映画に手を差し伸べてくれる出会いに恵まれることにもなりました。

改装前のイベント「横川シネマ!!大同窓会」

「損しても得しても、お前の責任よ」と運営を自由に任せてくれた社長が数年前から高齢による引退を考えていた事と、劇場が入居するビルの大家である地元・横川商店街振興組合から地元の文化発信拠点の一つとして横川シネマを助成金を得て多目的ホールへ改装するというプランが浮上した事がタイミングとして重なり、今回の改装工事は具体化しました。「横川シネマ」という館名の浸透を評価いただき、名前と同時に映画館としての機能も残せたおかげで、僕もこれまでの方向性をキープしたままテナントとして無事残留。数年前から取りざたされていた劇場のデジタル化問題もその導入予算を改装費用の中に組み込んでいただいた事で、自力で工面できるか腹を括りかねていた僕には、今回の改装には便乗させてもらった…という感覚が何処かにあります。

かくして、128席から70席へゆったりした座席(昨年閉館したシネツイン新天地から譲っていただいたものです)が設置され、デジタル映写機の導入と空調設備の充実による快適な上映環境が整い、多目的に活用するための広い舞台を設えて、横川シネマは新しいステップを踏み出します。僕が14年間続けてきたコンセプトでの「横川シネマ」は毎月3週間に縮小し、残りの10日間は商店街が主体となって地域に根差し活動する若い表現者との連携イベントや多目的ホールとして一般に貸し出す形で、シェアしながら運営していきます。

もし僕に、横川シネマを純粋な「映画館」として認知させられるだけの確固たる実績を生む才覚があれば、「多目的」という名の改装話は浮上しなかったかもしれません。それでも、館名に「シネマ」の文字が残っている以上、この劇場を、映画と人を繋ぐ場所として続けていく事は諦めないで行きたい、と思っています。

 【劇場情報】

「横川シネマ」(広島駅のひとつ隣り、JR横川駅徒歩3分)
〒733-0011 広島市西区横川町3-1-12 横川商店街ビルA棟1階
電話&ファックス:082-231-1001 
公式サイト http://yokogawa-cine.jugem.jp

10/1(水)〜4(土) プレオープン(ライブなど開催、原則無料)
10/5(日)〜 上映再開 『リヴァイアサン』『はなればなれに』『CRASS』
10/12(土)〜 『リヴァイアサン』『はなればなれに』『VHSテープを巻き戻せ!』『祖谷物語−おくのひと−』
※詳しい上映時間は劇場にお問い合わせください

【執筆者プロフィール】

溝口徹(みぞぐち・とおる)
横川シネマ支配人。1970年生まれ。広島県広島市出身、在住。