【連載】ワカキコースケのDIG!聴くメンタリー 第6回『ガッツ!! カープ 《25年の歴史》』

 

広島東洋カープ初優勝の年に出た、メモリアル盤

 

廃盤アナログレコードの「その他」ジャンルからドキュメンタリーを掘り起こす、「DIG!聴くメンタリー」の時間がやってまいりました。DJはワカキコースケ。今回もみなさんを、昭和の音の世界へズルズルとお連れします。よろしくお付き合いください。


季節はもうすっかり秋。秋といえば、プロ野球シーズンがいよいよ佳境。日本シリーズ進出チームを決めるクライマックスシリーズ(CS)が近づいてきました。

今年の注目チームは、セリーグではなんといっても広島東洋カープ。

青年監督・野村謙二郎のもと、エース前田健太と選手会長・梵を軸にして、助っ人エルドレットがガンガンかっ飛ばし、堂林、菊池、丸らが次々と躍動。世代交代を成功させ、すっかり手ごわくも魅力的なチームになったヤング赤ヘル軍団が、急増中のカープ女子に後押しされてCSではどんな戦いを見せるのか。1991年から遠ざかっているリーグ優勝を掴むことができるか。手に汗を握っているファンも、さぞかし多いことでしょう。 

そこで! 今回ご紹介するのはこちら。『ガッツ!! カープ 《25年の記録》』




創設25年目の75年、悲願のリーグ初優勝を果たした秋に東芝EMIから緊急発売されたLPです。市民のカンパで解散を免れた貧乏球団、万年Bクラス……とそしられながらも、悔し涙を呑みこみ、歯を食いしばって戦ってきたチームの歩みを、貴重なラジオ実況音声を中心に振り返ります。歴史を語るナレーションは、中国放送のスポーツアナウンサー第1号である山中善和が担当。
 

B面では、チーム・カラーを今もおなじみの赤に一新した75年の躍進のようすがたっぷり。そう、「ミスター赤ヘル」山本浩二(この年首位打者とMVP)や「鉄人」衣笠祥雄がともにまだ20代で打線の主軸を担い、「切り込み隊長」大下剛史がハッスルプレーで活気づけ(この年盗塁王)、「記録男」外木場義郎(この年最多勝)がエースに君臨した年です。改めて振り返っても、凄いメンバーでしたねえ。

実況からだけでもビンビンと伝わる、投打の噛みあった若いチームの勢いと強さ。そのムードは、なんと、最近のカープとそっくり。カープ女子なら、チェックしない手はありません。もちろん、「わしはまだ帽子が紺色だった頃からのファンじゃけえ」と胸を張るオジサマならば、男泣き必至……。どうぞ、レコードに針を落とす前にハンカチのご用意を。
カープの魅力を再確認できる、新旧ファンともに必聴・必携の1枚です!


……とっとっと。つい乗って、通販っぽくなってしまった。まだ販売されているとカン違いされる方がいたら、申し訳ない。あくまで、CD化されていない廃盤アナログの紹介です。情報としては何の役にも立たないディスクガイド、というヘンな連載なんです。

 

赤ヘルなんかかぶる子は……


ここからは、正直に話を進めよう。

90年代、僕がピンでありついた最初の主な仕事は、文藝春秋やパップなどから出るプロ野球セルビデオのリサーチャー/データマンだった。当時はセ・パ12球団の歴史に詳しかったので、このレコードの価値は自分なりによく分かる。

例えば57年。戦力の揃わない弱小チームで孤軍奮闘を続けていた初代エース、と文字の知識として知るのみだった長谷川良平が、川上哲治を打ち取り、創設以来の巨人コンプレックスに歯止めをかけたシーンが、実況音声で甦る。
 

実況:「得点差はわずかに1点でございます。川上に全てを託しますジャイアンツ。9回裏、最後の攻撃。投球はこれから2球目。2球目、投げました……ショートライナー! ショート阿南が掴みました。最後のボールを阿南が掴みました。そして、キャッチャー、サード、外野手がピッチャーの長谷川に握手を求めました。1対0。遂に堂々とジャイアンツを破りまして、2回戦をものにいたしました」


長谷川VS川上。実況の律儀な口調も含めて、ほとんど神話の世界である。しかしショートの阿南とは? 念の為にリサーチャー時代に使いまくった『プロ野球人名事典1997(日外アソシエーツ)を引っ張り出してみたら。当時、入団2年目の阿南準郎だった。そうか、80年代にカープの監督になった人は、引退間際の「打撃の神様」と対戦したことがあるんだ。歴史の面白さというものは、こういうところで味わえる。
 

翌58年には、Bクラスに低迷するなかの明るいトピックとして、若い藤井弘が国鉄の大投手・金田正一からホームランを打ち、金田の連続イニング無失点記録(64回1/3。なんだそりゃ……13年の、あの田中マー君ですら42回なのだ。もちろん現在も歴代1位)をストップさせた瞬間が、やはり実況で聴ける。藤井弘も、後にカープのコーチや二軍監督をつとめたことで80年代のファンにはおなじみの人だろう。 

もちろん、山本浩二、衣笠らの新人時代の活躍もバッチリ紹介される。その点では大いに興趣はあるのだが。あいにく、ワクワクと血を騒がせながら聴いたわけではない。

もとは僕、野球は巨人、なのだ。日本テレビ『おはよう!こどもショー』で繰り返し流されていた正味のプロパガンダ・ソング「巨人の好きな子この指とまれ」76)が、人生最初の愛唱歌でございまして。

阪神ファンのパパなんか/おふろもいっしょはイヤなんだ
赤ヘルなんかかぶる子は/知らない子なんだよ 

だった。この、現在ではいささか問題ある歌詞にモロに感化されて、当時、カープは憎い敵。

今は仕事でも個人でも、プロ野球全体からすっかり遠のき、その分えこひいきはない。それでも8月に、巨人の鈴木尚広が通算1,000試合出場を達成したゲームを最後まで見た時には。コツコツと代走を続けてきた脇役がお立ち台で目を潤ませるのを見て、自然と、もらい泣きしてしまった。昨年、前田智徳のラストゲームを見た際には、それなりにジーンとなりつつ、せんぺいを齧りながらウルッともこなかったので。ローティーンの頃の刷り込みは、おそろしいものです。


そんなことは一切伏せて、カープもよく知っております、と最後までシラを切り通してもよかったのだが。ファン向けに作られたコテコテのレコードなのだから、やはりファンの声に耳を傾けておかないと……という気持ちになってきた。

そこで9月某日、この連載の編集者役をつとめる映画プロデューサー・大澤一生。ポレポレ東中野のスタッフ・石川翔平。ドキュメンタリーの世界に身を置き、なおかつ熱烈な鯉党の2人に本盤の音だけデータで送って聴いてもらった上で、集まってもらった。 

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