そして朝鮮人民の思いの一端
それではここで、今回も、わたしが2014年9月に目にした、北朝鮮、ピョンヤン市内の様子をお伝えしたい。今回は短い訪問となった。
まず、人民、労働者が誰でも学べる「人民大学習堂」を訪問。文教施設などが集まる「中区域」にあり、蔵書能力は3,000万冊にのぼるようだ。無駄口をたたいたり居眠りをする人はおらず、熱心に学ぶ人々を目にした。ラジカセらしきもので、朝鮮の歌や日本の歌を聴かせていただいたり、日本の絵本を訳したものを見せていただいた。屋上からは平壌市が一望でき、案内役の女性と少々英語で話したところ、彼女は「仕事が楽しい」といっていた。
次に、同様に「中区域」に建つチュチェ(主体)思想塔にのぼった。入口には各国の「チュチェ思想研究会」などの名前が飾られていた。チュチェ思想は「主体思想」で、わたしの読んだ書籍には、当時のロシアや中国への後ろ盾に敬意をはらいつつも、自分たちの思想を背景とする国づくりを必要とした朝鮮・金日成のたどり着いた、選んだ思想ではないかという旨が書かれていたと記憶する。チュチェ思想塔は高さ170mで、土産物店も入っており、美術品などとともに、日本語の書籍も販売されているのだ。そこでわたしは、金日成の妻・金正淑(キムジョンスク)について書かれた『永遠の女性革命家』という書籍を購入した。彼女に関心を抱いていたからだ。
2013年に重ね、祖国解放(朝鮮)戦争勝利記念館を再訪。また、巨大プール施設である「ムンスムルノリジャン」にも足を運んだ。向こうで暮らす日本人の1人による、「朝鮮のおばちゃんたちとの裸のつきあいが重要だ」などといわれたからだ。ロッカールームで1人になり焦っていたわたしは早速、ロッカーにキーを閉じ込めてしまい、受付まで戻って英語で説明。どうにかロッカーを開けてもらった。プールは屋外・屋内ともあり、スライダーなどは長蛇の列。屋内にはスポーツジムやサウナも併設されている。少しずつ体験してから、屋内のデッキチェアで休んだ。シャワーの際には、早口の朝鮮語で声をかけられた。まったくわからないのでニコニコしながらうなずいてみたのだが、裸で化粧もしていなければ、外国人になどみられないのだろうと理解する。
さらに、知人からのすすめもあり、サーカスをリクエストしていた。あの中国雑伎団に勝るとも劣らぬレベルの高い技の数々に、仲間とともに感嘆の声を上げつづけてしまった。幕間には、米兵をおちょくる民衆を描いたコントのようなものもあり、興味深かった。
食事は13年同様の玉流館の冷麺、イタリアン・ピザの店のほか、14年には複合ショッピングモール「ヘマジ食堂」内の焼肉、大同江号船上レストランなどでもいただいた。船上レストランの船は、さほど遠くには行かないが、ゆったりとした食事を楽しむことができる。
金正恩政権がうまく行っているという意見も多く聞かれ(健康状態を心配する声は日本でも多いが)、革命をテーマとした金日成、軍事をテーマとした金正日、それを継ぎながら現在では人民に「楽しみ」「娯楽」を与えんとしているともいわれていた。経済状況の詳細はわからないが、中規模のショッピングセンターも多くの人が利用しており、少なくとも平壌市内をみるかぎり、さほど厳しさは感じられない。プロパガンダ的な掲示も、13年より14年のほうが減っていたように感じたのは、わたしの気のせいなのか。国内の報道と、朝鮮で受け取った「余裕」のようなものとのギャップは、いかほどなのか。
前出の新書では、朝鮮人の案内の方が、「わたしたちのことは、ほっといてくださいといってるんです。いま、世界中が、わが国に意地悪をしています」と珍しく声を荒げたというエピソードも取り上げられていた。わたしはこの案内の方が大好きで、14年にも、恋愛の三角関係に関する冗談半分の話を耳にし、からかったりしたものだ。この方とは、核やミサイルの問題について語り合ったことすらある。
また、在朝の日本人は同じ書の中で、「たとえ指導者であろうと、間違ったことをやれば国民にはわかります。そんな指導者は国民から見放されるでしょう」「朝鮮には確かに野党がない、反対組織がない。でも国民の不満が本当に爆発するほどだったら、いくら弾圧が厳しかろうと抑えることはできないし、弾圧くらいでひるむほど人間は弱くない。それは朝鮮人も日本人も同じだと思います。朝鮮の国民性を見るならば、世界の覇権超大国アメリカの軍事的圧力と経済制裁という、それこそ大弾圧のなかで屈しない人たちであるという側面からも見たほうがいいと思います」と説明している。
わたしは今後、チャンスがあれば、平壌市以外も訪れてみたい。そして、「理解しようとする姿勢」をともなう交流の継続により、真実に近づき、日朝双方の人々の幸福につながるために何らか役立てることを願っている。
筆者の2013年訪朝の様子はこちら
【作品情報】
『北朝鮮・素顔の人々』
(2014年/日本/30分/カラー/デジタル)
構成・監督:稲川和男・朴炳陽
企画・原案・プロデュース:朴炳陽
北朝鮮国内撮影:北朝鮮無名カメラマン数名
日本国内撮影:映像教育研究会
飜訳:木下公勝・南新一
宣伝協力:オムロ、ダッサイ・フィルムズ
展開・配給:アジア映画社
©「北朝鮮・素顔の人々」製作委員会(稲川和男、朴炳陽、金徹道)
公式Facebookページ:https://www.facebook.com/paradeandsugao
(同時上映:『金日成のパレード』)
【上映情報】
11/15(土)~28(金) 東京・シネマヴェーラ渋谷にてロードショー
劇場サイト:http://www.cinemavera.com/
11/29(土)〜 神奈川・横浜ニューテアトルにてロードショー
劇場サイト:http://yokohamanewtheatre.web.fc2.com/
12/6(土)〜 東京・キネカ大森にてロードショー
劇場サイト:http://www.ttcg.jp/cineka_omori/
12/13(土)〜 大阪シネ・ヌーヴォにてロードショー
劇場サイト:http://www.cinenouveau.com/
【執筆者プロフィール】
小林蓮実(こばやし・はすみ)
1972年千葉県生まれ。ライター、エディター。現在、フリーランスのための「インディユニオン」執行委員長で、組合員には映像やWeb制作者も多数。友人にも映画関係者が多く、個人的には、60〜70年代の邦画や、ドキュメンタリーを好む。近年、『週刊金曜日』『労働情報』や業界誌などに映画評や監督インタビューも執筆。独自の視点で作品を深掘りすることを試みている。訪朝は、知人からの声がけで参加。新旧の朝鮮映画や朝鮮に関するドキュメンタリーなどもここ1〜2年、多く観ている。