【Interview】ありのままの「フタバ」を提示すること――『フタバから遠く離れて 第二部』舩橋淳監督に聞く text 若林良

民主主義とは何か

――映画内におけるインタビューの中で、広島や長崎の原爆、水俣病との連関性について触れていた方がいらっしゃいましたけれども、それを考えると、原発問題はそれ自体に留まらず、日本の構造的な問題にもつながるということを感じました。

舩橋 民主主義の問題にもつながっていますよね。

一時期、「7000人の復興会議」という話し合いが、双葉町で行われていました。そこでは、仮の町をどこに作るかについて、双葉町の町民で話し合うことになっていたんですが、出席率が8%程度という惨憺たる結果で、実質的には、ほとんど機能しませんでした。町民にとっては、政策関連のことは、町の行政執行部が決めろという感じなんですよ。自分たちは避難でそれどころじゃないし、税金を払っているんだから、町の役場が決めればいいと。

しかし、そうした考えは、民主主義から遠く離れることを意味しています。町の運営側というのは、町民が選んだ代表なわけですね。町民の代わりに行政をする「代務者」なので、町民はそれに対して、本来もっと積極的に関わっていく必要がある。でも、そんなことはほとんどの人が考えません。さっさと決めてくれよという話になって、出席しない。

町民が主体的に自分たちの権利を行使して、何かを決めるということがとても難しい現場だったんですね。選挙に関してもまた然りで、この間あった福島県知事選挙も、投票率50%を切るぐらいの低投票率でした。参加意識が非常に低い。お任せ民主主義と言われていますけど、「上が勝手に決めるだろう」と思っているところがあって、それをうまく利用しているのが、日本の現代の政治であるとも思います。

やはり、双葉町民から見ると原発は、こんなすごいものを背負わされていたんだという感覚なんですね。だけど、原発の導入は、町民たちが決めたことでもあるわけですよ。そう考えると、民主主義とは何なのだろうと、改めて疑問を感じますね。

『フタバから遠く離れて 第二部』©2014 Documentary Japan, Big River Films


ドキュメンタリーとフィクション――第三部へ向けて

――今後についてお伺いできればと思います。舩橋監督は劇映画も撮られていますが、フィクションを通して、原発問題を描きたいとは思われますか。

舩橋 今はできないと思っています。フィクションはそのテーマとなる事象から、ある程度の距離がないと描けないものだと思っていて。今、『フタバから遠く離れて』のフィクション版をやったとしたら、絶対に現実とは違うものになるでしょうし、そうなると、現実にいる人たちを傷つけることにもつながります。

現在進行形の災害に関しては、フィクションで撮るのは非常に難しいと思っています。嘘になってしまうからですね。嘘を嘘として許容するには、ある程度の距離が必要となります。原発問題については、我々の目の前にあるわけだから、距離がないんですよ。だから、ドキュメンタリーが最適の表現媒体だと思っています。今後も、双葉町の問題に関してはドキュメンタリーで勝負していきたいと思っていますし、それしかないとも思っています。

――いま現在も撮影を継続しているとお聞きしていますが、やはり舩橋監督は、「第三部」を撮られる予定でしょうか。

舩橋 そうですね。このまま双葉町の方々が安住の地を見つけるまでは、制作は続けたいと思っています。少しずつではあるかもしれませんが、それが東京に住む、映画監督としての自分の責任でもあると。東京オリンピックという花火が上がったとしても、花火の下にあるものを、みなさんに提示し続けたいと思っています。


【公開情報】

フタバから遠く離れて 第二部
(2014/日本/114分/HD/カラー)

監督:舩橋淳 テーマ音楽:坂本龍一[for futaba]
撮影:舩橋淳、山崎裕 音楽:鈴木治行
プロデューサー:橋本佳子
配給:Playtime 宣伝:佐々木瑠郁

公式HP:http://nuclearnation.jp/jp/
Facebook:https://www.facebook.com/futabakara
Twitter:https://twitter.com/futabakara

★11月15日(土)より、ポレポレ東中野ほか全国順次公開!

 ©ドキュメンタリージャパン/ビックリバーフィルムズ

【監督プロフィール】

舩橋淳(ふなはし・あつし)

 1974年大阪生まれ。東京大学教養学部表象文化論分科卒業後、ニューヨークで映画を学ぶ。デビュー作『echoes』(2001年)が、「アノネー国際映画祭」(仏)で審査員特別賞と観客賞を受賞。第二作『Big River』(2006年、主演:オダギリジョー)は、「ベルリン国際映画祭」「釜山国際映画祭」でプレミア上映。東日本大震災で町全体が避難を余儀なくされた、福島県双葉町とその住民を長期に渡って取材したドキュメンタリー『フタバから遠く離れて』(2012年)は国内外の映画祭で上映。2012年キネマ旬報ベストテン第7位。著書「フタバから遠く離れて 避難所からみた原発と日本社会」も出版される。劇映画『桜並木の満開の下に』では被災地を舞台に物語を展開し、ジャンルを越えて、震災以降の社会をいかに生きるかという問題にアプローチしている。最新作は「小津安二郎・没後50年 隠された視線」。