【特別掲載】新宿武蔵野館で公開中!『ボーダレス ぼくの船の国境線』アミルホセイン・アスガリ監督インタビュー

現在、新宿武蔵野館で公開が始まった『ボーダレス ぼくの船の国境線』が、静かな反響を呼んでいる。

舞台となるのはイランとイラクの国境沿いの朽ちた廃船。立ち入り禁止区域のその船に、一人の少年が川を潜って入り込み、そこで魚や貝を釣ったり、日々の生活の糧を得ている。そこに、イラク側からやってきた一人の少年兵がやってくる。その少年兵は、船にロープを張り、国境線を主張する。そこにやってくるアメリカ兵…まるで、イラン・イラク戦争を寓話化したような不思議で痛ましいストーリーだ。船の中では、アラビア語、ペルシャ語、英語が飛び交い、互いの言葉を理解することができないままに進展していく。

日本に住む私たちには、国境という概念を理解しにくい。更に川向こうが別の国で、全く別の文化や別の言語で生活しているというリアリティとはどういうものだろうか。またアッバス・キアロスタミ、アミル・ナデリ、アボルファズル・ジャリリといった優れた“子ども”映画を輩出しているイラン映画の現在とは? 今回の日本初公開にあたりアミルホセイン・アスガリ監督にお話を伺った。(文責・岩井秀世)

※注 この記事には一部本編の内容に触れる箇所がございます。考慮の上お読みいただけると幸いです。


 ――本作の主人公である少年は、素人の地元の子供たちの中から選ばれたとのことですが、彼を主演にした決め手は何だったのでしょう?

アミルホセイン・アスガリ(以下AA) 新しい世界に入ろうとする時、人はまず魅力的な入り口を選ぶと私は思います。
一人の人間の世界に入る時、一番の入り口は「目」であります。

『ボーダレス ぼくの船の国境線』の主人公を演じる男の子に出会った時、彼の目を見て、主役を演じるのはこの子だとすぐにわかりました。しかし、もしかしたらもっと主役にふさわしい子に出会うかも知れないと思い、探し続けました。

700人の子供に会って、テストもしました。でも最初に会ったアリレザ(男の子)の瞳を忘れられず、結果、彼に出演を頼みました。

――舞台となる船は、実際の廃船を使用したとのことですが、どのように探しだしたのでしょうか?

AA その時の出来事は一生忘れられません。

舞台になる船を探し、ボートに乗ってアルワンド川を下りロケハンをしました。数日間も座礁した船を探しながら川を行ったり来たりしていました。そして、ある日、川辺のカフェで休んでいた時、地元のおじいさんに船について話を聞きました。おじいさんは何も喋らずにある方向を指差しました。案内をお願いしておじいさんの後をついていきました。道が終わり車が進めなくなった時、遠くに船らしい姿が見えました。私たちは慌てて船の方に走ったのですが、草や泥に足を取られ、中々前に進めなかったのです。

やっと船にたどり着いた時、私たちは一斉に喜びの声をあげました。私たちの前に現れた座礁した船は私のイメージのままでした。そして、船の場所は脚本に書いたとおり、国境地帯でした。

しかし、間も無く、突然10人の兵士に囲まれ銃を向けられました。驚いた私たちは説明を求めると、イランの国境を越えてイラク側に入っていると言われ、警察に連れて行かれました。24時間も国境警察に取り調べを受けましたが、私たちの素性を知った後、解放してくれました。

――あの船は非常に魅力あるセットのような雰囲気があります。何か美術的な装飾などをしたのでしょうか?

AA 私は、映像だけでその場面の状況や雰囲気が伝わるような映画作りをするのが好きです。物語を伝えるために監督を密かに助けてくれるものは「ロケーション」であると信じています。この映画を作るにあたり、ロケ地選びは何よりも大切な仕事でした。

低予算の映画ですので、セットにあまりお金をかけられなかったということも事実です。ですので、現実にある場所を使う必要がありました。撮影監督と美術監督とも相談し、演出の細かな点を元に、船の中の作りを変えました。

――その船の中で響く音も、映画の中でとても印象的に、映画自体のサウンドトラックのように響きます。録音に関して、工夫した点、苦労したことがあれば教えて下さい。

AA 製作準備をしている時、サウンド・デザイナーの友達に脚本とサウンド作りについて相談しました。彼は「台詞が少ないし、低予算の映画ならば、プロのサウンドマンを雇わなくてもいい」と言いました。しかし、この意見は私の正反対の意見でした。私は脚本を書く時から音について考えていたからです。

その後、この映画の録音をしてくれたメーディに出会い、自分の音のイメージを説明しました。彼は見事に私が望んでいた音を録ってくれました。

撮影が開始して間もなく、舞台だった船のそばにたくさんの作業員とブルドーザーが現れました。彼らは近くに沈んでいた船を引き揚げる作業を始めたのです。制作部担当は作業員と話し合ったのですが、結果、彼らは仕事を続け、私たちは撮影中の同時録音を諦めました。

毎日、撮影シーンを細かく記録して、夕方、船の引き揚げ作業が終わった後、昼間に撮ったシーンの音を録り直しました。音の作業は撮影現場で一番苦労したことと言えます。

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